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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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33/36

33:姫様、お迎えです



 不法入国をしたララハナを拘束しているとハレイ族長に使者を送ったところ、異例の早さで身元引受人がやってきた。


「ラムール兄様!」


 訪れたのは次期族長、ララハナの歳の離れた長兄である。彼は自分の名を呼ぶ妹をじろりと睨んだ。ララハナは別に縛られてもいない。呑気そうな顔で立っているだけで悲壮感も危機感もなく、逃亡を防ぐ名目でサイデルフィアの騎士たちに周囲を固められている姿は、見様によってはまるで警護されているかのようだ。


「全く。末娘を甘やかしすぎだと常々父上に言っているのに。戦ごっこをさせるわ、敵国の辺境伯に勝手に婚姻は申し込むわ。なんでも思い通りになると勘違いした愚かな娘になるはずだ」


 彼はララハナの身を案じる言葉も発さないどころか、他人の前でこき下ろすくらいだった。ララハナは気まずそうな顔で黙り込む。


「サイデルフィア辺境伯。此度は愚妹が多大なるご迷惑をお掛けして申しわけない」


 この次期族長はハレイ族にしては作法を重視していると、オズワルドは何度かの対面で知っていた。現族長は血気盛んな短気で無礼な面をフン・タルマルク王も容認しているが、アムールは逆に冷静で王に慇懃に接する。次期族長の発する言葉に誠意はなくても、フン・タルマルク王には現族長より御し易く見えるだろう。


 実際はこういった手合いの方が、知恵が回って面倒くさい。アモールは以前オズワルドがカイマールに言った『あの単純部族の中にもし異質な策略家がいたら』のモデル像に該当する。順当にいけばオズワルドの代でいずれアモールが族長になる。今の単純なハレイ族長に長くその座を守ってもらいたいと願う。


「ふうん、貴殿が次期族長か。私の知っているハレイ族とはイメージが違う。面白いね」


 アムールは辺境伯の隣にいる人物に声を掛けられ、眉をひそめる。


「あなたは……レミス第三王子殿下か」


「あ、知ってるの?」


「身なりで王族と見受けられる。辺境伯と年が近く親しい間柄となれば第三王子殿下であろう」


「そうだよ。初めまして。ハレイ族の武勇伝は色々聞いているよ。ララハナ姫も勇敢だったよ。今回は辺境伯夫人との貴重な決闘を見られて幸運だった!」


 アムールは苦虫を噛み潰したような顔をして、オズワルドに向かって頭を下げる。事情を聞き及んでいたアムールに驚きはないようだ。


「本当に申し訳ない……」


「兄様! 一騎打ちを申し出たのは辺境伯夫人の方だよ!」


 ララハナが言い訳をする。


「辺境伯夫人に相応しくない弱い女だと罵られたのですから、決闘を申し込むのは当然のことでしょう」


 カイマールの斜め後ろで、出しゃばらぬよう控えていたアミィが涼しい顔で補足した。アモールは辺境伯夫人の方に身体を向け、彼女にも改めて頭を下げる。


「……本当に愚直な娘ですまない。部下たちに手加減されているのも知らずに、こいつは最強の女戦士だと自惚れているのだ」


「何を言ってるんだ、アムール兄様!」


 ララハナの憤慨に彼は「おまえは馬鹿だから、あとの事は何も考えないで嬉々として勝負を受けたのだろう」と、更に一刀両断である。


 今回圧倒的な実力差があったからララハナの木剣はアミィに掠りもしなかったが、もしこれで辺境伯夫人に傷を付けたとなれば、サイデルフィアとの関係は今以上に拗れてしまう。なんせタルマルク王都の興行団の馬車に隠れ乗って密入国したのだ。族長の許可を得て、戦士を引き連れて検問所を突破するいつもの戯言とは違う。ララハナだけの罪だ。


「ここでおまえの首を差し出せと言われたら、俺はそれを止められない」


「ま、まさか! そんなの父様が許すはずは……」


「ああ、父はおまえに甘いからな。でも族長代理としては、俺はおまえの身柄をサイデルフィア辺境伯の判断に委ねるしかないのだ」


「俺はここで他国の姫の首を刎ねるほど考えなしじゃない」


 思わず不機嫌にオズワルドが割って入る。


「失礼。それは承知している。だがあの馬鹿はそのくらい脅さないと事態の深刻さが理解できないのだ」


 アムールが小声でオズワルドに告げた。レミスとオズワルドがちらりとララハナを見れば、彼女は青褪めている。なるほど。脅しは有効らしい。


「辺境伯よ。妹の身柄と引き換えに、こちらを納めてくれないか」


アムールは自身の従者から美しい装飾が施された銀の箱を受け取ると、その蓋を開く。大きめの宝石箱のようだ。しかし中に入っていたのは大小の金塊だった。


「宝飾品を差し出すには、うちの女性陣たちを招集して説明しなければならない。すぐに動くため、父上はご自身のお宝である純金を箱いっぱい準備したのだ。分かったか、愚妹」


「お父様が……」

 言いかけたララハナはそこで絶句する。父は審美眼に自信がないので宝石はあまり好まない。“純金はどこの国でも価値が変わらない”と、分かりやすい金は大好きである。それをここまで手放してしまうとは。さすがに彼女も父の愛情と覚悟を目にしては黙り込むしかない。


(ぶっちゃけ宝飾品やタルマルク通貨より有り難い……)


 (まばゆ)い光を放つそれを一瞥しただけで興味のない振りをしながら、オズワルドは“財政に回せるな”などと考えていた。


 保釈罰金の相場が分からないオズワルトたちは苦慮していた。

『さすがに隣国の族長の娘の密入国なんて前例がないからねえ』とレミスもお手上げだった。

 仕方がないので使者が訪れてからの交渉を想定していたのに、先方が予想以上の物を提示してきた。これで十分ではなかろうか。


 オズワルドがカイマールに目配せすると彼も頷いた。


「扱いに困っていたので早く連れ帰ってくれ」


 交渉成立である。側近に銀の箱を受け取らせると、オズワルドは素っ気なく告げた。


 全くもって何しに来たのか__隣国の辺境領に単身殴り込みをかけ、父親に要らぬ出費をさせただけのララハナは、さすがに後悔を滲ませていた。


「父上はまだいい。母上や姉たちの説教は長くなるぞ。帰ったら覚悟しておけ」


 アモールはララハナを引き渡されると彼女に言い聞かせながら、すぐに砦を後にする。見送る彼らに最後にララハナと共に礼をした。


「サイデルフィア辺境伯。我々が破格の詫び金を用意したのは、これまでの、そしてこれからもこちらに迷惑を掛ける事に対してだ」


 アモールの言葉に「どういう意味だ」とオズワルドは眉をひそめた。


「国境を侵犯する事が今後も続くだろう。申し訳ないがどうも族長や血気盛んな連中は、勝手に〈軍事演習〉と位置付けているみたいだ。そちらの意思はお構いなしですまないが、俺はそれを止められない」


 そう言いつつ申し訳なさを感じさせない声音(こわね)と顔付きだ。次期族長の彼も、実際は部族のガス抜きに必要だと考えているのだろう。


「ははっ、こうも堂々と国土侵犯を宣言されるとは。ずいぶん舐められているね、辺境伯」


「うるさい。普段何も関知しない王家のくせに物申すな」


「……互いに大した被害のない小競り合い程度ですからな。こっちもそれなりの対応をしているので」


 カイマールが口を挟めば騎士たちも参加する。


「そうですよ! ちょっと緊迫感のある演習みたいな感じです」

(それがし)は模擬戦争のつもりで臨んでいます!」

「我々と癖の違う対人戦は貴重です!」


「今度は私も弓兵として参加するわ」

 どさくさ紛れにアミィが言えば、ララハナが目を輝かせた。


「私は騎槍だ! 今度は騎乗での手合わせを願いたい!」


 オズワルドはもう何も言わない。諦めの境地とも言う。


「お前は少しはしおらしくしておけ!」

 アムールは妹の首根っこを掴むと馬に乗せ、自分もその後ろを跨ぐと慌ただしく第一検問所を抜けていった。




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