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第八十五話 猫の言葉

「そろそろ来るか」


 外観なら十代前半の少女に見える存在が呟く。長い薄桃色の髪を後ろに束ね、藤色の瞳が特徴的であった。

彼女の名はトーナル・フィア・フィンデル、災厄の魔女とも呼ばれる神々すら凌駕する世界最強の生物である。

気が短く傲慢で気分屋でありながら几帳面で不便さを好むとは彼女の数少ない友人の弁である。

友人を含めた親しい者は彼女の事をトーナと呼ぶ。


「ミャア(何がだ)?」


 足元に座る白い猫が何事かと尋ねる。トーナルの飼い猫とも相棒と呼べる存在で名はエネアである。


「帰ってくる」

「ミィ(ああ、そういうことか)」


 それから僅か後に来訪する。

 大教授とフロマージュ、トーナルの弟子二人の突然の来訪に驚くことなく茶の準備をする。

茶葉はトーナルの茶葉畑から収穫した新芽を蒸して冷まして乾かしてと時間をかけて作っていたものを淹れる。


「ほら、お茶」

「……相変わらず無駄に手間がかかってる。魔術を使えばもっと簡単に出来るんじゃない」

「手間が重要なんだよ」


 まだまだ幼いフロマージュには手間暇をかける良さを理解出来ていない。


「ヴァルナムシアの方で魔力が大きく乱れていたようだけど」

「ディエレーズと交戦した」

「そう、大変だったようだね」


 特に心配する事もなく淡々と言葉を紡ぐ。


「そう、あれを護るために」

「師匠っ!」


 何を言いたいか即座に理解したフロマージュが咎めるように叫ぶ。


「アンタらがあれを大切に思う事は自由にすれば良いけどアタシからすれば魔人達と同じ考えだよ」


 即ち排除しても構わないという考えだ。


「なんで母さんを」

「アタシはアンタとアイリッシュが産まれた事は喜ばしい事だと思ってる。だけれども別の話」

「各々の理屈はどうであれ私がスエレと共に生きようとした。結果が今回の騒動だ」


 ふうっとトーナルが溜息を吐く。師匠として小言を少し言いたい衝動に駆られるが飲み込んだ。

言ったところで結論は変わらないのを知っている事も大きな理由である。


「それで本題は?」

「向こうの世界では通常通りに魔術が使えなかった」


 向こうの世界に行った事を説明はしていないが、トーナルは驚きはしない。


「ああ、アタシも随分昔になるけど行ったことがあるから覚えがあるよ。持っていける魔力が少ない上に回復も殆ど出来ない。それに燃費が著しく悪くなる。特にアンタやアタシみたいに魔力が多いのはね」


 棚から小さな黒い箱を取り出し机の上に置く。


「持っていきな。少しは燃費が良くなる」

「それとエネアも連れて行く」

「ニャ(なんで)!」


 突然名前を呼ばれ鳴く。困惑して動きを止めて固まっていた。


「別に良いよ」


 トーナルは悩む事なく承認する。エネアは寝耳に水もいいところである。


「ニャア(トーナ、やだよ)」

「エネアも乗り気のようだな」


 今更であるがエネアの言っている事をトーナルとフロマージュは正しく理解している。即ち、大教授は一切理解出来ていない。


「ニャアッ(嫌だってつってんだろぉぉ)!!」

「これが欲しいのか」


 マタタビをエネアの鼻先に突き出す。エネアの好物である。


「ニャア(なんでテメーは言葉が分かってないんだ)!」

「魔術の才能はアタシよりあるのに猫の言葉が分からないからね」


 トーナルの言葉にこれ(大教授)に必ずしも万物を与えられているわけでは無いとフロマージュは理解するのだった。

いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回は再来週の水曜日の18時〜20時の更新になります。

また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。


誤字脱字報告や感想、評価などいただければ今後の励みになりますのでどうかよろしくお願いいたします。

また、ここが分からないやここがおかしいなどの疑問もあれば気軽に質問ください。

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