第八十話 願いはやがて世界樹の麓で叶います
パーティーまで残り時間が僅かになりました。今は控え室で待機しています。
普段なら出迎える側ですが、今回に限っては私は旦那様と会場入りする出席する側です。
お嬢様達といる時は保護者モードですが今は旦那様と二人なのでこの後のことを考えて……
「緊張してきました」
「珍しいな。お前は図太い訳ではないが緊張を表情にあまり出さない」
「そうでしょうか? 表情に出している気はしますし緊張はよくしてますよ。お嬢様のお披露目会の時、皇帝陛下に謁見した時、少し前のお義父様、お義母様にお会いした時です。それから……」
話していると少しずつ言葉に不満を含まれていきます。
怒っているわけではありませんが気持ちを受け止めて欲しいとは思います。でも、これはいけませんね。旦那さまが相手だと甘えてしまいます。
「落ち着いたか?」
「……少しは」
旦那様が私に近づいてきます。仄かに良い匂いがします。
「使うか?」
「あ、はい。これって魔法石ですよね」
今日作ったクッキーと同じくらいサイズの大きめの翠色の宝石を受け取ります。
「緩和石……ストレスを弱める為の石だ」
「もしかして作ったのですか?」
魔法石の入手手段は限られています。天然物を採掘する方法が一般的ですが旦那様のような高位の魔導師であれば生成できるようです。
「大した代物ではない」
「有り難くいただきますが、無理はしないでくださいね。その能力は旦那様の魔力だけでなく生命力を削るのですから」
「ランクの低い石であれば些細な話だ」
「だから、私が言いたいのは」
少しだけ語気が強くなります。そうなった理由は私が旦那様を心配していることに旦那様が不思議そうに思っているからです。
「悪かった。お前が私を心配していることが意外だった」
「……心配してますよ」
明確に苛立ちを込めた言葉になりました。
「分かった。ありがとう」
旦那様は落ち着いて感謝の言葉を口にします。これでは感情的になった私があまりにも幼稚に思えてしまいます。
「スエレ、お前は疲れていないか?」
「もしかして心配してます?」
ここで私は一考してから口を開きます。
「手を握ってくれますか」
すぐに旦那様は手を握ってくれました。常に白い手袋を付けていますが、とても暖かく穏やかで幸せな気持ちになります。
「私はチョロいのかもしれません」
「いきなりどうしたんだ?」
「前にマージュちゃんに言われました。『母さんはアレに甘いし、すぐに甘やかされる』って……やっぱりあの子には両親の惚気ているところを見るのは恥ずかしいのでしょうか?」
「そんな感じだろう」
呆れたようなニュアンスを感じる言い方です。
「旦那様、はっきり答えて下さい」
「……単純な話だ。フロマージュにとって私は忌々しいだけの存在だ。故に出来る限り近くに存在しない方が良いと思っている」
「そうでしょうか? あの子もリッシュちゃんも旦那様に対しては素直じゃないからだと思います。良い子達ですけどお嬢様を見習って素直に育って欲しいですね」
「……そうだな」
色々考えた上での『そうだな』です。……旦那様はマージュちゃんとリッシュちゃんを大切にしていることを疑ってませんが、愛情とは違うのかもしれません。
「旦那様、私のことを愛していますか?」
「変わらず愛している」
自分から尋ねたのに恥ずかしさと嬉しさで頬が紅潮して熱くなるのを感じます。
尋ねる前から旦那様の答えは分かっていました。それはもう信じていました。
「マージュちゃんとリッシュちゃんは愛していますか?」
「……よく分からない。今日、母と会って気づいているだろうが私は親子愛を理解していない」
正直な答えでした。変に取り繕われるよりは良いですがやはり複雑ですね。
「思い返せば何度も殺し合っていた」
「どうしてですか?」
「端的に言えば互いに気に入らないからだ。或いは奪い合う関係を定められているからとも言える」
「運命ですか……旦那様らしくないですね」
「そんな気取った綺麗な言葉ではないな。血みどろで惨たらしい話だ。こればかりはどうしようもない。しかし、そう考えるとフロマージュとアイリッシュを始末する気はないだけ幾分か平和的だ」
正直納得は出来ませんが……だからこそ私は思いました。
「旦那様、今度で良いのであの子達を抱きしめてあげてください」
「……考えておく」
私のお願いは後日、意外な形で叶うことになりました。
そして、私と旦那様は手を繋いで会場へ足を運びます。
いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回の再来週こ水曜日の18時〜20時の更新になります。
また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。
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