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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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34:砦の晩餐


「ふう、やれやれ。やっと帰ったな」


 砦の会議室で軍属メイドの淹れた茶を飲みながら、カイマールが一息つく。


「まさか私もハレイ族の末姫や次期族長に会えるとは思わなかったよ。懇親会に招待されてやって来て良かった。兄たちにいい土産話が出来たし、実に有意義な休暇……いや〈視察〉だったな、を過ごせてオズには感謝しているよ」


「おい、兄たちにって、アミィの決闘話をする気か?」


 それには漏れなく辺境伯の話が付いてくるわけで、オズワルドにとって楽しいものではない。


「“妻の座を賭けて辺境伯夫人が戦い勝利した”んだ。それには姫役の君の話も付随するのだから仕方ないだろう」


「やめろ! 〈姫〉って言うな! 珍しい魔物料理やカイマールおじさんの戦歴話で十分だろう!」


 オズワルドは不機嫌に語気を荒げる。


「でもさ、ハネル兄さんに招待されたさっきの劇団が、“面白い事があった”と私より先に兄さんに伝える気がするんだよね」


 オズワルドはスケッチをしていた異国の劇団員たちを思い出してがっくりとする。あの時は自分も上擦っていたから、見学されていたのに気が付かなかった。今更あとを追って他言無用を告げたりすれば、器が小さい男だと思われてしまうだろうか。しかも妻の決闘を見守るだけの軟弱者と思われて、築き上げてきた〈サイデルフィア辺境伯〉の評判は失墜しないか。


「もし寸劇として脚本にすれば、オズ様は〈姫〉として女装姿にされてしまいますかね。私とララハナ姫は戦衣装だといいのですが」


「オズ役がどうなるかはともかく、夫人とララハナ姫は割と忠実に再現されると思うよ。ドレス姿で戦うのを“これはいける”なんて興奮していたからねえ。ただ決闘内容はもっと接戦になるかもね。その方が見応えがあるでしょ?」


 レミスの見解にアミィが顔をしかめる。

「それは納得できません。瞬殺でしたよ」


「まあまあ、物語になったところで実名が使われるでもないし、そこは“あれは自分じゃない”って思えばいいさ」


 カイマールが宥め役になった。


『帰国時に辺境伯夫人に絵をお渡ししたいと思います!』


 劇団絵師は珍しい見せ物だったとかなんとか言っていたし、脚色していない絵が仕上がるのではないかとレミスは思う。出来が良ければサイデルフィア城のエントランスか食堂にでも飾ればいい。基本無愛想なオズワルドが話のきっかけにする事も出来る。



 オズワルドはもう関心が失せたのか、宝石箱の金塊の確認をしながら、使用用途の構想に余念がない。

「もっと工事人を増やして石橋の建設を急ぐか。ああ、それより診療所を増やして医師たちの確保が先決か」


「オズ様、思わぬ収入があって良かったですね!」


 アミィは純粋に喜んだが、そこでオズワルドは「はっ、すまん。これは君の勝利への対価だから、君が受け取るべきだったな」と気がついた。


「私闘ではありましたが辺境伯夫人としてですので、これは領地に還元してください」


 アミィは自分の手柄だなんて露ほども思っていない。サイデルフィア領の発展に使用するべきもので、そこはオズワルドと思考は同じだ。

 

「確かに身柄引き渡しには多すぎる金だが」

 オズワルドは思案する。

「これって“これからも戦闘しに行くからよろしく”的な対価だと適正なのか? いつまでやる気かしれないのに」


「まあこの際あっちと同じく〈演習〉と捉えたらいいんじゃない?」

 王都の人間には関係ない。レミスの言葉は無視だ。


「うーん。でもこれは結構な金額だよね。オズにきた他国の縁談の中で一番持参金の提示が少ないのがこのくらいだったかなー」


「結婚持参金とすれば少ないですな」


 カイマールの言葉はアミィの耳には痛い。実際にサイデルフィア辺境伯に嫁いだ彼女の持参金はないばかりか、オズワルドは実家の負債の清算さえしてくれている。一番損をした結婚と言える。


「貴族共和国の令嬢だったな。野心家の親がサイデルフィアと軍事提携をしたかったみたいでさ。かの国にしては裕福な家だけど国全体として貧しい中、頑張った金額だったと思う。そこだけじゃなくって、どこもエルセイロ王家を通すもんだからオズに話が届くはずないよね」


「オズ様、可哀想……。本来なら色々選択肢があったんですね。王家に潰されてしまったけど」


「アミリシア夫人? ちょっと悪意を含んでない? でも現実的に考えて、言葉も分からない文化の違う国に嫁いでくるのは、結構気の毒だと思うよ。オズの人物像なんて“国で一番魔物の多い領地を治める戦闘好きの若者”程度だ。もし子を成す前にオズが戦死でもしたら妻は国に返されるだろう? リスクが大きくないかい?」


「そうですね。みんながみんな、私みたいにどこでも生きていけるわけではありませんものね。私は死後離婚になっても大丈夫ですから心配ありません!」


 アミィは自分の利点を思いついたらしい。

 友人と妻が淡々と話すのにオズワルドは少しだけ傷ついた。


「頼むから俺を勝手に死亡させないでくれ」





 国境の砦には騎士たち向けの大食堂が一階にあり、上層部向けの小食堂が二階にある。


 怒涛の一日を過ごした面々は砦に泊まる事になり、小食堂でこぢんまりとした夕食会を開く事になった。軍専属料理長なんか青褪めて気の毒なくらいである。


 王家の視察という事でそれなりの昼食は準備していたけれど、ハレイ族の姫の不正入国騒ぎで慌ただしくなり、『簡易なものにしてくれ』との辺境伯の指示でサンドイッチに変更された。

 立場的には人質状態のララハナ姫も同じテーブルに着き、美味しそうに食べていた。

『この具は何の肉だ?』と隣のアミィに尋ね、『魔熊よ』と聞かされても嫌がったり吐き出したりせず、『臭くて捨てるだけの魔熊がこんなに柔らかくて美味しいなんて!』と別の意味で驚いていた。さすが自国の貴族女性など脆弱だと見下しているララハナである。


 そのせいで午後には領都に戻る予定だった辺境伯たちが急遽宿泊する事になり、王族に饗せるディナーなど分からない料理長が頭を抱えるのは仕方なかった。


「いつもの感じでいい。南方の貴腐ワインがあっただろ。あれでも出しときゃいい」とオズワルドは言うけれど、せめて見栄えを良くしようと、助手が飾りのハーブやら新鮮な果実の手配に奔走する。


 アミィが初めてこの砦に来た時、小食堂だと案内された二階の部屋は、体裁を整えれば奉迎にも向いている作りだった。

 きっと今は晩餐に向けてテーブルクロスやら花瓶やらの銀食器の準備に加え、王子の泊まる客間の掃除など、管理職員やメイドが総出でてんやわんやだろう。国王夫妻や王太子よりはまだマシだが、なんせ皆王族の接待は初めてなのだ。

 


 大食堂はトパーズも利用していた。他国の傭兵が砦の構造に関心を持つ必要はなく、二階に迎賓スペースがあるのも知らなかった。ちゃんとした食事の提供だけでも有り難かった。配膳もエルセイロ騎士兵たちと同じで、エルセイロ王国は傭兵の待遇がいいと思っていたけれど、あれはサイデルフィア領の意思が最大限に反映していたのだ。エルセイロ国軍も結局はこの砦を最前線の拠点にするしかなく、当時は国軍の中では新入りの部類のカイマールの地元であり、だから彼はそれなりの裁量権を与えられていたらしい。


 夕食中にレミスがカイマールの軍歴を色々聞いてくれたおかげで、アミィは当時の状況などを知る事が出来た。




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