9‐反転
無我夢中で、各フロアの螺旋階段を駆け下りる。
焦りのあまり、足がもつれた。
段を踏み外す。
「――っ!」
とっさに手すりを掴んだおかげで、転げ落ちずに済んだ。
「……危ね」
螺旋階段は内側の踏み板が狭いので、気を付けないといけない。
息を整え、慎重に【ロビー】へ足を下ろす。
どっと疲れが出た。
壁にもたれると、ずるずると身体が滑り、その場にへたり込んでしまう。
人間だと思っていた相手が、得体の知れない“何か”だった。
あまりの出来事に、頭がうまく回らない。
「……これから、どうする……?」
おそるおそるスマホを見る。
メッセージは、1件も届いていなかった。
何も来ないことに、ほっとする。
同時に、指針を失った不安が押し寄せる。
暗い海に、たった一人で放り出されたような気分だ。
「……いや」
俺は頭を掻きむしった。
「あいつの言うことなんて、もう何一つ、当てにできないだろ」
SOSさんは――あいつは、化物だった。
この建物に迷い込んだ人間のふりをして、俺にメッセージを送り続けていた。
絶妙な手がかりを混ぜて、謎を解かせ。
どんどん先へ先へと進ませて。
あの【開かずの間】に引きずり込もうとしていたのだ。
「何が『自分を助けてください』だ」
最初のメッセージを見返して、吐き捨てる。
メッセージの履歴を眺めていて、ふと、違和感を覚えた。
「……この『自分』って、誰のことだ?」
あいつの一人称は、ずっと『私』だ。
『自分』なんて言い方をしているのは、最初の一文だけ。
「ひょっとして――」
世界が反転するような感覚。
「この『自分』って、俺のことか?」
最初のメッセージで送られてきた、
『正しく想像してください』
『そして、自分を助けてください』
あれは、
『正しく想像してください。
そして、ここに迷い込んだ自分自身を助けてください』
って意味だったのか?
そうだとしたら、今まで送られてきた謎解きメッセージの意味が変わる。
必ずしも俺を破滅させるためのものじゃなかった、ということになる。
俺には、助かる道もあったのか?
「……【最後の部屋】だ」
これまでの道のりを振り返り、俺はつぶやいた。
「あそこのドアの向こうに、本当に化物がいたとは限らない」
『化物がいた』と断定したのは、あいつだ。
俺は、それをそのまま信じただけ。
「本当はあそこが出口だったんじゃないのか?」
あの時のやりとりを丹念に読み返す。
出口じゃないと決めつけたのも、俺じゃない。あいつだ。
「……もう1回、行ってみるか」
立ち上がった俺は、ついでに【最初の部屋】まで降りてみた。
消えたドアが戻っていれば、と淡い期待をしていたのだが、現実は甘くなかった。
ドアが戻るどころか、絵や鏡も消えていた。
「進むしかないんだな」
俺はしっかりと、右手で螺旋階段の手すりをつかんだ。




