↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/6

第四章 追放

王立魔導院での新しい生活は、雪巴(ゆきは)の凍てついた心に、陽だまりのような温かさをもたらしてくれた。

その幸福の中心には、第二王子アレンがいた。古代魔術語の解読という共通の才能をきっかけに、二人は「王家の学者団」の一員として、禁書庫で多くの時間を共にするようになっていた。


王宮の「収穫祭」の準備が、二人の距離をさらに縮めた。

夜遅くまで、二人で祭壇に飾るための魔法の氷像を彫ったり、古文書を調べて儀式の準備をしたり。その中で雪巴は、彼が「完璧な王子」ではないことを知る。時折見せる、年相応の少年らしい笑顔や、王族としての重圧に苦悩する横顔。

ある夜、疲れている彼のために、雪巴は故郷の北の地方に伝わる、心を鎮める霊薬を煎じて差し出した。

「ありがとう。……温かいな」

そう言って笑った彼の優しい笑顔を見た時、雪巴の心にあった最後の氷の壁が、音を立てて溶けていくのを感じた。


けれど、屋敷の重い扉をくぐれば、そこには全く別の現実が待っていた。

母がいなくなってから、父は一人の女性を頻繁に屋敷に招き入れるようになっていた。裕福な商家の未亡人だというその女性は、きらびやかな絹のドレスを着こなし、抜け目のない商人の目で屋敷の調度品を品定めしていた。父が彼女に夢中で、やがてこの家の新しい女主人になるのだと、誰もが噂していた。

そして、父の新しい恋人の存在は、父の雪巴に対する態度を、より冷酷なものへと変えていった。父の振る舞いには、精神的な圧迫だけではなく、決して踏み込まれてはならない領域への影が混じり始めていた。


心身が限界に達した雪巴は、神殿区の「魂の癒し手」の元を訪ね、自らの心を「防波堤」で守る術を学ぶ。しかし、そのか細い防波堤は、収穫祭の夜、もろくも崩れ去ることになる。


祝宴の最中、雪巴は見てしまったのだ。

アレン王子が、隣国の美しい王女と親しげに語らい、彼女の手に優しく口づけをするのを。

それは、王族としての公務の一環だったのかもしれない。けれど、雪巴の心には、冷たい悲しみと、嫉妬の炎が同時に燃え上がった。

「私だけでは、ないの……?」

その感情の昂りに、「混沌の魂」が、待ってましたとばかりに牙を剥いた。


ピシッ、と空気が割れるような音がした。

雪巴の足元から、青白い霜の結晶が、恐ろしい速さで広がり始める。祝宴のために飾られた美しい氷の白鳥は、鋭い牙を持つ怪物へと姿を変え、会場の噴水は一瞬にして巨大な氷の牢獄と化した。招待客たちは悲鳴を上げ、逃げ惑う。


その混沌の中心で、アレン王子は、信じられないものを見るような目で雪巴を見ていた。

彼が向けたのは、守るための腕ではなく、冷たい拒絶の言葉だった。


「北の呪い子というのは、お前のことだったのか……!私を、騙していたのだな!」


その言葉は、どんな氷の刃よりも鋭く、雪巴の心を貫いた。

彼女の意識は、そこで途絶えた。


雪巴が目を覚ましたのは、屋敷の自室のベッドの上だった。

収穫祭での惨事は「公爵家の令嬢が、禁断の魔術で騒ぎを起こした」という形で処理され、王家への賠償として、氷雪公爵家は莫大な資産を失うことになった。


父の書斎に呼び出された雪巴を待っていたのは、燃える暖炉の前に立つ、父と、父の恋人である商家の未亡人だった。

父は、一度も雪巴の顔を見ることなく、冷たく言い放った。


「我が家の恥め。お前のような出来損ないを、これ以上屋敷に置いておくわけにはいかぬ」


その隣で、未亡人は扇子で口元を隠し、楽しそうに言った。

「公爵様のおっしゃる通りですわ。役に立たぬばかりか、多大な損害をもたらすとは。もはや『無用な置物』ですらありませんわね」


その言葉は、父にとって決定的な引き金となった。

「出て行け。今すぐだ。お前はもはや、氷雪公爵家の者ではない」


追い出されるように屋敷の門を閉ざされた時、雪巴が持っていたのは、着の身着のままのドレスと、老執事がこっそり握らせてくれた、数枚の銀貨だけだった。

王子に拒絶され、家からも追放された。行くあてなど、どこにもない。

雪巴は、王都の雑踏の中で、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。