第八十一話 争うことはずっと延長してください
会場へ向かう途中、珍しい人と会いました。
「リロ君、お久しぶりです」
旦那様の双子の妹のリロ君です。旦那様と同じ場にいるのが珍しいというよりも初めてでした。
双子だから旦那様に似ていて、旦那様を女性になったらリロ君になりますね。
それとリロ君から僅かに覚えのある甘い香りが漂います。
「スエレ、ノルカの呼び方を真似なくていい。まあ、それは良い。兄よ、一応の解決はしたようだな」
「一応な」
「それで良い。過去は救ってくれない。救うのはいつだって」
リロ君が私を見ています。
「さて、あと時間は僅かだ。故に」
「ひゃっ!?」
旦那様に腕を掴まれてリロ君から私を庇うように前に立ちます。
「旦那様?」
「ここで決着でも着ける気か?」
「それも良いな。僕としては機会があればと思っていた。それが今だが……気が変わった。レティシアにクッキーを貰ったのと偶には母にでも会ってみたくなった」
踵を返してリロ君は立ち去りました。私は安堵します。
旦那様とリロ君の間に剣呑な雰囲気があったからです。
「旦那様とリロ君は仲が良くないのですか?」
「私と母は互いに気に入らないから殺し奪い合う。だがリロードとは良い悪いではない。私とアレは生まれた時から二つに一つだった。だから奪い合う。
今までしなかったのは互いに理由をつけて延長させていたに過ぎないからだ」
「そうですか。ではずっと延長してください」
二人の関係に私が簡単に口出しできる事ではありませんが、望みとしては争わない事です。
誰も争わない事は不可能であっても、近くにいる人達だけでも争わないで欲しいと思っています。
「……善処する。それとありがとう」
「えーと、なんで感謝を?」
偶に旦那様は素直に感謝の言葉を口にしますが、理由が分かりません。
「珍しく察しが悪いな」
「むっ」
「お前がいなければ私はリロードと殺し合っていた。互いにスエレがいるからと延長する事にした。それとお前が焼いたクッキーのお陰だ」
表情変化の少ない旦那様ですが、この時は少しだけ笑っていました。余談ですが私はこの旦那様の表情がとても好きです。
それとクッキーを焼いたのはお嬢様です。今更ながらリロ君から漂った甘い匂いはクッキーでした。
「それは良かったです」
「お前にはいつも助けられているな」
あの、なんでそんなにデレるんですっ!!
思わず顔を背けてしまいます。
「どうした?」
「いえ、偶にだと驚きまして……」
「悪かった。偶にで」
少しバツが悪そうな旦那様です。私は笑顔を向けます。
「許してあげます。だから行きましょう」
「そうだな。行こう」
寄り添いあって歩きます。緊張はもうなくなっていました。
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次回は再来週(7/8)の水曜日の18時〜20時の更新になります。
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