第二話 〜不思議な侵入者〜
「なんで俺が伏見のとばっちりを受けなきゃならん……」
六波羅は鞄を片手に暗くなった通学路を歩いていた。
彼はボロボロだった。髪はボサボサになり、目は死んだ魚のよう。猫背で腕はダランとぶら下がり、微妙に千鳥足のようになっている。
何故このような惨状になっているかと言うと、伏見が教科書を忘れたせいで、担任による六波羅に対してのしごきまで悪化したからだ。
「あーもう、明日からの補習サボろっかな……。折角の夏休みなんだがなぁ……」
そうボヤきながらも、六波羅は高そうなマンションのエントランスに入る。
別に特別な理由がある訳ではない。六波羅はこのマンションに住んでいるのだ。何故高校生である彼が高級マンションの一室を借りているのかと言うと、彼の親が過保護だからだ。
六波羅は鍵でエントランスのドアを開けると、そのまま奥へ進み、エレベーターに乗り込む。八階のボタンを押し、無言でモニターの階数表示を睨む。
ピポーン。音が鳴り、エレベーターが八階に着いた。
六波羅はエレベーターを降りると、そのまま廊下を歩いて目的の八一五号室に入った。居間まで入り、テーブルの脇に鞄を放り出して、そのままソファーに沈む。
「ふぁぁぁあああ〜〜……。つっかれた〜〜」
六波羅はやっと一息つきながら、瞼を閉じた。
「もういいや。夕飯も風呂もなくていいや。このまま寝ちまおう。」
そう呟いて、六波羅は睡魔に意識を開け渡そうとした。したのだが……、
「ちょっとあなた。なにいきなり寝ようとしてるの。さっさと着替えてシャワー浴びてきなさい」
……。アレ?シラナイヒトノコエガキコエルヨ?
「はぁぁぁぁああああっっっ!!?」
彼はしばらくフリーズした後、カッッと目を開いて飛び起きた。
(だ、誰だ。部屋に戻ったら知らない女の子がいる!! しかもエプロン! これなんてエロゲ?)
あ……ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 俺は一人暮らしのマンションに帰ったら、エプロン着用の金髪碧眼美少女がお玉を持って立っていた。な……なにを言っているのかわからねーと思うが、俺もなにが起こっているのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。幻覚だとか義妹だとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
そんなことを考えていたら、少女に頭をはたかれた。
「ボケっとしてないで。ほらっ、テキパキやるっ!」
「は、はい!」
六波羅は慌てて洗面所に行き、服を脱ぐ。パンツを下ろそうとしたところで、ガラッと洗面所のドアが開いた。
「タオルはそこに……、きゃぁぁぁ! 痴漢! 変態!」
バシン! また叩かれた……。
さっきから理不尽な扱いばかり受けている気がする。今日は厄日だ……。
ドシン! と閉められたドアに怨みの篭った視線を送りながら、さっさとパンツを脱ぐ。もう怒られたくないしな。
シャワーを浴びて、湯船に浸かっていると、段々と思考が落ち着いてきた。そしてようやく、我が家に不法侵入している少女の取り扱いについて考えが至った。
あの少女は誰だ?
①まず、間違っても親戚ではないだろう。金髪碧眼の少女が生まれてくるような血は混ざっていないはずだ。
②では、泥棒か? だが泥棒にしては随分と堂々としていた。まあ、なんとかごまかそうとしただけかもしれないが。
③そういえばあの子、飯作ってたな。親が派遣した家政婦か?
③、ありそうだな。正直家政婦はいらないが、あの過保護な親父ならやりかねない。同年代の少女ってのが引っかかるが……。
そんな訳で、六波羅の中では彼女は家政婦だということに決定した。
そうと決まれば早速こき使ってやろう。そう決めて、六波羅は湯船から上がった。
六波羅は土下座していた。彼の頭の先にはエプロン着用の少女が腕を組んで立っている。
彼女の名前はフィリスリーナ・クランエットというらしい。
「だっから! 私は家政婦じゃないって言ってるでしょ!」
「ひぃっ。で、でも、お前家政婦なんじゃねーの? じゃないと不法侵入になってしまう訳なんだが……」
「家政婦じゃない! 私がここにいるのは、少し訳が……」
「そうか! ②か。②なんだな! 泥棒め! 出てけ!」
「②って何⁉︎ ていうか泥棒じゃないわよ! ちょっと説明聞きなさい!」
「ふっ。このコソ泥めが。成敗してくれる。覚悟しろっ!」
「話聞けって言ってんでしょ!!」
「フフッ、言い訳なら後で聞いてやる。観念するんだな」
「あーもう、鬱陶しい。あなたが話を聞かないって言うならね……。こっちにも手があるのよ!!」
少女はそう叫ぶと、俺に向けて 右手をかざしてきた。と同時。
ズビチッ!!!
青白い閃光と共に、六波羅の意識が途切れた。




