第二十一席【文化祭 前編】
僕のクラスの出し物は、戦国喫茶『牟佐の國』である。最近、ちょうど戦国時代を舞台にしたアニメがヒットしているのでそれにあやかった形だ。
クラスでは、班に分かれて着々と準備が進められている。ちなみに、準備期間の三日間は授業が無い。
僕は備品資材班で包装資材の仕分けや組み立てをやっているが、高いところの装飾なんかの手伝いも任されていた。
「あー、中原ストップ。そこ、もーちょい右だな」
「わ、わかった。こう?」
「うん、そんくらいだな。次のとこ、石川たちの方がまだだからそこまででオッケーだぜ。お疲れ」
こういった作業以外のときは相変わらず、話し相手がいないので片隅ボッチが基本仕様。でも強いていうなら、一人でラノベを読んでいることの多い北原君(こう言っては失礼だが、典型的なオタク感)とは話すことが多いというか、話しかけにくるのでまともに話せるようになった、というのはある。
作業を終えて床の上で休憩していると、やはり北原君。
「なかはらー、お疲れさーん」
「お疲れ」
「あれだよな。背が高いとやだね、使われちゃうもんね」
「あーうんまぁ、でも嫌じゃないけどね」
「そういえば、部活やってるんでしょ?」
「同好会だけどね」
「どう? 先輩達とか厳しい?」
「いや、優しいかな。北原君はやってないんだっけ」
「そうだよ。だって、面倒くさいし、自分の時間取られたくないから。時間は有効活用しないとさ。自分のために生きてるんだから」
「あぁ、そういう……」
「出し物は何かやんの?」
「部活の?」
「そう」
「創作した物語を高座で講談形式で読むよ、部員全員で。短い時間、なんだけどね」
「ふーん、みんなの前でかぁ。えそれ大丈夫なの、できんの?」
「不安だけどまぁ、やってみたいから」
「そーなんだ。なんか変わったよな。最初の頃、もっとそういう青春界隈じゃなくって、日陰組かと思ってたけど。いま楽しそうだもんな」
僕は側から見ても、目に見えて楽しそうにしていたようだ。
「……そっか、そうかもしれないね」
「ちょっと雰囲気も、明るくなったしな」
「え、ほんと?」
そこへ、クラスの女子がやってくる。
「ねぇねぇ中原君。あっちで呼んでる子がいるんだけど」
目をやると、なんと田浦さん。
「え……な、なに。彼女出来ちゃったの中原。お前、裏切りものかよ……!」
「いい、いやいやいや違うよ。そういうのじゃなくって、ぶ、部活の人だから」
「そういうふうに言うんだみんな。そんなこと言って、結局くっつくんだろ分かってるよ!」
「えぁ……じゃ、じゃあごめん。僕ちょっと行ってくるね」
「あぁーはいはい。いってらー」
行ってみると、田浦さんは僕を見上げてこう言った。
「いきなりでごめん、うちのクラスの準備ちょっと手伝ってくれない? お化け屋敷やるんだけど、高いところの取り付け、人手が足りなくって。男子いま、買い出しとか木材のカットとかでいなくって。でもそこやらないと、その先が進まないから」
「わかった、休憩中だったし行くよ」
ということでクラスの人に断りを入れてから、僕は田浦さんのもとへ。
教室はお化け屋敷の見た目を醸す外観になっていた。どうやら、中では仕切りを駆使しているらしく、迷路のような感じだ。背の高いパーテーションの上に取り付けるLEDなんかを固定するのに、僕の手が必要だったらしい。いくつか取り付けてから、そのあとは掲げる看板の位置の目安を決めるために、僕がまた使われた。
一通り終えると、戻りがけの僕に田浦さんはジュースを手渡してくる。
「これ、あげる」
「え……ありがと。いいの?」
「良くなきゃ渡さないでしょ」
「まぁ……」
「ありがと、助かったわ」
「うん。これ、ありがとう。それじゃ戻るね」
「あっちょっと待って。そういえば、文化祭」
「ん?」
「文化祭……い、行くから。中原君のとこ。そしたら案内してよ」
「ごめん、僕こんなだから接客組じゃなくてさ。裏方なんだ」
「喫茶よね? 何か作るの?」
「ううん。溜まったお皿洗いとか、お店の消耗品補充」
「……ふーん。なんかもったいないわね、背高いから衣装とか似合いそうなのに。
でも、お勧めとかあるでしょ?」
「あぁ……チョコ団子も面白いと思うけど、きっと抹茶と和三盆が良いと思う。和三盆は和菓子の家の人がいて、そこから調達するし、抹茶は茶道部の人が監修してるから本格的で、試食のときもすごい高評価だったんだよ」
「へぇ……そうなんだ。じゃそれ頼んでみる。あのさ、お化け屋敷も……良かったら来てね」
「うん、田浦さんオバケやるの?」
「私も裏方。効果音担当になってるから。
カップル達を脅かすのに意気込んでる人達がいて、なんか馬鹿みたいだけどね」
「あはは……」
「中原君は……その、一日目ってまだ――」
そこで予鈴が鳴る。
「あごめん、戻らないと。今度仕分けの続きやるんだ。かなり大量で、組み立てるところも僕らでやらないといけないから、急がなきゃ。お互い頑張ろうね」
「うん……そうね」
⭐︎
文化祭前日。校舎の内外に設置された大きな掲示板には、各種出し物が掲示された。
その中にある僕らが作ったポスターはこんな感じ。
――心揺さぶる伝統話芸へいざなう! 昨年コンテスト二位の同好会が送るショートストーリー!
中央には『だんたりおん』とドデカく書かれてあり、横に小さめに講談探究同好会。背景には和柄を用いて、全体は淡いトーン。くっきりした文字は達筆(部長が下書きしたもの)。
キャッチーなワードがあった方が良いという意見から『だんたりおん』を入れ込んだのだが、これは同好会の二つ名的なもので、星丸先輩の言葉を思い出した僕が提案したことで決したのだった。
「これは目立つよねぇ! あたしも、そこの飾りのシール(扇子や座布団など)カット頑張った甲斐が、これはありますなぁ」
玉縄先輩に部長が続く。
「なかなか、いい出来栄えよね。もっと早くこうすれば良かったわ。たった一言入れるだけなのに、こうも見栄えするものなのね」
「俺もびっくりだわぁ。まーそりゃあそうだ、講談探究同好会だけだと『その他大勢』に埋もれちゃうかぁ」
予想を上回る出来栄えに感心して沈黙している僕に、田浦さんがツンと腕を突いた。
「良い感じじゃない? このワードのインパクトはきっと強いでしょうね。中原君はどう?」
「うん、これなら目立ってそうだし。なんかかっこいい」
「名前思いついた中原君のおかげよね」
「えっいや、この言葉は星丸先輩のおかげだから、僕が考えたわけじゃ……」
「それでも思いついたのは中原君でしょ。自信、持ちなさいよ少しは。立派な一員なんだから」
一員……まだ目立った成果を出せていない僕にとって、その言葉はたぶん、田浦さんが思っている以上に僕の心に響いた。
⭐︎
文化祭『いちむさ祭』は一日目が校内向け、二日目が一般解放日だ。やはり目玉は、二日目だろう。野外と体育館のステージを使って各種イベントが盛りだくさん。僕らも体育館のステージで午後二時から出演する。
しかしその一日目、僕は放心状態で皿を洗っていた。
原因は、昼過ぎになるというのに、いまだ玉縄先輩を誘えていないことにある。そんなことだから、チャラい見た目の安西君から突っ込まれてしまった。
「おーい中原、お前なに潔癖界隈の人?」
「え……?」
「すげー洗うじゃん。アライグマかよ。そんくらいにしといてやれ、もーピッカピカやぞ」
気づいたら一枚の皿をウラオモテ際限なくひっくり返しながらずっと洗ってしまっていたらしい。
「あぁ……ご、ごめん」
「はは、ウケるお前」
なんて具合であった。
文化祭二日目は一般解放のため、その喧騒に紛れる形でひっそりデートする二人も多くなるのだとか。たしかに、今日男女が二人で仲良く歩いてたら目立つだろう。それに、料理研究部のイベントは二日目しかやらない。それ狙いもきっと多いはず。
そういえば、田浦さんは僕のクラスへ来てくれたのだろうか。やっぱり行かないとだよな……口約束しちゃったし。とは言え正直なところお化け屋敷って、ワッと出てドキってなる系だろうからあまり得意ではないのだが……そこは仕方がない。僕は田浦さんのクラスへ。
受付には、裏方と言っていたのに田浦さんがいて、僕は廊下の角にいったん隠れてしまった。本当に来たんだみたいな感じに見られても、恥ずかしいからだ。もう少し間を空けてから行くべきか……なんて考えていると、不意にかかる声。
「ねえ」
「わっ……!?」
田浦さんが、目の前にいた。
「いや、驚き過ぎ。ていうかなんで隠れるのよ。いま見たでしょ、こっち」
バレていた。
「え、いやその……」
「まあいいけど。ちゃんと来てくれたのね。受付担当の子がなんか代わって欲しいって言い始めて、今だけやってるの。どうせ彼氏とオカケンの占いやりに行ったのよ。まー別に自由だけど、あからさまにするのやめてほしいところよね。
で、このあとは空いてるんだけど。だから……一緒に行く?」
「あー、え?」
「……だから! 一人じゃ入り辛いだろうし、一緒に行くか聞いてるのお化け屋敷!」
「あ、あぁ……はい。じゃあ一緒に」
なぜに怒られたのか。
「あと十五分待って。そしたら――」
「あぁいたいたーッ、ミーちゃんみーっけい! ズッキーも。よッ!」
ぴょーんとこっちに来た玉縄先輩に、なぜか田浦さんは凍りついた顔に。僕は心臓が飛び出そうだった。
「た、玉縄先輩! どど、どうしたんですか?」
「いやいや、どしたもこしたもないですわ。一年の出し物なーにがあるのかなーって、周りにきたでござる。
えへへー、チラッと聞いちゃったぁ。ミーちゃんお化け屋敷の人なの? ズッキーもこれから行く感じ?」
「あ、そっそうなんです。実は田浦さんとこのあと一緒に。玉縄先輩も、その……良かったらどうですか?」
誘えたー! ちょっとだいぶニュアンスが小規模だけど。
「わぁもちろんいくいく! ほいじゃ三人でいこーっ!」
「でも田浦さん、あと十五分くらい受付あるので、もう少し後なんですけど」
「あそーなん? じゃ、それまでどっか一緒回る?」
「……え。え。良いんですか?」
「なにが?」
「あの、いえっお願いします……」
平気か? 僕は明日、死ぬんじゃないか。
「おっけー! じゃあミーちゃんあとでくるねっ!」
「あーそーですか、どうぞご勝手に」
そして僕は、棚ぼた的に玉縄先輩と初日の校内めぐりを、と言っても文化祭展示コーナーを回る程度だが、できることとなったのだった。
戻ったお化け屋敷では、五感を利用した立体的な仕掛けが施されていて本格的な様子だったのだが、どちらかといえば狂気的に見開いた顔の田浦さんが一番怖かった。
何か、気に障ったことしてしまっただろうかと悩む僕に、田浦さんは『別に』としか言わない。




