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EP 7

神の兵器 vs 油まみれの整備士

ゴゴゴゴゴ……ッ!!

聖獣機神ガオガオンの背中に搭載された「連装魔導砲」が展開され、砲口に眩い光が収束していく。

周囲の空気が急速に熱を帯び、ポポロ村の広場を囲む木々の葉が、その熱線プラズマの余波だけでチリチリと焦げ始めた。

「……あかん。あんなモン撃たれたら、村どころかこの緩衝地帯一帯が地図から消え去るで!」

ニャングルが悲鳴を上げ、腰を抜かした。

元・天使族長のヴァルキュリアでさえ、顔面を蒼白にして震えている。

「逃げてください、ソウマ先生! ガオガオンのAIには『慈悲』という概念がありません! 完全に神の敵を殲滅するまで止まらない、絶望の具現化です!」

圧倒的な絶望。

だが、僕の目には、その「絶望の具現化」が、どうにも『整備不良の可哀想な機械』にしか見えていなかった。

「……キャルルさん。ちょっとお願いがあるんだけど」

僕は、片手にスパナ、もう片方に機械油グリスの詰まったポンプを持ちながら、隣に立つ最強のヤンデレ雷神に声をかけた。

「何? ソウマ。あいつの首、引っこ抜いてくればいい?」

キャルルは、両手のダブルトンファーからバチバチと紫電を放ちながら、獲物を狙う肉食獣のような目をしている。

「いや、違うんだ。あんな立派な重機、壊すのはもったいない。うちの裏山の岩盤を砕くのにピッタリだ」

「……じゅうき?」

「うん。だから、絶対に壊さないで。僕がアーム(前脚)の関節に油を差す間、少しだけ気を引いておいてくれる?」

僕の言葉に、キャルルは一瞬キョトンとした後、ニヤリと好戦的に笑った。

「わかった。ソウマの『新しいおもちゃ』、傷つけないように遊んであげる」

ズンッ!! と、キャルルが地面を蹴った。

マッハの踏み込み。彼女の姿が赤い残像となり、次の瞬間にはガオガオンの巨大な顔面のすぐ横に到達していた。

『――ターゲット接近。脅威レベル特級。迎撃行動に移行』

ガオガオンの無機質な機械音声が響き、魔導砲の狙いが僕からキャルルへと逸れる。

同時に、その巨大な右前脚が、キャルルをハエのように叩き落とそうと振り下ろされた。

「……遅い」

空中でトンファーを構えたキャルルが、その巨大な前脚の側面に、的確な蹴りを叩き込む。

破壊しないよう、絶妙に力を逃がしたその一撃は、ガオガオンの巨体をグラリと横に傾かせ、右前脚の関節部分を大きく無防備に晒した。

「ギギギギギギギッ……!!」

その時、右前脚の付け根から、耳障りな金属の摩擦音が鳴り響いた。

「やっぱり! シリンダーの油切れだ。あんな状態で動かしたら、軸が焼き付いちゃうだろ!」

僕は農機具のメンテナンスを怠るズボラな持ち主(この場合は神様だが)に憤りを感じながら、工具箱を提げてガオガオンに向かって走り出した。

「せ、先生! ダメですッ!!」

ヴァルキュリアが絶叫する。

「ガオガオンの周囲には『神聖防壁イージス』が展開されています! 敵意や魔力を持った者が触れれば、細胞レベルで分解されて……!!」

パキィィィンッ!

僕がガオガオンの懐に飛び込んだ瞬間、薄いガラスをすり抜けるような音がした。

僕の体は、分解されるどころか、火傷一つ負うことなく、ガオガオンの右前脚の装甲にピタリと張り付いていた。

「……へ?」

ヴァルキュリアが、信じられないものを見るように目を丸くした。

当然だ。

神聖防壁は「敵意」や「攻撃の意思(魔力・闘気)」を感知して対象を消滅させるシステム。

対する僕の脳内は「あーあ、可哀想に。こんなにギシギシ鳴らせて。早く油を差してあげなきゃ」という、農機具への純粋な『慈愛とメンテナンスの義務感』だけで100%構成されていたのだ。

防壁のAIシステムは、僕を「脅威」ではなく「無害なホコリ」か何かと誤認し、完全にスルーしてしまったのである。

『――エラー。不明な物体が右前脚に付着。攻撃判定……ゼロ。魔力……ゼロ。無害と判定』

ガオガオンのAIが混乱する中、僕はスパナを使い、右前脚の関節部にあるメンテナンスハッチのような装甲の隙間を、テコの原理でガコンッ!とこじ開けた。

「うわ、ひどいなこれ。天界は砂埃が多いのか? フィルターが詰まりきってるじゃないか」

僕は腰に下げていたボロ布を取り出し、シリンダーの隙間に溜まっていた黒いススやゴミを、手慣れた手つきでキュッキュッと拭き取り始めた。

そして、ピストン部分にグリスガンを押し当て、上質な機械油をたっぷりと注入する。

「よし、これで回してみて。馴染むはずだから」

僕が装甲をポンポンと叩くと、上空でキャルルと交戦(じゃれ合い)をしていたガオガオンが、再び右前脚を動かした。

スゥゥゥゥゥン……。

先ほどまでの「ギギギギッ」という不快な悲鳴が、嘘のように消え去っていた。

極限まで滑らかになったシリンダーの動き。摩擦抵抗がゼロになったことで、ガオガオンの右前脚は、設計時のスペックをはるかに超える恐ろしいスピードと精度で駆動した。

『――状況更新。右前脚部の出力、一時的に400%向上。機体ストレス値、急激に低下。……非常に、快適』

無機質なはずの機械音声に、ほんの少しだけ「うっとり」としたような響きが混ざった。

「ほら、やっぱり油切れだった。次は左脚だ。あっちもちょっと排気音が詰まってる気がする」

僕は右前脚から飛び降りると、今度はガオガオンの腹の下を潜り抜け、左脚の装甲へと取り付いた。

そして再び、スパナとボロ布と油を使って、天界の最終兵器を「極上のメンテナンス」で労わり始めた。

神のシステムが、バグ(ソウマ)の放つ「圧倒的な農機具への愛情(狂気)」によって、未知のエラーを吐き出し始めていた。

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