第17話
せっかく昨日は和歌以外芸能の勉強をしたため、今日も別のことをする
「私が“合わせ物”と呼んでいる物があります、歌合、絵合わせ、物合わせです」
当時からいろいろな物を競わせて優劣を決めることはよくあった
「これを天皇の前ですることもありますが、そのときによい歌が出せるようにするのが僕の教育です…ただ絵や物はあらかじめ準備することができます」
自分のお気に入りの物や絵があるか聞くが、娘には首を振られてしまう
「じゃあ私が作りましょうか?」
智彼が言う
「もしかして絵も描けたりするの?」
娘は口に出して、和樹は内心で驚く
「小野さんは多才ですね…」
自分は国語の知識と土地の知識ばかりを集めて他の力を伸ばさなかった
言葉も話せるようになった智彼ならきっと自分以上にこの社会で生きていけるだろう
智彼は何種類かのバリエーションに分けた絵を墨の筆一本で描いていく
一枚は有名なアニメキャラの絵
一枚は現代の都会の街並みの絵
また一枚は、西洋の町並みの絵などどれか一つでも当時の人の心に刺さらないかという絵を描く
最後に描いた絵は、同好会の部屋の一風景だ
机があって、旅の資料があって、一番手前には和樹が描かれている
珠兎や愛莉は机で寝ている
和樹もいつの間にかその絵の美しさに二人に近づいていた
自分は一番後ろでいいと言わんばかりに奥の窓に描こうとする
「小野さん、せっかくならあなたには散っていく葉を描いてみたらどうですか?」
智彼のはかなげな見た目に似合うだろう
「そのほうがいいですか?」
和樹が真横にいるのに智彼は普通に接する
「その方が小野さんの穏やかさと美しさが引き立つと思いますよ」
智彼は頬を赤らめて恥ずかしそうにする
そして言われたとおりに窓から入ってきた葉を手の上に乗せるような絵にする
「これで完成ですね」
智彼は筆を下ろす
描いた絵を見れば、美術部に入っていたら大成していたかもしれない絵が部屋いっぱいに広がる
この時点でこの時代の絵師には負けない美しい絵だろう
そろそろ太陽が沈む頃なので絵を乾かす
夜になれば自然とできることは減る
それでもろうそくや火を使えば一定の活動ができるため、中納言の部屋に呼び出される
「どうしたんですか?」
「今度今の天皇の第一子を産もうとしている皇后候補がいるんだが…」
「ここの権力が弱まりそうですか?」
和樹は権力関係の変動があるのかの心配をする
「そうではない…どうやら悪霊が憑いているようで、それもかなり強力だから出産の時に都で何かが起こるかもしれないと言われているんだ」
「現代ではそれは迷信と言われてますよ…まぁそれでも何が起こるかわからないというのはもしかしたら合理的な何かがあるのかもしれませんね」
当時から迷信や言い伝えには何かしらの根拠があった
陰陽師の占いが由来だろうがそれにも根拠があるのかもしれない
「都中の験者をそこに集めてするほど大きいそうでな、一応気をつけておいてくれ…」
「わかりました…」




