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正しく想像してください  作者: サモト


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9/11

9‐反転

 無我夢中で、各フロアの螺旋階段を駆け下りる。

 焦りのあまり、足がもつれた。

 段を踏み外す。


「――っ!」


 とっさに手すりを掴んだおかげで、転げ落ちずに済んだ。


「……危ね」


 螺旋階段は内側の踏み板が狭いので、気を付けないといけない。

 息を整え、慎重に【ロビー】へ足を下ろす。


 どっと疲れが出た。

 壁にもたれると、ずるずると身体が滑り、その場にへたり込んでしまう。


 人間だと思っていた相手が、得体の知れない“何か”だった。

 あまりの出来事に、頭がうまく回らない。


「……これから、どうする……?」


 おそるおそるスマホを見る。

 メッセージは、1件も届いていなかった。

 何も来ないことに、ほっとする。


 同時に、指針を失った不安が押し寄せる。

 暗い海に、たった一人で放り出されたような気分だ。


「……いや」


 俺は頭を掻きむしった。


「あいつの言うことなんて、もう何一つ、当てにできないだろ」


 SOSさんは――あいつは、化物だった。

 この建物に迷い込んだ人間のふりをして、俺にメッセージを送り続けていた。


 絶妙な手がかりを混ぜて、謎を解かせ。

 どんどん先へ先へと進ませて。

 あの【開かずの間】に引きずり込もうとしていたのだ。


「何が『自分を助けてください』だ」


 最初のメッセージを見返して、吐き捨てる。

 メッセージの履歴を眺めていて、ふと、違和感を覚えた。


「……この『自分』って、誰のことだ?」


 あいつの一人称は、ずっと『私』だ。

 『自分』なんて言い方をしているのは、最初の一文だけ。


「ひょっとして――」


 世界が反転するような感覚。


「この『自分』って、俺のことか?」


 最初のメッセージで送られてきた、


『正しく想像してください』

『そして、自分を助けてください』


 あれは、


『正しく想像してください。

 そして、ここに迷い込んだ自分自身を助けてください』


 って意味だったのか?


 そうだとしたら、今まで送られてきた謎解きメッセージの意味が変わる。

 必ずしも俺を破滅させるためのものじゃなかった、ということになる。


 俺には、助かる道もあったのか?


「……【最後の部屋】だ」


 これまでの道のりを振り返り、俺はつぶやいた。


「あそこのドアの向こうに、本当に化物がいたとは限らない」


 『化物がいた』と断定したのは、あいつだ。

 俺は、それをそのまま信じただけ。


「本当はあそこが出口だったんじゃないのか?」


 あの時のやりとりを丹念に読み返す。

 出口じゃないと決めつけたのも、俺じゃない。あいつだ。


「……もう1回、行ってみるか」


 立ち上がった俺は、ついでに【最初の部屋】まで降りてみた。

 消えたドアが戻っていれば、と淡い期待をしていたのだが、現実は甘くなかった。

 ドアが戻るどころか、絵や鏡も消えていた。


「進むしかないんだな」


 俺はしっかりと、右手で螺旋階段の手すりをつかんだ。

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