第十四席【コンペ】
合同会に向けた部内コンペの結果……出演者は、玉縄先輩と田浦さんに決した。
金沢先輩は落選したのではなく、部長同様に辞退をした。そのため僕と田浦さん、そして玉縄先輩という三人の中で多数決が行われた形だ。その中で、僕は落ちてしまった。思ったよりもこれが悔しい。しかし、時間はまだある。文化祭もその先も……玉縄先輩がいるときまでには必ず成長したい。
話は変わるが、金沢先輩がわりと部室に来る。これは部長曰く、僕がいるから揶揄う事が楽しくて頻度が増えているのだとか……。
真夏の日差しジリつく、この日もそうだった。
机を挟み向かい合う、僕と金沢先輩が二人きり。放課後すぐのことだ。
厳密に言えば、うだつの上がらぬ創作に手をつけつつ待っていたところ、金沢先輩がにこやかに前に座ってきた。これに何かと思えば、重要な打ち合わせをしようと持ちかけてきた流れ。
「打ち合わせ……て、なんですか?」
「またまたぁー、分かるでしょー? 他でも無し、タマちゃんのことに決まってるじゃないのさ」
「えっ……」
「えへへ。中原君……タマちゃんにさ、ベタ惚れなんでしょ?」
「っ……!? い、いえ……」
「あーもう隠さなくっとも良いじゃない。部内恋愛なんてよくあることなんだから。俺だってねぇ、実はその口だよ?」
「どっ……どういうこと、ですか?」
「あのね、こりゃみんなには内緒だけど……俺、本当はユミルと付き合ってるの」
「エッ……!?」
僕の目が過去最大に驚きを示したであろうも束の間。
「あはは。ま、嘘なんだけど」
嘘ばっかじゃん! まったく、何度ダマされても学習しない自分が悲しい。『講釈師、見てきたように嘘をつき』――なんて言うそうだが、まさにそれ。もっとも金沢先輩は講釈師ではないから、ただのペテン師である。
「でもねぇほら、他の部じゃよく聞くし。それはリアルなわけですわ。
何より、一途に恋してる姿を見せられちゃあねぇ。何かにつけていっつも、気づかれないようにタマちゃんのこと見つめてるもんねぇ、どんなこと考えちゃってるのかなー?」
「いやっ、別に……」
「ふふ、だから手伝ってあげたくなるじゃないの。まして、初めてできた後輩なんだからね。俺にとっちゃ中原君はさ」
「まぁ……その、気持ちはもちろんその、嬉しいんですけど」
「あら、好きってとこは否定しない? こりゃ認めたね?」
「う……」
「あっははは! いいじゃんいーじゃん、誰にも言わないからさ」
おかしいな。ある日、僕の気持ちを匂わす言葉を、本人もいる面前において平然と暴露したのはどなたか。
とは言え、否定すればするほど、このイタズラ魂に火をつけてしまいそうなので、このあと結局認めてしまった。
「――では、仲良くなるための作戦を立てよう」
「作戦、ですか……」
「そうそ。今月は知っての通り、合同会があるじゃない? でも、その前に合宿をやるってのは聞いたかなあ?」
「聞きました。二泊三日で、たしか行われるんでしたよね」
「そそ。場所は毎年決まってて、栃木県は日光市、鬼怒川の近く。緑多し温泉湧き出る名勝地。まぁ林間学校とかで行ったことある人もいるかもだけど、うちは毎年そこにある民宿を借りててさ。
で、最後の日にはみんなで花火をする。これがお決まりなわけね」
「はぁ……」
「そこでだッ! そのときに、二人っきりになるように俺が仕組んであげるから、ムードのある花火の夜にもーっと接近してみるってのは、これどーかねえ?」
「ど、どうなんでしょ……」
誰かの力を借りて近づくなんて、きっと情けない話。男なら態度と行動で堂々と示せと、田浦さんあたりからは酷評されそうである。もっとも、これを誰にも話しちゃいないが。
しかも大前提、二人きりでとか……そんなのどうせ緊張してマイナスにしか働かなさそうではある。
でもおかしい……断る言葉が僕の口から、なぜか恨むらくは出てこない。
「もちろん、他にもいろいろフォローする。大船のつもりで任せてちょーだいよ」
泥船に乗せられてしまいそうな気がしなくも無い。
「……はぁ」
「で、最終目的地としては、文化祭を一緒に回る約束を取り付けること」
「あ、文化祭……」
「そう。一大イベントでしょ? それ以降にカップルんなった人、かなり多いって噂もあるし。
一説によると、一緒に料理研究部が開いてるワークショップに出ることが秘訣らしい。そこに二人で参加すると、想いが実るとか実らないとか」
胡乱な話……講談の中にいる気分だ。
「そんな顔しないの。ほら、ものは試し! まずはお誘いからだ。そしてお誘いの前に下準備だ、もっと距離を詰めておこう。そのための作戦さ。題して、『合宿で急接近仲良し計画』!」
金沢先輩のネーミングセンスが泣けるほど乏しい件。
「あの……ど、どうしてそんな。そうまでして、僕を助けてくれるんですか」
「いやいや中原君。そんなねぇ、敵であるはずなのに、なぜかピンチを助けてくれる謎めいた悪役に対するような問いをされても困っちゃうでしょうよ。
俺はこういうのが好き、それだけ。あとなんか、面白いじゃないこういうのって。ははっ」
「…………」
この人を信じて良いのだろうかと思わなくもないものの、僕の出した結論は――
「……お、お願いします」
「おし、任せとけっ」
⭐︎
夏休みに入ると講談探究同好会は、引率の津田先生の運転で栃木県日光市にある民宿へ、合宿を敢行した。
五人プラス先生一人なので、ワゴンに全員が乗る形。助手席に金沢先輩。その後ろに、部長と田浦さん、最後部に僕と玉縄先輩……もうさっきから緊張して手汗がひどいのだが。ちなみにこの席順は、田浦さんが部長の隣が良いと言ったので、必然的な配置である。
「あーこれ! ズッキー見て見てぇほら! これ、うちのそばの猫さん。近所の駄菓子屋さんで、ご飯もらってるみたいでさぁ」
「か、可愛いですね……(スマホの中で、猫を背景に無垢な笑みを向ける先輩が)」
「そでしょー? あでねぇ、ここの駄菓子屋凄いんだよ。あれがあんの、中に粉が詰まってるやつ! ええと名前なんだっけなぁ……てあれ、大丈夫? 顔色悪くない?」
「あっ……い、いえ平気です」
「酔い止めのヤツあるよ、飲む? あ、水ないや。カフェオレでもへーきかな」
「だ、大丈夫です。僕、あんまり車酔いしない人なので」
「ほんとー? まぁでも言ってたもんね。じゃあ寝不足かー? ダメだよちゃんと寝ないと。練習励んでるのは知ってるけどさ。
やー上手くなってってるもんね地道に! 何より、自分のやり方をなんとなくでも、いま必死に掴もうとしてる感じ? そういうの、あたしも感じるもん」
僕はあれから、自分の読み方というのを模索した。たぶん今の僕は、コンペの時に言われたようにまだ硬い。
星丸先輩に言われて、読んだ気持ちを大事にそれを乗せるように努めてるが、一朝一夕にはいかないのだ。だけど、前より読み自体を愉しもうとはしている。たぶんそれは本当に些細な、そして地道な取り組み。
それを、玉縄先輩はちゃんと分かってくれていた……そんなのズルい。涙でも出そうな気分だったし、嬉しくなった心はなんだかうるさい。
「玉縄先輩……分かるんですね」
「そりゃあだって、一緒にいっぱいやってるじゃーん! だからそんくらい朝飯前。今は夕飯前か、あははっ」
「ありがと、ございます……」
「あぁー、んー? 何が?」
「あっその……えっと、いつも練習付き合ってくれて、感謝という……」
「あたしも教えることで学びに繋がるとか、気づきに繋がるとか、そういうのすっごいあるから。良いんだよ、気にせんでぇ。
だから……ええと、んーなんだっけ? お互い様みたいな言葉」
「え、何でしょう……相互利益?」
「ちがうちがう、そんな硬いのじゃなくてもっとやらかい――」
「互恵関係……ですかね」
「なんかもっと硬くなっとる!」
そこで前からため息混じりの田浦さん。
「ウィンウィン! ですよね。何で出てこないんですかこんな簡単な言葉」
「それだっ!」
「ああ……」
そこで運転席から声が。
「おうい、お前ら。もう直ぐ着くぞう。着いたら挨拶。夕飯の時間までに各自荷物をまとめておけえ。おろし残し、無いようになあ――」
⭐︎
宿泊先は、古民家を改築した様子で小洒落た印象。二階に各部屋があって、一階に食堂とトイレや風呂があるようだ。畳の客間もあって、そこではミーティングなどができる様子。
合宿初日は、呼吸法と発声のトレーニングを夕食前まで行い、そのあとは軽くミーティングを通して明日以降の確認。これで終了となる。そうなると、夜。金沢先輩と同室……なんかちょっと不安――




