第66話 頼れる仲間
《光の剣》――ネーミングセンスはさておき、その実力は規格外。ついでに性格も常軌を逸していた。
アインスの煩わしさは嫌というほど味わったが、マリーの口の悪さがここに来て際立つ。あの騒々しい男が涙目になっている。
フリードは一見寡黙かと思いきや、嬉々として戦闘に励むクレイジーな男だった。その衝動は容易には止まらないだろう。
「なあ、リーゼ……もしかして君のパーティって――」
「見ての通り、変人しかいませんよ……」
「そうか、大変だな」
「一日だけで構いません。私と交代してみませんか?」
「嫌だ」
リーゼが心底呆れた様子で冗談交じりに提案するが、キョウヤは間髪を入れず拒否する。
彼女が毒を吐くのも頷ける。あのような癖の強い三人の相手をしていたら、あっという間に寝込んでしまいそうだ。
だが、今はそれが心強い。彼らの姿が己の勇気を奮い立たせ、身体の苦痛を遠ざけた。
「リーゼ、俺も戦わせてくれないか」
「……正直に言います。あなたでは私たちに合わせることはできません」
「分かっている。それでも、前に進むため……乗り越えなければならないんだ」
キョウヤは力強く立ち上がり、リーゼの琥珀色の瞳をじっと見つめた。
即座に試すような視線が返ってくる。そして次に、彼女は弓に矢を番えた。
ヒュン、と矢が己の肩の上を掠める。しかし、キョウヤの身が揺らぐことはない。動けなかったのではなく、動じなかったのだ。
「アインス、少し良いですか」
一瞬だけ目を細めたリーゼは、アインスとマリーの元へ歩いていった。しかし――
「はあ!? 足手まといと一緒に戦えというのか!?」
「キョウヤには確かな覚悟があります。受け入れてあげてください」
「君の頼みでも無理なものは無理だ。僕は闇を抱えた奴の言葉なんか信じたくない!」
リーゼの交渉に対し、アインスは声を張り上げる。これまでの軽い態度が嘘のようだった。
緊迫した雰囲気を察したのか、マリーも軽口を叩くことはなく、静かにやり取りを見守っている。
キョウヤはすぐさま彼らに駆け寄り、アインスを見据えて口を開いた。
「アインス、協力させてくれ」
「弁えろ。ミレイさんならともかく、お前如きが僕たちと肩を並べられると思うな!」
「信用がないのは仕方ない。力不足であることも自覚している。だけど、俺の命を救ってくれた奴に報いるためにも、この手で決着をつけたい。もう二度と逃げたくないんだ! 頼む!」
プライドをかなぐり捨て、深々と頭を下げた。これは交渉ではなく懇願だ。
彼の言動は正直気に食わない。だからといって歩み寄ることを放棄していては、認めてもらえるわけがない。
誠意を尽くせば、手を取り合うことはできる。それをこの世界で学んできた――学ばせてもらったのだ。
「……いいだろう。ただし、僕たちの邪魔はするなよ」
「恩に着る」
アインスが渋々といった様子で言い捨てる。
キョウヤが顔を上げると、幾分か和らいだ青年の表情がそこにあった。
「キョウヤ、わたしも戦うよ。皆で勝って帰ろう」
「ああ、必ず」
治療を終えたミレイが隣に並び立った。
フィノアはまだ満足に動けないようだが、命に別状はなさそうだ。
「話は決まったようね。フリードが足止めしてる間に作戦を立てちゃいましょ」
「そうですね。あのような単調な攻撃だけで終わるとは到底思えません」
「キョウヤ、お前は奴と戦ったことがあるんだな? 持っている情報を全て出せ」
三人ともさすがに勘が鋭い。これが実戦経験の差というものか。
《ヴォイドガーディアン》はランク7の危険な魔物だ。一筋縄ではいかないと悟っているのだろう。
「……あと三回、黒い鎧の集団が出てくるはずだ。数も徐々に増えていく」
具体的にはHPを三割減らすごとに《ホロウソルジャー》が追加で召喚されていたのだが、この世界でそのタイミングまで推し量るのは困難だ。
「それから、ある程度ダメージを与えると炎を飛ばしてくるようになる。盾が青白く光った時は広範囲攻撃の予兆だから、必ず防御か回避をしてくれ。弱点は頭の炎で、アンデッドだから光属性の攻撃が有効だ」
ゲーム時代の戦闘の記憶を全て引き出し、余すことなく伝えていく。
高ランクの魔物にここまで詳しいのは不自然ではあるが、もう自己保身に走るつもりはない。
「面倒な奴ね。それなら、あたしは後ろから雑魚狩りに徹するわよ」
「では、私はフィノアさんを保護しつつ、余裕があれば頭を狙います」
「魔法攻撃持ちか。フリードは下げて、マリーの援護に回した方がいいな。代わりに僕が前に出る」
アインスら三人の判断は早く、あっという間に役割を決めていく。軽薄な態度は鳴りを潜め、熟練冒険者の威光だけが取り巻いていた。
「俺の情報が間違っている可能性もあるのに、そんなに簡単に信じて大丈夫なのか?」
これまでの経験上、魔物の動きはゲームで戦ったものに準拠している可能性が高い。
だが、もし自分の知っている行動パターンと違っていたら――そんな不安が頭をよぎった。
「馬鹿ね。今更あんたのことを疑うつもりはないわよ」
「あなたが善人であることは、私には痛いほど伝わっています」
「その時はその時だ。僕たちは元々お前に頼るつもりはなかったんだからな」
三人に次々と言葉をかけられ、心が温まる。今この瞬間、彼らは確かな仲間だった。
「助かる」
「お前は常に敵の背後から攻撃しろ。僕の邪魔をされても困る。ミレイさんにはキョウヤのサポートをお願いしたい」
妥当な指示に、キョウヤとミレイは同時に頷く。この戦いは《光の剣》が主役であり、二人は共演者にすぎないのだ。
それでも、今度こそ間違いを起こしてはならない。一度は殺されかけた相手なのだから。
「絶対に大丈夫。自分を信じて」
「ありがとう、ミレイ。一緒に、乗り越えよう」
ミレイに手を強く握られ、僅かに残っていた恐怖がどこかへ飛んでいく。もう、負ける気はしなかった。
「ちょっと二人とも、見せつけるのはやめてくれない? アインスが泣いちゃうわよ」
「マリー、大丈夫だ。この戦いで僕のかっこよさを伝えるんだからな」
「……アインス、目的が変わっていますよ」
戦闘前の準備とでも言わんばかりに再び軽口が飛び交った。朗らかな空気の中、キョウヤはミレイ、アインスと共に駆け出す。
フリードは相変わらず敵の眼前で独り大斧と舞っていた。その笑い声に少しの寂寞を感じたのは、きっと気のせいだ。




