8‐SOSさん
返事の代わりとでもいうように、メッセージが届いた。
『誰か、開けてくれ!
扉が消えて、壁になった。
完全に閉じ込められた』
なんてこった!
この部屋は、罠だったのか。
ドンドン、ドンドンと、フロアに音がこだまする。
切実な訴えに、心がざわついた。
『叩く手が痛い』
『右手に血がにじんできた』
「今、助けますから!」
ドアノブをつかみ、ひねる。
引きかけた瞬間、違和感が頭をかすめた。
「SOSさんって――左利きじゃありませんでしたっけ?」
なんで右手をそんなに酷使してるんだ?
「――うわっ!」
急に、内側からドアを押された。
反射的にドアを閉める。
「SOSさんなんですよね?
本当に、SOSさんなんですよね?」
何度も問いかける。
いい加減、声で返事があってもいいはずだ。
「返事してください!」
――ピロン。
『助けて』
『死にたくない』
『一人は嫌だ』
『誰か』
『開けて』
SOSの連打。
胸が締めつけられた。
いたたまれなくなって、またドアノブに手を伸ばす。
「なんだ……これ」
ドアノブの近くに、赤い汚れがついているのに気づいた。
同じ長さの、太い線が五本。
等間隔に並んでいる。
「……指の跡、か?」
先の方には、指紋のような模様が見える。
内側からドアの端をつかんだ時に付いたのだろう。
赤い色は、血か。
胸に同情がこみ上げた。
「――いや、待てよ」
俺は、指跡をまじまじと見つめた。
間隔は一定。太さも、長さも、大きさも、すべて一緒。
俺は自分の手を見た。
親指、人差し指、中指、薬指、小指。
どれも微妙に太さや長さが違う。
「こんなふうに、同じ跡がつくか?」
しかも、5本も。
俺は他の指と離れている親指を動かした。
「親指の跡は、他の指と同じにはつけられないよな?」
判を押したようにそろっている指跡。
人間の手形の失敗作だ。
ぞわぞわと、嫌悪感がこみ上げる。
『おまえは、何だ』
震える手で、メッセージを打つ。
すぐに返信が来た。
『縺翫a縺ァ縺ィ縺�シ∝、悶°繧牙シ輔°繧後k繝峨い縺梧ュ」隗」縺ァ縺�』
「――ひっ!」
思わず、スマホを取り落とした。
ぐにゃりと、空間が歪む。
静かだったドアが、再び騒がしくなった。
――ガチャガチャ、ガチャガチャ!
金属のドアが激しく揺れる。
何が何でも、開けようとしている。
「……やめろ! やめろ!」
俺は必死にドアを押さえた。
「来るな!」
いつの間にか、ドアノブの下に内鍵のツマミが現れている。
鍵はかかっている。
だが、この勢い。壊れてしまいそうだ。
「――っんだよ!」
怒鳴り声は、ほとんど悲鳴だった。
「おまえは一体、何なんだよ!」
スマホを拾い、俺は【開かずの間】に背を向けて走り出した。




