憎悪の槍
余興を楽しむ、フィオーレ。それを阻止しようとロキシーがフィオーレに立ち向かうが…
「ヴェルディ…」
「はい、フィオーレ様。ここに」
ヴェルディの魔法で作った豪奢な椅子へ、フィオーレが腰を落とした。 そしてゆっくりとヴェルディが立ち上がる。 無音と共に城の一角が吹き飛び、砕け散った石材が雨のように降り注ぐ。 崩れた天井からは、冷たい雨が流れ込み、城に居る者たちを容赦なく濡らしていく。 フィオーレの周囲だけは違った。雨粒は彼女の頭上で弾くように逸れ、一滴たりともその身に触れない。まるで世界そのものが彼女に傅いているかのような光景に映る。
「少しは、広くなったわね」
嬉しそうに、フィオーレが微笑む。グラスを唇へ運び、ワインを一口、喉を鳴らす。その光景の裏では無数の命が震えていた。ヴェルディは再び片膝をつき、主人の命令を待つ。忠実な騎士のように。
「次は、そうね……」
ゆっくりと、フィオーレが周囲を見渡した。出口を失い、豪雨の中で怯える人々。絶望し、顔を歪める人間たちの絶望の賛美歌にフィオーレは笑いを堪えきれず嬉しそうに、ワイングラスを揺らし、その全てを眺めながら、彼女は楽しそうに品定めを始めた、その時だった。
「やめろぉぉ!!」
ロキシーが、フィオーレの座る王座へ剣を振り上げる。 怒りを乗せた一撃が、彼女に向かって振り下ろされた。
――キィィィィンッ!!
鋭い金属音が、城内に響く。 火花が散った。 ロキシーの剣は、彼女の元へ届く前に止められていた。 ヴェルディの鋼の腕によって。
「ヴェルディ。あれが、いいわ!」
無造作に、フィオーレが指を向ける。 その瞬間、黒い影が次々と姿を現す。その数は十や、二十では利かない。
「きゃぁぁぁ!!」
「だれか…助け一一!!」
悲痛な悲鳴が、所狭しに響き渡っていた。
フィオーレが出した影たちが、生徒たちへ襲いかかり、 剣が躊躇なく振り落とされ、次々に床に倒れていく光景に、フィオーレは笑って見ていた。魔法を使える生徒たちは自分の力を信じ抗い続けたが、その全てが黒い影たちには、通じない。 魔法は砕かれ、抵抗した者から順番に倒れていく。 床を赤く染める鮮血。 絶望の叫び。
「ふふ。素敵な音楽だわ!」
フィオーレは、 心から楽しそうだった。
「いい加減、止めろ!!」
ロキシーの怒号が響く。 その声に反応したフィオーレの手がぴたりと止まった。 グラスの中で揺れていたワインも静止する。
「何故?どうしてかしら?」
この惨劇を見ていても悪びれもなく、平然とした表情でロキシーを見つめた。本当に理解できないと言いたげなフィオーレの表情だった。
「罪のない人たちを、傷つけて何になるんだ!」
「ん一。そうね……」
ミシェルは顎に指を添え、考える素振りを見せる。そして、ニヤリと口角を吊り上げた。
「だって、オリエンダ王国は、私のモノになるんだもの」
ミシェルが愉快そうに笑う。
「なら、私が何をしても許されるでしょう?」
「はい。主様の御心のままに」
ヴェルディが、膝をつき頭を下げる。フィオーレが椅子から優雅に立ち上がった。ドレスの裾が、ゆっくりと揺れる。
「やめても構わないわ。けど、私のお願いも聞いてもらわなきゃ。ねぇ──?」
フィオーレがロキシーへ視線を向けた。
「ロキシーが、私のモノになると言うなら、このゴミたちは生かしてあげる」
くすくすと、手を顎に添えて笑う。 命を交渉材料にするその姿に、ロキシーの瞳が怒りで燃え上 がった。
「絶対にお前の、モノにはならない!人の気持ちを道具みたいに扱っていたら、誰もお前を選ばない!!」
静寂の沈黙が落ち、フィオーレが立ち止まったまま動かない。
「そう。ロキシー、貴方も──」
小さくフィオーレの唇が動いた瞬間、頭上の雷鳴が大きく轟はじめた。
「じゃあ、全部消えちゃえばいい……」
そう呟くと、宙に浮くフィオーレの身体。その瞳には、迷いなどない。あるのは、底知れぬ闇と憎悪だけだった。
「雷霆よ───」
フィオーレの低く冷たい声が、静かに地上に響く。その声に呼応するように、空を駆け巡っていた幾千もの 雷が唸りを上げた。黒き雷は互いに絡み合い、螺旋を描きながら形を変えると、一本、また一本と、その圧倒的な数の槍の姿に、数えることすら愚かに思えるほどの黒槍が、空を埋め尽くした。 空を見あげた騎士たちや、生徒たちの顔から血の気が引く。視界に映る全てが、その異様な光景に、誰もが言葉を失う。
「な、なんだ、あれは…」
「逃げろ!!」
その叫びを合図にしたかのように、人々は我先にと出口の扉へ駆け出し開かない扉を叩き叫んでいた。
「 あれは人が抗える魔法じゃ……」
「いやぁぁぁぁ!!死にたくない!!!」
だが、もう時すでに遅かった。フィオーレは静かに目を開き、口元が妖しく笑みを浮かべた。彼女の白い腕が持ち上がりそのまま、城へと落とすかのように腕を振り下ろした。
「すべてを貫け──雷槍・終焉の雨!!」
城全体が黒に染まった。
ドォーーン!!
耳を引き裂く爆音とともに、無数の黒槍が一斉に城へと降り注ぐ。それは雨ではない、終焉そのものだった。闇の雷が轟音とともに黒槍が地を穿ち、 四方八方へと弾け飛ぶ。爆煙と黒雷が幾重にも立ち昇 る。逃げ惑う者も、防御魔法で構える者も、祈りを捧げる者も──
「マリエット!!」
ロキシーが崩れる床を蹴り、爆風に煽られながらも、マリエットだけを見つめ走った。
"守ると誓ったんだ、絶対に二度と─失いたくないからと、あの日に誓ったんだ"
だからこそ、足を止めることなどできない。しかし、あと数歩、その数歩が、あまりにも遠かった。伸ばした手は、マリエットに届かない。
「くそおおおおっ!!」
「あはは!!全て消えうせよ!!これで終わりだ!」
嘲笑うフィオーレの声が響き渡り、ロキシーが握る剣の柄が軋むほど強く握り、唇を噛み締め、血が滲んでも構わない。 黒槍は無慈悲に、生徒や騎士たちへ。そしてレオハート国王陛下、そして──最愛のマリエットへ降り注ごうとした。
「やめろぉぉぉぉっ!!」
ロキシーの絶叫が、城内に響いた、その刹那。
─キィィィィン。
戦場を支配していた轟音の中、澄み切った鈴の音にも似た魔力の共鳴が響き渡ると、城を包むように幾重もの巨大な翠色の、魔法陣が展開された。黒槍は、その魔法陣へと、激突する。黒雷と翠の光が激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃波が城中を駆け抜ける。暴風が吹き荒れ、視界は閃光に呑み込まれた。 その光景を地上から見下ろしていたフィオーレの表情から、初めて笑みが消えうせる。その翠の強大な魔力は、そう──エルフ族の王、キール・ラバン。
お待たせしております。(*・ω・)*_ _)毎週日曜日に、小説更新できるように、そして最終話に突入し1話1話丁寧に編集や動きのある描写、迫力や臨場感のある戦闘シーンなどを試行錯誤しながら小説に組み込んでいて、少し投稿などが遅くなる場合がございますが、お待ちいただけると幸いです。
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翠色、翠色を表した表現になります。




