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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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35:宣戦布告?


 ララハナの一件でサイデルフィアとハレイ族の関係が一変する。


 今まではハレイ軍が検問所に向かっていると砦の監視者から連絡がくれば、オズワルドが早馬で駆けつけていた。必ず向かえる土地にいる時だったので、動向を把握されていたのだろう。無視をしたらハレイ軍は腹いせに第一検問所や休憩所を破壊したので、オズワルドは仕方なく向かっている。

 因みにその破壊行為に正式抗議して賠償金を求めても、ハレイ族長は『大将が出てこないのが悪い』と勝手な理論で応じなかった。それを理由にフン・タルマルクに攻め込むには王の許可がいるし、ハレイ族のみならず周辺の戦闘民を相手取る事になるので割りが合わない。結局オズワルドは諦めたのだ。


『指揮官が女だから舐めてるのか?』と言いがかりまでつけられて面倒臭いのもあった。命の取り合いまではないし、自分が出ていく事で先方が納得するならとオズワルドは女指揮官に対峙していたのである。

 

 今考えてもララハナの『会いたかった! いざ尋常に勝負!』が求愛の言葉とは信じられない。文化の溝は埋め難い……。




 ハレイ次期族長から〈宣戦布告〉の書簡が届き、“藤の月四日、ララハナが約百人を率いてサイデルフィアを攻める計画をしている。申し訳ないが辺境伯夫人を寄越して適当に相手をして追い払って欲しい”と、内容は宣戦布告には程遠く〈嘆願書〉に近いものだった。


 この度のララハナの暴走の原因は、彼女のやりたい事を認めて彼女を甘やかすからだと、妻やララハナの兄姉たちに糾弾され、族長もさすがに庇いきれなくなり、アムールが彼女の管理を任される事になった流れのようだ。


 それゆえアムールが前もって伝え、今後はララハナの強襲は強襲で無くなる。それこそレミスの言った通り辺境同士の軍事演習となりそうだ。暗黙の了解、非公式ではあるが。


〈宣戦布告〉を見せられてから、アミィは弓の調整を鼻歌まじりに行なっている。


「殺傷能力のない矢にしないといけませんね。あちらは金属板の防具をしていませんから、うっかり貫通しないように」

 

 不穏な事を宣っている妻に、オズワルドは「あれはあれで良く出来ているんだ」と説明する。


「丈夫なラズカ蔦を特殊な液でコーティングした後に、独特な編み込みをしていて、軽いのに驚くほど頑丈なんだ」


「そうなんですか」


「だからと言って矢尻を尖らせと言っているんじゃないぞ? あっちも槍先を潰してくるみたいだから」


 これは宣戦布告とは別に、アムールからオズワルドに〈親書〉として届けられたものに記載されていた。双方に重症者を出さないため、“サイデルフィアもそのつもりで”の意味だ。最早国境紛争ではない。ただの予定調和である。


 

 今のところエルセイロ王国に戦争の兆しはないけれど、海を隔てた向こうの陸では大規模な領土戦争が繰り広げられているらしい。西南の海沿領主も警戒は怠らないが実戦経験はほとんどない。先の戦争でサイデルフィアに兵の派遣はしたものの、あまり功績に貢献していなかったと聞く。だからオズワルドは他領の兵力はあまり期待していない。

 カイマール曰く『海戦に特化してるんだよ。あっちは。敵に上陸される前に軍艦で迎え撃って防衛している。それに海岸沿いの軍設備にはずらりと大砲が並んでいて壮観だぞ』なので余計。地形の複雑な陸上戦に海の兵は向いていない。

 自国を踏み荒らされたくないエルセイロ王の指示はいつも同じ。『絶対に上陸を許すな』である。


 最後の戦争で、フン・タルマルクがわざわざゲリラ戦を得意とする他国の傭兵を雇い戦力を上げてきたため、エルセイロも対抗した。皮肉にもタルマルクと同じく、グローバ国の正式機関である傭兵ギルドを再度利用したのだ。

 その時カイマールが『奇襲作戦に欠かせない弓兵をありったけ』と将軍に要望を出した事はあまり知られていない。

 そして遣わされた傭兵たちは剣士、弓兵、半々だった。そこにかつて部下だった優秀な女弓兵がいなかったので、カイマールが『トパーズはいないんだな。結婚して引退でもしたか』と傭兵団長に気安く尋ねれば、『フン・タルマルクに雇われています』とすごく言いにくそうに答える。それがグローバの傭兵ギルドなのだとカイマールは少なからずショックを受けた。同じ所に属していながら敵味方になり得るのだ。


 オズワルドは尊敬する大叔父の当時の心境は知らないが、『辛抱強くて身体能力が高い奴は弓兵として育てろ。地形を活かした撹乱戦術には不可欠だ』との助言を受け入れている。

 だから王国軍に比べて辺境軍には弓兵が多い。都の騎士たちは数に頼る正攻法な戦いしか教わらない。少人数による奇襲攻撃が戦況をひっくり返す事もあるとは、経験しないと実感が湧かないだろう。様々な戦の形態が最も構築されているのがサイデルフィアで、代々受け継がれている兵書がある。時代が下るにつれ武器も変わり戦術も変わるので、当代領主によって随時付け加えられていくのだ。


 エルセイロ一の武力集団サイデルフィアに於いても、領主夫人が武人である事はなかった。現当主の祖母と母は他国の武家出身だから心得はあったが、自ら武器を取るのはやむを得ない状況の時だけだ。しかし現当主の妻は自国の伯爵令嬢でありながら、魔獣も狩れば隣国のハレイ族の姫君を叩きのめす強者(つわもの)である。


 宣戦布告に辺境伯夫人の出陣の要望を記されていて、「まあ大変」の言葉とは裏腹に笑みを浮かべる妻に対し、オズワルドは「君は行かなくていい」とは言えなかった。

 

 そして、兄が手回しをしているなんて知らない戦姫ララハナが部下を引き連れ、恒例の国境第一検問所破りをしてきた。彼女の要望が「辺境伯を出せ!」から「辺境伯夫人を出せ!」に変わったのが面白い。格上の戦士(アミィ)と〈手合わせ〉をするのが目的になっている。


 アミィは大将のオズワルドと同じ家紋入り兜を新調した。サイデルフィア辺境伯家初、女戦士の誕生である。

 得意な得物だと豪語しているだけあって、馬上でありながらララハナの槍捌きは上手い。アミィも彼女に合わせて槍を使うが、元々騎乗の経験自体が少ないので慣れない動きだ。しかしそこはどっしりとしたサイデルフィア軍馬が彼女の経験不足を補足する。さすがオズワルドが選んだ賢くて度胸のある強馬だ。


 互角のように見えたが遂にアミィの側面攻撃でララハナの身体が傾く。その次の瞬間、ララハナの仮面が吹き飛ばされた。びっくりしたララハナがアミィを見ると彼女は弓を手にしていた。

「……長槍を使った直後に矢をつがえただと?」

 信じられないとばかりにララハナは目を見開く。勝てない。身体能力が高すぎる……。


「撤退だ!!」


 号令をかけたのは副官である。

「俺はアムール様の部下です。時期を見て引きますので」

 オズワルドと剣を交える合間に告げた彼はララハナの仮面が弾かれるのを見て、すぐさま撤退を宣言したのだ。


「待て、まだ戦える! 認めない!」

 今まで進退の決定権があったララハナがびっくりして反対するが、「戦場(いくさば)で素顔を晒したとアムール様が知ればどう思うでしょうか」と副官は反論して彼女の退却を促す。敵の手に仮面が渡るのはハレイ戦士にとって屈辱である。ララハナの仮面を拾ったサイデルフィア騎士がそれを副官に渡すのを見て彼女は諦めた。本物の戦争なら仮面は敵の戦利品になって手元に戻る事はない。しかしサイデルフィア騎士は副官に素直に返す。


 “無様は黙っていてやるから退け”と副官はララハナに言っているのだ。


(くっ、アムール兄様の腹心だ。刃向かえばまずいな)


「また来るからな! アミリシア夫人!」


 未練がましく撤退するララハナに「もう少し腕を上げてくれないとつまらないわ」と、アミィは追い打ちをかけるのだった。




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