表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はずれスキルの探偵社  作者: 山岸マロニィ
Ⅲ. 最後の晩餐はかく語りき
23/30

 膠着(こうちゃく)した時間の中で、焦りだけが募っていく。

 そんなジャックの前で、ロビンは悠々と双剣を揺らしていた。

「助けに行かないの? 仲間でしょ。それとも……」

 ロビンの口元が歪む。


「君はいつだって、『生きろ』の言葉で責任を放棄するのかな?」


「黙れクソが!」

 ジャックはロビンに拳銃を向ける。反射的に撃った弾はだが、ファントムに弾かれて届かない。


 だが、焦りはジャックだけのものではなかった。

 ロビンがジャックに意識を向けているうちに、ジョーカーが動こうとした。そっと距離を置き、電波塔に向かおうとしたのだが。


 ロビンの手が動く。素早い投擲(とうてき)で放たれた右手の剣が、ジョーカーの背後を襲う。

「避けろ!」

 ジャックの叫びが届く前に、ジョーカーは身を翻した。なびいたコートを貫通し、剣は少し先のレンガに突き立つ。


「行かせないよ」

 ロビンは言った。


「クッ……!」

 こんな化け物をどうしろと言うのか――!


 冷や汗を拭いもせずに、ジャックは銃口をロビンに向け続ける。ジリジリとした緊張が、彼の精神を削っていく。


 そんな様子を楽しむように、ロビンは微笑んだ。

「僕の目的はその女の子なんだ。電波塔のスナイパー君は取引材料に過ぎない。その子を渡せば君は自由だ。ねぇ、それで楽にならないか?」

「ふざけるな」


 ジャックは歯ぎしりする。

 そして考えた――キングなら、この状況をどう打破するだろうか。


 探偵社のはじまり――いや、帝国軍の極秘特務機関時代から、キングの冷徹な判断力を、ジャックはよく知っている。


 彼は背後に横目を向けた。壊れた車に座るキングは、ごく平然としているように見えた。


 ……恐らくキングには、この状況を打破する手札が見えているのだろう。

 それは何か? 俺が見えていないものは何なのか?


 キングの言葉を思い出してみる。

 決して取り乱すことがない彼に、何がそうさせているのか、聞いたことがある。

「簡単なことだよ」

 と、彼は笑った。

「私より優秀な仲間がいるんだから。私は座っているだけで、全部うまくいくんだよ」


 ――仲間。

 そうか……! とジャックは顔を上げた。

 しかしそれには、相手に悟られない必要がある。ロビンの注意を引き付け、振り向かせてはならない。


 そして、タイミングを間違えれば、全てが終わる。


 ジャックはロビンを睨んだまま、三秒先を見据える。もう三秒先、そのもう三秒先――。


 三秒、三秒、三秒、三秒……。


 繰り返し見る景色は今と変わらない。それでも「それ」を見る時まで、彼は未来を繰り返す。


 ――そして、変化が見えた時、ジャックはジョーカーに叫んだ。

「離れろ!」


 同時に地を蹴り、横っ飛びに身を踊らせる。全力で車に向かい、キングの膝で眠る少女を抱えて、反対側へ向かい車を飛び出した。


 一方、ロビンは動かない。ファントムの盾を信頼している彼は、頭上からの攻撃の可能性を見失っていたようだ。


 ――次の瞬間。

 鼓膜を破らんばかりの爆音が響いた。地面が揺れ、レンガの破片がジャックの背中に降り注ぐ。少女を抱えて地に伏せて、瓦礫から彼女をかばう。


 ……数秒後。

 嘘のように静まり返った公園を、ジャックは振り返った。


 ロビンのいた辺りに、大きな穴が穿たれている。

 そして、電波塔の上から誰かが叫んだ。


「うちの大事な相棒に何してくれてんだよ、このオタンチン!」


 ――クイーンだ。

 彼女は電波塔の上で、ロケットランチャーを担いで仁王立ちしていた。


「無線をずっと聞いてたから、エースに何かあったことくらい、すぐに分かったわよ。とっくの昔にマスターに頼んで、ブラウン先生のとこに運んでもらったわ。後でよくお礼言っといてよ、キング!」


 車から身を乗り出し、キングが苦笑した。

「分かったよ。この一件が片付いたら、ハドソンでパーティーをしよう」

「了解、約束よ、キング! じゃ、後はよろしく」

 クイーンはそう言って、颯爽と去っていった。


「…………」

 ジャックは唖然とそれを見送ってから、腕の中で身動(みじろ)ぎした少女を見下ろした。


「……どうしたの」

 キングに守られてすっかり安心したのか、彼女は眠そうな目で瞬きしている。

「何でもない。大丈夫だ」


 そこにキングがやって来た。少し埃を被っているものの、彼は余裕たっぷりの笑顔を見せる。

「さすが最高級車だね。頑丈にできてる」

「あぁ、確かにな……」


 キングは少女を受け取り、背中をトントンと叩く。彼女はすぐさま瞼を閉じて、スヤスヤと眠りに落ちた。夜を徹して彷徨った上に、恐ろしい目に遭ったのだ。無理もない。


 しかし、子守りをする手つきがあまりにも慣れている。ジャックはキングに横目を向けた。

「隠し子でもいるのか?」

「まさか。私は将来、修道院に入って悠々自適の老後を過ごしたいんだ。子供どころか、妻もいないよ」

「ふうん……」

「強いて言えば……ファイブの面倒で慣れたのかな。彼、甘えん坊だから」


 生活力が壊滅的なファイブの面倒をキングが見ているのを、ジャックは知っている。その様子を想像して、ジャックは目を細めた。


 そこに声を掛ける者がいた。

「キング。奴は生きている」


 ジョーカーだ。彼もまた埃にまみれてはいるが、すり傷程度で無事なようだ。

 顔半分を覆う前髪の下で、灰色の左目が背後を示す。

「今は気絶しているが、油断できない。どうする?」

「もうすぐフルハタ警部が着く頃だ。彼に身柄を預けよう」

 さすがキング、抜かりはない。


 キングと少女を車に残し、ジャックはジョーカーと共に、ロビンの元に向かった。


 ひび割れたレンガの上で、彼は目を閉じている。直撃は免れたようだが、痛々しく血の滲んだ肌は無惨だ。


 それでも警戒はできないと、ジャックは彼に銃口を向ける。

 この三年――いや、どんな人生を送れば、ここまで逆恨みができるのかと、ジャックはその姿を哀れに思った。


「キングから話は聞いた」

 彼の横でジョーカーがボソリと言った。彼もまた、灰色の目を哀れな青年に落としている。

「俺はこの男とおまえの関係を知らない。聞くつもりもない。研究所(・・・)の資料も、全て抹消済みだ。しかし、関わった以上は聞いておきたい。こいつは何者なんだ?」


 ジャックは眉を寄せた。

「ファイブが研究所(・・・)の唯一の成功例なら、こいつは、成功を見ずに暴走した『化け物』だ――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ