第四話 〜元魔術師と居候〜
「はあっ? お前何言ってんの? 魔術とかおとぎ話の話をいきなりされたって困るんだけど。」
「おとぎ話じゃないわ。あなたはそれを知ってるはずよ」
「いや意味わかんないし。人の顔見て“お前魔術師だろ”とか言うやつ頭おかしいだろ普通に考えて。」
「とぼけるのはやめなさい。あなたが魔術師だってことは知っているのよ。観念なさい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……、はあ、わかったわかった。観念するよ」
六波羅光一。彼は東京都南区域第四地区在住の高校一年生だ。
身長は178cm。体重は65kg。顔はそこそこ。成績は上の下。背が高めであること以外にこれといった特徴のない、普通の人間だ。
「よく聞けよ」
そんな彼にも、他の人間にはなかなかない特徴があった。
彼の両親。光一に対して非常に過保護で、一人暮らしをするという息子に高級マンションの一室を与えてしまうような親バカ。
そんな二人は、日本でも上の方に位置する魔術師だった。
「俺は」
魔術師と言ったが、これは周知の通り「魔術を操る人間」のことである。
魔術とは、簡単に言えば“体内の魔力を練りそれを望む形で出力する技術”である。
この魔力は、持って生まれた才能に依るところが大きい。努力によって身につけることも出来るが、非常に困難だ。
「実は」
六波羅は魔術を知っていた。両親も魔術師で、彼はその魔術師の血を受け継いでいた。今まではそれを隠して生きていたが、どうやらこの少女は俺の正体を知っているようだ。それなら言わない訳にはいかないだろう。
「魔術師……、ではない」
「ちょっと。この期に及んで何言ってるのよ。正直に言いなさい」
「本当だよ。俺は魔術師じゃない」
「嘘よ。だって私知ってるもの」
「残念だったな。俺はもう魔術師を辞めたんだ」
そう。六波羅は五年前に起きたとある事件の影響で、魔術師を辞めた。今では魔力を練るだけで頭痛すら感じる。
六波羅はそのことをフィリスに説明する。
「え……、マジ?」
「大マジだ。さあ、俺の事情は話した。次はお前がここでコソ泥をしてた理由だ」
「だからコソ泥じゃないって言ってるでしょ……」
フィリスはため息をついてから、話し始めた。
「私、追われていたのよ」
「Cosmosに?」
「そう。私は最初、Cosmosの動きを捉えてここに来たんだけど、相手にバレちゃって」
「マヌケだな」
「うっさい。それで、右手を撃たれたから仕方なくここに逃げ込んだ訳」
……、おい。不穏なワードが聞こえたぞ。
「おいちょっと待てよ! それって思いっきりダメじゃねーか! その追手がウチに来ちゃうだろーが!」
「大丈夫よ。逃げる時にキチンと撒いてきたから。ここはバレてないわ」
「本当か……? すっげー不安なんだけど。てかどうやって撒いたんだ」
「それは企業秘密よ。ちなみにここを選んだ理由は、魔術師がいるって聞いたからいざとなったら協力してもらおうと思ってたから」
「そうかいそうかい。でも残念。俺はもう魔術は使えないよ。あと、腕は平気なのか?」
「魔術で治したわ。あとは、そうね……」
フィリスは顎に手をやり、しばらく考えていた。そして六波羅の方を向き、
「まあ、魔術は使えなくても隠れ家の提供くらいは出来るわよね。これからしばらくここに住まわせてもらうわ」
いきなり居候宣言をした。
「な、なにを、お前、何言ってんの⁉︎」
「わからなかったの?ここに住まわせてって言ったんだけど。あ、日本語これで通じてるわよね?」
「日本語は正しいけど……、俺が言ってるのはそういうことじゃないんだよなぁ。フィリスさんさ、若い男女が一緒に住むのは問題があるとか思わないわけ?」
「言っとくけど、手出したら殺すから」
「なら居候しようとするなよ! ていうか自分の家ないのかよ」
「売り払ったわ」
「なんで⁉︎」
「ここに住めばいいから」
言ってることが支離滅裂だ……。でもこういうタイプって一度言い出したら諦めないからな……。
六波羅は諦め、フィリスを泊めることにした。
「わぁったよ。好きなだけ住めよ」
「ありがとう。その代わり家事は任せて頂戴」
おお、この少女は家事をやってくれるのか。有能だな。
「やっぱりコイツ、家政婦だったんじゃ……」
ヤバイ、思わず本音が漏れた。
恐る恐るフィリスの顔を確認すると、
「ん? 何か言った?」
そこには天使の笑顔(但し目は笑っていない)があった。
「でもさ、魔術師一人送り込んでどうするんだ?こっちが完全に無防備な訳でもないのに一人で東京を破壊するって無茶じゃないか?」
「そうなのよね。それで私も考えてみたんだけど、もしかしたら“破壊するため”ではなくて“破壊できる力を得るため”に行動してるのかもしれないわね」
六波羅はフィリスに、改めて話を聞いていた。
「東京都を破壊できる力ってことか?なんじゃそりゃ」
「東京都に限った力ではないと思うけどね。あいつらは“世界中を平和にする”って言ってるのよ?東京都だけ壊したって仕方がないし」
「おいおい。待てよ。本当にそんな代物があるのか?世界中とか範囲が広すぎるだろ」
六波羅の過去の経験上、魔術は対象を広げる程精度と威力が落ち、必要な魔力が指数関数的に増加する。“対象が東京都のみ”の魔術も充分対象の範囲が広すぎるが、それが“世界中”となれば、使用魔力は計り知れない。
「そうね。だからもしそんなものがあるとすれば、魔術的な物品を使った魔術でしょう」
「だが……。そんなものが本当にあるのか?本当にあるなら、今までに使用された歴史もありそうなもんだが」
「それはわからないわね。そもそもそんなものがあるのかもわからないし、わからないことには歴史に例を探すこともできない」
「だな。で、お前はそんな不確定で危険な物を止めに行くのか。それも、Cosmosが本当に東京を破壊しようとしてるかだって確定してないのに」
一通り話し終わり、六波羅は問う。
フィリスは答えた。
「当たり前でしょ。もしかしたら東京が破壊されてしまうかもしれないのに、黙って見ていられる訳がないじゃない」
「お前、東京に何かあるのか?」
「ないわよ。でも止めに行く」
フィリスはさも当たり前のように言う。
だが、そんな風に言える人間が現実に一体どれだけいるだろうか?放っておいたって自分に直接の被害はない。敵の動きが活発になれば自分にも被害があるかもしれないが、それにしたって大部分の人は“誰かがやってくれるから”と言って知らないふりをするだろう。
だがこの少女は、自分とは何の関係もない物のために危険な場所に行くと言う。
六波羅は気に入らなかった。理解できないのではない。ただ、受け入れることができなかった。
「そうか」
だが、この少女が首を突っ込むのに自分まで巻き込まれる必要はない。六波羅はそう判断し、話を切り上げる。
「なら話は終わりだな。もう寝とけ」
「え? 終わり?」
フィリスは驚いた顔をする。
「他に何か話すことがあるのか?」
「いや、特にないけど……。あっさりしてるな、と」
「まあ、俺は関わるつもりはないからな。それに眠い」
「え? 手伝ってくれないの?」
「手伝わん。もう余計なことに首を突っ込みたくない」
あくまで冷たい対応をする六波羅。
そんな態度に諦めたのか、フィリスは言った。
「わかったわ。おやすみなさい」
“関わるつもりはない”とは言ったが、六波羅はフィリスのことが気になって寝るのが遅くなった。




