第七十話 旦那様をお出迎えします
公爵城の玄関口で私達は旦那様とテアトル大将を出迎える為に集まりました。
私から少し離れた位置にはマージュちゃんとリッシュちゃんが出迎えに消極的なのか柱に隠れるようにしています。
久しぶりに会う事もあり自分自身の心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じていきます。
「スエレさん、珍しく緊張してますね」
隣に立つサキさんが私の様子を伝えてくれます。エルシア様付きの侍女長である偉い方なのですが、周囲に目を配れる視野の広さと優しさをお持ちです。
「そ、そうですね。緊張してきました」
初めてでもないのに旦那様をお迎えするのは毎回緊張している気がします。
「それなら少しお話しませんか。私は貴方と話をしたいと思っていました」
出迎えをする前にお喋りをするのはあまり良くないように思えましたが、後ろに立つエルシア様が許可すると視線で送ってくれました。
では甘える事にします。私もサキさんとお話ししたかったのです。
「スエレさんと大教授の馴れ初めはどんな形ですか?」
「旦那様との馴れ初めですか? 実は私はよく覚えていないんです。旦那様曰く、昔からお互いに知っていたと」
「幼馴染というものですか」
答えていた旦那様は少しだけ煙に巻くような言い方だった気がします。
「はい。多分そうじゃないかと思います。それと私がよく覚えてないと言ったのは私は昔の記憶が無いからです」
「お話はエルシア様から伺っております」
「そうですね。この事は公爵閣下とエルシア様もご存知でした」
覚えているのはベッドから起きた時にマージュちゃんとリッシュちゃんがいてノルカさんがいた事です。
記憶が無いのにマージュちゃんとリッシュちゃんが自分の子どもである事とノルカさんが味方であると分かっていました。少しだけ混乱しましたが順応するのに時間はかからなかったと思います。
それに旦那様を見た時、私は一目惚れをしてしまいました。その時は旦那様が私の旦那様と知らなかったので夫婦関係である事を知った時は天に昇るような嬉しさがありました。
「失礼しました。この件は守秘義務です。エルシア様に仕える者でも私しか知りえない事です。当然、他の者には伝えてはおりません」
「いえ、そこまでして隠す事ではないかと」
例えばメノアさんは知りませんが、隠しているつもりはないので話していいと思っています。
「……本件は公爵閣下より情報規制されています。スエレさんの問題ではなく大教授の正室であるからですね」
「旦那様の弱みになるからってことですね」
「はい、大将である大教授を敵視する者は帝国全土に存在します。故に些細な弱みでも掴みたいものは多いです。尤も大教授を脅かせるとは思いません」
断言する言い方です。確かに旦那様にとって私が弱みになるようには思えません。
「ヴァルナムシア帝国は世界最大の軍政国家です。貴族や皇族よりと将官の方が権威を持っています。そして大教授はテアトル様、イーギア様と肩を並べる大将、元帥を除けば最高位になります。……失礼しました。スエレさんも理解していた事ですね」
サキさんが仰るように当然知っている事です。だから私は不思議に思えます。今でこそ公爵閣下に認められて爵位を授かっていますが、当時は幼馴染と言っても一介の承認に過ぎない私を娶ったのでしょう?
旦那様を疑う気持ちはないですが不思議ではあるのです。
「改めて聞くと旦那様は凄い方ですね」
「……そうですね。ですが我々からすれば貴方の方が……来られますね」
扉が開きます。ゆっくりと二人の人物が入ってきます。テアトル大将と旦那様です。
「おかえりなさいませ」
サキさんが代表して声を掛けます。一応私とサキさんの立場は同格ですが、言うまでもありませんがサキさんの方が先任の先輩です。だからサキさんが使用人の筆頭になります。
「出迎えご苦労様、エルシアもありがとう」
「ええ、大将殿を迎えるのは下々の役目だもの」
兄と妹の関係ですがお二人はあまり兄妹仲は良くありません。皮肉が込められています。でもより強い視線が旦那様に向けられます。
「それからもう一人の大将殿は若妻と幼子を置いていった薄情者はどの面下げて此処に来たのかしら?」
あ、エルシア様が旦那様にお怒りです。
思い返すと旦那様が帝都に向かう時も物凄く怒っていました。私は寂しさを覚えましたが仕方ないと割り切っています。
「囀るなエルシアっ……スエレ、ただいま」
「はい、おかえりなさい」
多分、今日一番の笑顔で旦那様を迎えられたと思います。
※ややこしいですが元々のスエレも記憶喪失です。
双子の出産前の記憶を失っています。
それから数年後に2回目の記憶喪失しました。それが本編の第一節の話です。
いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回は再来週こ水曜日の18時〜20時の更新になります。
また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。
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