第八十二話 夢が終わり現実に続きます
入場する時には緊張は消えていたので僅かに胸躍らせる高揚感があります。
光の向こうの進んだ先では声援を受けました。自分のことながら暖かく受け入れらるのはとても嬉しくてなんだか恥ずかしいですね。
少し余裕が出来て周囲を見るとあることに気づきます。エルシア様と婚約者であるフォン皇太子殿下が既に入場されていました。
「……もしかして私たちが最後でした?」
「そうなるな。テアトルは私よりも先に入場していた。エルシアとフォンは主催側だ。結果として私達が最後になった」
エルシア様が開催の挨拶をしています。
会場の雰囲気は固くありませんが皆さん話を聞いています。
「挨拶が終わったら踊る事になる。言うまでもないが私に踊りを期待するな」
「そこは身を任せて良いと仰って欲しいですね」
「お前はエルシアと練習したのか?」
「はい。楽しかったですよ」
身体を動かす事は嫌いではないのです。だから旦那様とも運動する……その、性的な意味ではありませんよ。
「……すみません変な事を考えていました」
「何を考えていたんだ……ダンスはお前に合わせた方がいいな」
「分かりました。お任せください」
エルシア様の挨拶はまだまだ続きます。
「パーティーの雰囲気にはあまり慣れませんね」
仮にも侍女長の立場ですので参加する事は度々ありますが慣れる事はないようです。というより普段はお嬢様の付属品なのであまり気にならなかっただけですね。
「目にする光景や受け取る匂いが普段とは異なるのが原因の一因だな。先程渡した魔法石は持っているな」
「はい。大切に持ってますよ」
服の中に忍ばせています。旦那様の手から仄かに暖かい熱を感じると良い匂いがしてきます。
「魔法石に私の魔力を込めた。この方法であればよりストレスの緩和が期待できる」
「ありがとうございます。あ、エルシア様のご挨拶が終わりましたね」
終わりに合わせて拍手をすると続けて公爵閣下が一言告げます。
「私から言う事は無きに等しいが、企画から会場の設営に携わった者には感謝しよう。今日は硬い言葉は不要だな。取り敢えずお前達はとっとと踊れ」
私達に向けての言葉です。言われずとも自然に手を取り合い力を合わせる。ダンスだけでなく何事も旦那様と一緒にこれからも……これは思考の至福の時間です。
「ママっ!!」
いつの間にか寝ていました。ノルカさんが顔を覗かせてきました。少し近いです。
「ダンスの途中だったのに……あれ? ノルカさん、今は……いえ、私達が居なくなってどれくらい経ちましたか!?」
旦那様とダンスをしたのは数ヶ月も前の話です。夢を見る前は旦那様と転移したことです。
つまり、私は元の場所に帰ってきたのです。
「それなら二日でござる。拙者も準備出来たからママを追いかけようとしたけど帰ってきてくれてよかったでござる。突然、ママを抱いた兄者が現れたのだが兄者の奴はママを寝かせるとすぐに離れやがって甲斐性なし!」
「……旦那様も無事なんですね。マージュちゃんとリッシュ君は?」
「二人ならお眠り時間、レティちゃんもだけど起こすのは可哀想でござる」
大きく息を吸って吐き出します。長い夢を見ていましたし、それ以前に長い旅をしてきました。
残っている大きな課題や疑問はありますが、今この瞬間だけは安堵させてください。
いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回の再来週こ水曜日の18時〜20時の更新になります。
また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。
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