第七十八話 お義母様とお話ししました
お嬢様のお陰で争う事を止めた旦那様とお義母様です。
お嬢様が対話をするように訴えると……
「……天気が良いな」
「虫が鳴いているか」
窓から離れた室内なので天気の良さは分かりません。また、虫の鳴き声は聞こえません。
平和的な会話をしようとしてますが噛み合っていません。
「今の時期は蜜柑が旬だな」
「最近は長い髪が流行のようだ」
暗号のやりとりでもしてるのではないかと思うくらいに互いに一歩通行な事を言います。
「お姉ちゃん、皆で食べる為に持ってきたのね」
お嬢様がティーポットとお菓子の入ったバスケットを差し出してきます。ティーポットの中身は熱い紅茶ですね。
「お茶はいかがでしょうか?」
提案ではなく宣言に近い形です。ノルカさんが机と食器の準備してくれたので人数分のお茶を淹れます。
「お義母様は紅茶は苦手ですか?」
「いや、問題ない。大分淹れ方が上手いな」
親子だからか話し方も旦那様に似ていて少しだけ頬が緩みます。
「仮にも侍女ですので作法は心得ています」
「それに美味いな。菓子はお前の手作りか」
「母殿は味が分かる御人なのか。兄者とは大違いでござる」
「喧しい」
争うことがないのは良いことと考えていましたが……旦那様とノルカさんが少し離れた位置で喧嘩をし始めました。困ったことに公爵城ではある種の恒例行事になってます。
「止めてくるね。リッシュちゃんも行こ」
「うん」
「ワンっ」
困った二人を止める為にお嬢様達が席を離れ私とお義母様の二人になります。もしかしたらお嬢様は私とお義母様が話せる状況を作ってくれたのかもしれません。
「……あれを番に選ぶとは物好きだ。何処が良いんだ?」
呆れるようにお義母様が言います。当然、旦那様の事を指しています。
「実は旦那様とどんな出会いをして恋をしたのか記憶がないんです。一番古い記憶にあるのはあの子たち……マージュちゃんとリッシュちゃんを出産した後です。
ですが旦那様を深く愛しています。それに旦那様もきっと同じだと確信してます」
妙に私から距離を取る旦那様ですが、私はしっかりと愛情を感じ取っています。
「眩しいな。男の趣味は最悪だが…….もか、似ているな」
お義母様は私を見ながら別の人を見ているようでした。
「もしかしてお義母様は私の過去を知っているのでしょうか?」
「殆ど知らないな。あれに聞かなかったのか?」
旦那様に訊く……何度も考えたことがあります。でも旦那様は私の記憶を取り戻すことに否定的だと感じています。
だから聞けませんでした。
「余計なことは敢えて言わない。だが本当に知りたいのならあれに聞けば良い。罪に向き合わせるのも一興だろう」
「罪ですか?」
「あれが行った最大の罪だろうな。私からすればそうでなくとも……奴等とあれにとってはな。余計な事を少々言い過ぎたな。
お前の淹れてくれた茶は美味かった。世話になったな」
お義母様は風のように消えていました。
「二人を連れてきたよ。あれ? リッシュちゃんのおばあさん帰っちゃった!?」
「婆さん勝手だから」
「スエレ、あれと何か話したのか?」
旦那様に質問されます。実の親子なのに互いをあれ呼ばわりしてますね。でも言い方が一緒なのがそっくりで微笑ましか思いました。
「少しだけ内緒の話をしました。……そろそろ準備に戻らないといけませんので私は失礼します」
「もう行っちゃうの!?」
「はい。まだまだする事がありますので」
名残惜しさはありますが忙しいのは嘘ではありません。
「旦那様……」
「どうした?」
「いえ……踊るのを楽しみにしています」
訊くことはできませんでした。今はまだ取り戻すことは早計だと思ったからかもしれません。
でも足取りは重くはないです。
何があったとしても今が幸せであることに偽りは一切ないのですから。
いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回は再来週こ水曜日の18時〜20時の更新になります。
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