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EP 4

ディストピア・ガールズトーク

「ギャアアア! 月人君のウインクきたぁぁぁっ!」

「尊い! 尊すぎるぞルチアナ! なんだあの輝きは、我が闇魔法すら浄化されそうだぁぁぁっ!」

ポポロ村の集会所は、今や完全に「限界オタク女子の鑑賞会会場」と化していた。

魔導冷房クーラーがガンガンに効いた室内で、コタツに首まで潜り込んだ女神(創造主)と魔王(絶対悪)が、両手に赤と青のペンライトを握りしめ、画面に向かって悲鳴を上げている。

「ねえソウマ! 今の月人君のターン、見た!? 汗の飛び散り方まで芸術的じゃない!?」

「ええ、見ましたよルチアナさん。あの角度でのターンは、日々の鍛錬の賜物ですね」

「ううっ、我も福岡アリーナに行きたかった……っ。このタオルで月人君の汗を拭いてあげたいのだぁぁっ!」

「ラスティアさん、泣かないで。はい、新しい肉椎茸丼とおかわり用の芋酒ですよ」

僕はニコニコと微笑みながら、二人の絶対者の間に座り、空になったストロング缶を片付け、ホカホカの夜食と酒を延々と補給し続けていた。

「もうっ、ソウマったら気が利くぅー! 天界のポンコツ天使どもに見習わせたいわ!」

「全くだ! 我がアバロンの側近ルーベンスなど、小言ばかりでこんなに優しくしてくれないぞ! ソウマ、貴様もう我が軍の宰相になれ!」

「ははは、僕はただの村の農家ですから。お二人が楽しんでくれるのが一番の報酬ですよ」

僕は、彼女たちの髪を交互に優しく撫でた。

神の威厳も魔王の恐怖も、ここにはない。あるのはただ、終わらない激務から解放され、好きなものを好きだと大声で叫べる「究極の心理的安全性」だけだ。

(ブラック企業のトップ層には、こういう徹底的な『甘やかし』が一番効くんだよな……)

「……本当、ソウマはバカな女をたらし込む天才だよね」

部屋の隅で、キャルルが腕を組みながら冷たく言い放った。

彼女の背中には、いつでもトンファーを抜けるように微かな紫電が走っているが、完全にリラックスして「ただの酔っ払い」と化した神と魔王からは、一切の殺気を感じない。

「まあ、ソウマに害がないなら別にいいけど。……あいつら、明日から畑仕事手伝わせるからね」

「お手柔らかにお願いするよ、キャルルさん。彼女たち、きっとクワの持ち方も知らないから」

キャルルはフンッと鼻を鳴らし、自分の人参抱き枕を抱え直した。

一方、窓の外。

村人たちは、この信じられない光景――世界を滅ぼす神と魔王が、村の青年におつまみを要求して笑い転げている姿――を、完全に無表情のまま見つめていた。

「創造主も魔王も、ソウマ先生の御前ではただの小娘に過ぎない」

「先生の慈悲(肉椎茸丼)が、世界の理を書き換えたのだ」

「ああ……先生の教えこそが唯一絶対。先生に逆らう者は、神であろうと救われない」

彼らの瞳に宿る、濁りのない狂信の光。

武力も魔法も使わず、ただ「共感」と「食事」という日常の行為だけで、世界のトップ2を完全にシステム(村)の一部として吸収してしまった。

その事実が、村人たちのソウマへの信仰を、もはや後戻りできないカルト的な領域にまで押し上げていた。

***

しかし、この「心温まる(?)ガールズトーク」の光景を、全く別のベクトルから、恐怖と戦慄をもって監視している男がいた。

ルナミス帝国首都、内務省の地下深く。

情報統括局長オルウェルは、冷たい汗を額に浮かべながら、巨大な魔導モニターに映し出された映像を凝視していた。

「……あり得ない。いくらなんでも、論理が破綻している」

彼の前には、帝国全土の魔導通信網(T-NETWORK)を通じて傍受した、ポポロ村の隠しカメラの映像が展開されていた。

そこには、世界の絶対者たるルチアナとラスティアが、泥だらけの青年ソウマに甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、涙を流して酒を飲んでいる姿がはっきりと映っている。

「武力による威圧でもない。魔法による精神支配の痕跡もない。……ただの『食事』と『会話』だ。それだけで、あの神と魔王が自ら己の存在意義を放棄し、あの村の……ただの『村人』に成り下がったというのか!?」

オルウェルは、『1984年』や『群集心理』のロジックで国民を完璧に管理してきた冷徹な官僚だ。

人間は、利益(金)と恐怖、そして計算された娯楽によって統制される。それが彼の信じる絶対の真理だった。

だが、あの村で起きていることは違う。

ソウマは利益も恐怖も与えていない。ただ「無償の奉仕」と「狂気的なまでの共感」で、相手の心の隙間を埋め尽くしているだけだ。

「これは……思想の感染パンデミックだ。あの男は、関わる者すべての『自己』を溶かし、自分というシステムに依存させる、致死性のウイルスだ!」

オルウェルは、モノクル(魔導多機能眼鏡)の奥の目を血走らせた。

ルナミス帝国の「L-Payによる消費社会」は、国民の欲望をコントロールすることで成り立っている。

だが、ポポロ村の連中は欲望すら持たない。金貨をゴミのように踏みつけ、ただ「ソウマ先生のために働くこと」に究極の幸福を見出している。

もし、この『幸福という名の狂気』が帝国市民に感染したら、帝国の経済システムは一瞬で崩壊する。

「……軍事力ではダメだ。キュロスを派遣しても、あの神々のように洗脳されて終わるだけだ。ならば……」

オルウェルは、コンソールのキーボードを激しく叩き始めた。

「情報と経済。……私の持つ『見えざる手』で、あの村を外側から完全に干え上がらせ、社会的に抹殺してやる」

冷徹なる帝国のオルウェルが、ついにポポロ村というバグを完全に排除すべく、そのデジタルの牙を剥いた。

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