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EP 5

見えざるアルゴリズムの攻撃

ルナミス帝国首都、内務省の地下データセンター。

情報統括局長オルウェルは、無数の魔導モニターに囲まれた指令席で、冷徹にコマンドを入力し続けていた。

「物理的な接触は、あの男の『共感』というウイルスに感染するリスクが高すぎる。ならば……完全に隔離パッケージし、外側から干え上がらせるまでだ」

オルウェルの指が、エンターキーを静かに叩く。

『――作戦名【ソーシャル・クアランティン(社会的隔離)】、実行します』

機械的な音声と共に、帝国の誇る「魔導通信網(T-NETWORK)」が牙を剥いた。

第一の矢は、アルゴリズムの操作による「情報操作フェイクニュース」。

数千万人が利用する動画サイト『T-TUBE』や、SNS『T-BER』のトレンドが、オルウェルの操作によって一瞬にして書き換えられた。

【激震】ポポロ村の真実! 恐るべき洗脳カルトの温床!

【注意】ポポロ村の特産品『太陽芋』には未知の毒が含まれている可能性!

【告発】村長・草壁颯真の裏の顔! 村人を奴隷化する悪魔のメソッド!

根も葉もない嘘だが、帝国の権威とアルゴリズムの力で拡散された情報は、大衆にとって「真実」となる。

これで、ポポロ村への新規の立ち入りや、他国からの行商人は完全に途絶える。

そして第二の矢。帝国の血液たる「経済システム」の遮断。

「ポポロ村に関連するすべての『L-Pay』口座を凍結。同時に、ゴルド商会の物流ルートをシステム上で遮断しろ。これで、あの村には塩一粒、ネジ一本たりとも入らなくなる」

オルウェルは、モノクルの奥で冷たく笑った。

いくら神や魔王を洗脳しようと、現代社会において「情報」と「物流」を絶たれれば、どんな集団も数日で内部崩壊する。暴動が起き、彼らは互いに奪い合い、飢えて自滅するはずだ。

「さあ、見せてもらおうか。君たちの狂気が、帝国の『見えざる手』の前にいつまで保つかを」

***

翌朝。ポポロ村の畑。

「……っ、ぎっくり腰になるわ! なんで創造主たる私が、朝も早よから太陽芋のツルを引っぱらなきゃいけないのよ!」

「文句を言うなルチアナ! 我など、魔王剣をスコップ代わりに使わされているのだぞ! 泥が……我が漆黒のドレスに泥がぁぁっ!」

朝露に濡れた畑の中で、ジャージ姿の女神と、フリルだらけのドレスを着た魔王が、泥まみれになりながら農作業に精を出していた。

昨夜、深夜まで推し活で盛り上がった二人は、今朝キャルルによって「うちの村は、働かないニートには飯は出さない」と叩き起こされ、強制労働に駆り出されたのだ。

「ルチアナ様! 腰の落とし方が甘いです! クワの刃に体重を乗せてください!」

先輩農婦であるヴァルキュリア(麦わら帽子着用)が、ビシバシと熱血指導を飛ばす。

「ふふ、二人とも筋がいいですよ。その調子でツルを引けば、大きな芋がたくさん取れますから」

僕は採れたてのトマトをかじりながら、笑顔で彼女たちに声をかけた。

「ううっ、ソウマぁ! 終わったら、昨日言ってた『太陽芋のホクホク塩バター』作ってくれるわよね!?」

「我には『マイ茄子の冷やし浸し』を要求する! もちろんビール付きでな!」

「はいはい、わかってますよ。頑張った分だけ、ご飯は美味しくなりますからね」

神も魔王も、すっかり「労働の後の美味い飯」という、ポポロ村の恐ろしい依存システムに組み込まれつつあった。

今日も平和で完璧な朝だ。

そう思っていた時。

「あかーんっ!! ソウマ先生、大変や!!」

血相を変えたニャングルが、魔導通信石スマホを片手に、ルナキン・ポポロ支店から飛び出してきた。

「どうしたんですか、ニャングルさん」

「ウチの店のL-Pay口座が、突然全部『凍結』された! それだけやない、ゴルド商会のネットワークから完全に弾き出されて、他国からの密輸ルートも全部遮断されとる! 完全に経済封鎖や!」

ニャングルの悲鳴に、畑仕事の手伝いをしていた駐留兵たちも顔色を変えた。

「しかもこれ見てみい! T-TUBEのトレンド、ウチの村の悪口フェイクニュースで埋め尽くされとる! 『ポポロ村の野菜は呪われてる』やと!? ふざけんな、帝国め!!」

ニャングルが差し出した画面には、オルウェルが仕掛けた情報操作の数々が並んでいた。

資金の凍結と、情報による社会からの完全な孤立。

帝国が本気で、この村を兵糧攻めで潰しにきたのだ。

「ソウマ、どうする? 私が今から帝都に行って、あの『えるぺい』とかいうのやってる奴の首、ネジ切ってこようか?」

キャルルが、手にしたトンファーをギリッと鳴らす。

「待って、キャルルさん。暴力はダメだ」

僕は、ニャングルの魔導通信石を静かに受け取り、画面に並ぶ「ポポロ村への誹謗中傷」と「口座残高ゼロ」の表示を見つめた。

そして、フッと吹き出した。

「ソウマ先生……? 何がおかしいんや?」

「いや。……ルナミス帝国のエリートさんは、ずいぶんと『デジタルの数字』がお好きなんだなと思って」

僕は通信石をニャングルに返し、広大なポポロ村の畑を見渡した。

裏山では、天界の最終兵器・ガオガオンが凄まじいスピードで岩盤を砕き、農地を無限に拡張し続けている。

畑には、収穫を待つ月見大根、太陽芋、ネタキャベツが山のように実り、トライバードやロックバイソンの畜産も完璧に機能している。

「口座が凍結されても、僕たちの畑の野菜が消えるわけじゃない。ゴルド商会から弾かれても、明日食べるパンと肉は、この村で全部自給自足できている」

僕は泥だらけのクワを肩に担ぎ、村人たちに向かって笑いかけた。

「帝国の人は『数字(お金)』がないと生きていけない可哀想な人たちだ。でも、僕たちにはこの手で育てた『土と命』がある。……そうでしょう?」

僕の言葉に、周囲の村人たちの瞳が、不気味なほど濁りのない光を放った。

「その通りです、先生」

「画面の中の『数字』や『嘘』に怯えるなんて、帝国の人は哀れですね」

「私たちは、先生の教えと、この畑があればそれでいい」

誰一人として、パニックを起こさない。

誰一人として、フェイクニュースに怒らない。

オルウェルが仕掛けた『近代的なパニック(経済と情報の遮断)』は、ソウマへの信仰によって完全に「自給自足のムラ社会」へと退行したポポロ村の狂気の前では、文字通り「何の痛痒も感じない」ただの空回りに過ぎなかった。

「……ねえソウマ。口座凍結とかどうでもいいんだけど」

ルチアナが、通信石の画面を覗き込みながら、不機嫌そうに唇を尖らせた。

「通信制限かけられてるせいで、月人君の最新PVの読み込み(バッファ)が遅いんだけど!? これじゃ高画質でオタ活できないじゃない! 帝国、マジで許さないわよ!?」

「我も同感だ! 推しの尊い顔がモザイク状になるなど、神と魔王への冒涜に他ならん!」

帝国の攻撃が唯一クリティカルヒットしたのは、「ネット回線が遅くなって動画が見られない」とブチギレる、ダメになった神と魔王の逆鱗だけだったのである。

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