第9話
「マズローの欲求段階説というのがありますが、これは現代にも適用できるような内容ですね」
佑一は六組で公共の授業をしている
「現代ではSNSの発達によって承認欲求の肥大化が肥大化していると言われています、これではいつまでたっても高次の自己実現に達することができません」
彼女らに受験というものはほとんどないため、現代社会についての事柄に合わせて授業をする
「今や沢山のクリエイターがいますが、自らの内面にある作品をバズる、バズらない関係なく発信したい人はすでに自己実現欲求に達している人です」
「せんせ~そんなこと話して何になるんですか~?」
「まさにそれです、目立ちたいから、みんなに認められたいから過激な発言をする…これを私はバズ至上主義と呼んでいますが、これは醜いものです」
「…」
愛莉は歯を食いしばる
「バズらなければ価値がないという思考は自由な感性を損ないます…そこから生み出された作品では創作ではなく製造になってしまう…」
佑一は自己の論を語っていく
「バズらなくていいんです…目立たなくていいんです、貴方たちが創作したものが現実にある…これだけで価値があるんです」
「あんたねぇ…そんな語って何様のつもり!」
チャイムが鳴る
「これで授業は終わりにします…あと桂さん、放課後職員室に」
そう言って佑一は教室から出る
「副助詞はだにが大切です、微動だにしないは“微動/だに/しない”は“すこしも動くこと/さえも/しない”つまり全く動けないという意味で覚えてください」
和樹は変わらず授業をしている
「残りの副助詞は“谷/まで/蚤/すら/量り/など/さえ/し/に行く”で覚えましょう、これは“だに/まで/のみ/すら/ばかり/など/さえ/し”ということです」
分け方を黒板に書いていく
「係助詞は唯一その品詞よりも下の用言の活用に干渉する品詞です、下の品詞が上の活用に干渉するのが原則であるところ、文末は下の言葉がないため一見どんな文法にも干渉されないように思えますが、係助詞によって干渉されています」
こちらもチャイムが鳴り始める
「なんとか終わりましたね、今度は夏休みですから…それまでしっかりと勉強をしていきましょう」
和樹は八組から出て行く
「なんですか…」
愛莉は社会科の職員室にいる
「俺の授業の進行の邪魔をしないでくれ」
「そんなこと私に関係ないでしょ?」
愛莉は標的を変えて佑一に突っかかる
「君はよほどかまってほしい人みたいだね、まさにバズ至上主義の人間だ」
「私が醜いって言いたいの!?」
愛莉は佑一の腹に殴りかかる
「バチン!」
職員室に大きな音が響く
職員室の中が騒然となり、愛莉は呆然としている
「これは君が殴りかかってきているのだから正当防衛だ」
愛莉の頬は赤く腫れ上がっている
今まで自分が手を上げられることはなかった
「和樹は甘いからな、お前が何をやっても許すだろうが社会に出れば許されない、それを自覚しないでわがままをしているなら俺が対処する」
「…!」
愛莉は職員室から走って逃げる
そこには多量の恐怖と混乱が混ざり合っていた




