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第六十九話 公爵閣下の昔話

 公爵閣下はふうっと大きな息を吐き、人差し指と中指で何かを挟む動作をしました。煙草を吸おうとしたのでしょう。


「いや、今はいいか」

「……」


 私だけなら構いませんが、マージュちゃんとリッシュちゃんがいる時は避けていただきたいので助かりますと表情で答えてみます。


「ちっ、お前もエルシアと同じで煙草に煩い方だな。まあ良い、では昔話でもするか。私がお前たちと同じくらいの齢の頃だ」


 マージュちゃんとリッシュちゃんと同じ頃、本当に幼い頃の話のようです。


「当時のヴァルナムシア帝国は現在以上に荒れていた。今が良いとは口が裂けても言うつもりはないが昔が酷かったのは事実だ。水滴一つで傾く天秤と称されたのが当時の不安定さだ。そして、大きく傾いたのは私の披露パーティーだった。

公爵家の長子として産まれた私であるが、その血は少しばかり特異でな。

現在併合されているがフリングル公爵領の南側はかつてジェリック公爵領と呼ばれていた。いや、この程度の常識さノルカでもなければ理解しているか」

「……はは」


 困惑しながら笑います。知識としては旧ジェリック公爵領を内包している事を理解しています。


「私の父はジェリック公爵家の末席ではあったが唯一の正当な後継者であった。故に若くしてフリングル公爵家の当主となった母と政略結婚する運びになった」

「当時のフリングル公爵とですかっ!」

「様々な意見はあったようだが、結局のところ強い結びつきを優先したとの事だ。結果が私が産まれ融和の結束の印となった」


 それを誇るのでも嘲るのでもなく淡々と公爵閣下は話します。


「つまりは最大の急所であった。私が死ねば積み重ねたものは全て無に変える。……嫌なものだな」


 独り言を呟くようでした。実際に独り言だったのかもしれません。


「披露パーティーの日、運悪く賊に狙われた。ああ、皮肉で言っている。

お前は察せるだろう。誰が主犯か」

「他の公爵家ですね」

「ああ、当時の皇帝と先代皇帝、大公、ルクエール公爵の共謀だ。余程私が邪魔だったようだ」


 全方位が敵だったのでした。


「母は私を逃がすために闘い、皇帝に討たれた。父は大公の差し向けた暗殺者に殺されたよ。母と違い弱かった父は何も出来ず死んでいた。目の前で死んだのにな。

己の運命をあの日ほど呪った程はなかった。挫折ですらなかった。理不尽の濁流に飲み込まれ押し潰される。

次の瞬間に父と同じようになると思った時、私の目に映った嗤っていた暗殺者でもなかった。月明かりに照らされた銀色の鎧だった」


 銀色の鎧?


「いつからいたのか何処から来たのかは不明だが、それは私の眼前に立っていた。理解出来たのは一つだけ、そいつが私の味方である事だけだった。不思議なものでな何故か納得したんだ。

そいつは私を一瞥して『シア』と呼んだ。同時に暗殺者が隙を突くように動いていた。

この時のことは今も忘れられんよ。奴は最小の動きで暗殺者達の首を切り離し命を絶った」


 幼き日の公爵閣下を救った存在、誰なのか分かってきました。


「奴は自身の事を『当代の大教授』と自称した」

「当代の……旦那様の前の先代という事でしょうか?」

「今となっては確認しようがないが、私はそうであったと思っている。ああ、それから奴は言っていたな。いずれ私は次代の大教授に会うとな。知っての通り当代の大教授には会ったわけだ」


 当代の大教授……旦那様です。


「先代の大教授は今はどちらに?」

「分からん。消えたからな。最後まで正体は分からなかった。ただ私の友だったことに違いはなかった。

こんな話がある。奴は意外にも手先が器用でな巻き寿司をよく作っていたよ。本来は新鮮な海産物を中の具材にしたかったが海や川が近くにない時は代わりに野菜を使っていた。だが私は野菜が嫌いでな」


 公爵閣下の野菜嫌いは有名です。お嬢様も野菜が苦手ですので公爵閣下に似てしまったのかもしれません。


「まあ、私の野菜嫌いを加味してもあれは不味かったな。苦い渋いエグいだ。ますます野菜を嫌いになる。しかし、奴は私に食わせてくる。忌々しいと子供心に思ったものだ。奴なりに思うこともあったのか改善してきてな巻き寿司に合う野菜を使うようになった。アスパラガス、牛蒡春菊、胡瓜……私からすれば不味いが少しはマシだったな。最終的にアボカドに辿り着いたがこれは美味かった」


 だから公爵閣下はアボカド入りの巻き寿司が好きなのですね。他に穀物類と肉類を好んでいますがもしかしたら昔のお仲間との思い出の品なのかもしれません。


「姐さん、今良いか? 報告がある」


 部屋に若い男性が入ってきます。エイザー・ハルマート少将です。ハルマート侯爵家の当主でフリングル公爵領の実質的なナンバー2で公爵閣下の片腕の凄い方です。


「エイザーか、何だ?」

「テアトル達が帰ってきた。出迎えはどうする?」

「気は進まんが対応しよう。お前達も来るか?」


 私達に問いかけてきたので答えます。


「はい。行きます」

「「………行く」」


 マージュちゃんとリッシュちゃんは乗り気ではあまりなかったみたいです。

旦那様に懐いていないと言いますか反発心があるのが少し困りものですね。

 公爵閣下の話は中断されてしまいましたが、続きはまたの機会にしましょう。

いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回は再来週こ水曜日の18時〜20時の更新になります。

また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。


誤字脱字報告や感想、評価などいただければ今後の励みになりますのでどうかよろしくお願いいたします。

また、ここが分からないやここがおかしいなどの疑問もあれば気軽に質問ください。

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