10‐無限階段
【光の部屋】を抜け、再び【回廊】に入るときは、さすがに緊張した。
【開かずの間】が開いていないかと、こわごわフロアをうかがう。
「大丈夫……だな」
ドアは壊れておらず、音もない。静かすぎるほどだ。
それでも足早に通り過ぎ、螺旋階段へ急いだ。
前回は、この先で【無限通路】にハマった。
でも今回はちゃんと螺旋階段があった。
だから大丈夫、と安心していたのだが――
「またかよ……」
泣きそうな声が漏れた。
手すりを強くつかみ、アゴを反らす。
階段は果てなく続いている。
「今度は【無限階段】ってワケか」
上っても上っても、終わる気配がない。
また、おかしな空間に来てしまったらしい。
「ここには一体、どんな変な仕掛けがあるんだ?」
【無限通路】では、ありえない方向から叩く音がした。
しかし、ここは無音。
響くのは、自分の足音と、荒い息だけだ。
「……ひょっとして」
じわりと弱気が顔を出す。
「もう謎なんてなくて、ただ脱出させないだけってことは、ないよな?」
最悪の想像に、足が萎える。
俺はついに立ち止まり、その場に座りこんだ。
降りたところで元の場所へ戻れないことは、もう確認済みだ。
「あー、足がだるい」
螺旋階段は、内側と外側で板の幅が違うので、どうしても片方の足にだけ負担がかかる。
俺は左足を、拳でトントンと叩いた。
「手も疲れたな」
また足を踏み外すまいと、手すりをずっと強く握り続けているせいだ。
左手を、開いたり、握ったりする。
「……ん?」
俺は、左手を見つめた。
疲れているのも、左足だ。
「なんでこっちが疲れてるんだ……?」
【ロビー】で手すりをつかんだ手は、確か右手だった。
足を踏み外さないよう、意識して右でつかんだ光景が、はっきり思い出せる。
「ここ……螺旋が時計回りだ」
俺は、ぐるぐると渦巻く階段を見上げた。
今までは反時計回りだったのに、この階段だけ違う。
「――ということは」
ポケットからスマホを取り出す。
またあいつと連絡を取るのは嫌だけど、違和感を指摘するのがこの建物での絶対のルール。
しぶしぶ画面をタップする。
『螺旋階段の向きが違う』
送信。
数秒後、ぐにゃりと、空間が歪む感覚が走った。
「よし。今度こそ」
階段の先に【最後の部屋】が見えていた。




