第10話 隠れん坊
先日のコメントが面白いのが多くて一人で笑っていた三三屋です。
ほんと小説書けよ、と思うくらいにユーモアにあふれてる人が沢山いて勿体無いなぁとも思ってしまいました。
どうぞ。
金曜日、早朝。
相も変わらず学校へ向かう輝の姿が通学路にあった。
しかしその姿はいつものように背を丸め、人目を憚るように歩く輝の物ではなく、背筋を伸ばし、いつものような陰鬱な表情とは一変。爽やかな微笑みさえ浮かべながら輝は歩いていた。
言うまでもないが彼を知るものからすれば死ぬ程とても不気味な光景である。
しかし今の輝にはそんなことさえどうでもいい。なぜなら今日は待ちに待った金曜日である。
明日から天国と思える2日間が始まる訳だし、なによりエミリオに会えることを考えるだけで学校など苦にも感じられない程輝の心はウッキウキだった。
あぁ、太陽の光が心地よい!
なんて素晴らしい日常なんだ!
すべてのものが光り輝いて見える!
輝だけに、なんつって!
あぁそこのリア充グループ君たち、おはよう! いい朝だね!
と、アイデンティティー崩壊レベルの爽やかさを讃えた輝が学校――そして自分のクラスへとたどり着く。
「おはよう!」
『!?』
笑顔を浮かべながら朝の挨拶をし、クラスに入ると、一斉にクラスメイト達がぎょっとした目で輝を見ていた。
「?」
よくわからない反応だったが、まるで『今まで何も喋ったことが無いような、超絶根暗で何考えてるのかわからない奴が別人かと思ってしまうほどのテンションを振りまいてきたのを見てしまった』みたいな顔だった。
まぁこんなコミュ症がクラスメイトたちの心情を推し量ることなんて無理ゲーなので、ほぼ確実にそんなことではないのだろうけど。
いつも通り自虐的思考回路のままそんな事を考えながら、とりあえず定位置である自分の席へと向い、鞄から教材を全部出し順番に並べて机に仕舞う。
その作業の最中に、輝の目の前に人影ができた。
「ひ、輝? お前、輝だよな?」
短髪の黒髪と、自分よりも大柄な体躯をした、割と体育会系と言われても納得出来てしまうような男子生徒――飯塚慧の姿。
補足を入れるとすれば、唯一クラスの中で輝がドモることなく話すことができる優秀な人材である。
そしてその慧が、何故か見てはいけないものを見る目で輝を見ていた。
「えっと、慧君には俺がどう映っているのかな?」
「慧君!?」
次は顔を青ざめさせて輝の呼び方に対してオーバーなリアクションを返した。
「ひ、輝。どうしたんだお前。どういう趣向だよそれ。あんまり傷付けたくないから遠回りして伝えると、お前の高校デビューは火葬後の心臓マッサージだぞ?」
「そんな遠距離から一方的に責め立てるようないやらしい言葉の暴力見舞われる位なら、いっそ直接的のほうがまだ精神衛生上良いんだけど」
「手遅れだぞ?」
「結局そっちもいうのかよ!!」
「あ、よかった。相変わらずお前だったんだな……」
よくわからないやり取りをしている間に、朝のチャイムが鳴ってしまった。
◆
今日の一時限目の授業は珍しくLHR。時期を見れば学園祭もそう遠くはないので、それに関係することかも知れない。
授業が始まるであろう時間の五分前。教師が来ないうちにとばかりに生徒達は話題に花を咲かせている。
「まぁうん。朝のことは忘れてくれ。ちょっとあれは、最近出来た友達に引っ張られた結果というか、イケメン力に俺の僻み精神が浄化された結果だったんだ」
「お前いくらなんでも現実で男友達できないからって乙ゲーの攻略対象を友達呼ばわりは流石に……」
「ちっげーよ!?」
こいつなんてことを言うんだ。
呆れた眼差しでこちらを見る慧の姿に、輝は殺意を覚えつつも堪え、話題を切り替えた。
「ま、まぁそれで聞いてみたいことがあるんだけど」
「ん、なんだ?」
「なんで慧って俺と話すの?」
「……え。お前いくら現実世界がBL展開に向いてないからって俺に手を出そうとするのは……」
「いやいや違うから! 違うから! 純粋に興味で! だって慧って普通に友達たくさんいるだろ? なのに何で俺と話してんだろーって!!」
純粋な疑問だった。この付き合いは、昔からあったわけでも、友情が育まれるようなサクセスストーリーがあった訳でもない。
二年に進級してから同じクラスとなった慧がただ何となく話しかけてきて、それからちょくちょく輝の所に顔出しに来るようになったという、身も蓋もなければ中身も無い出会いだったのだ。
「あー……。まぁお前からしたらそうかもな。確かに俺みたいに友達付き合い多い奴がお前だったらお前みたいな面倒くさい奴に構わなさそうだし」
「うん。否定はしないけど顔面腫れ上がるくらいに殴らせろ」
「いやだよ。……まぁ大した理由じゃないけど、一緒にいて楽だから、だな」
「楽?」
「そうそう。どうしても人間ってのはそれぞれの主張とか言いたいことがあってさ、大きなグループになればなるほどそういうのって無駄に面倒くさく絡み合うんだよ。どちらか一方をたてればまたこっちが、ってな具合に面倒事が多いんだけど、その点お前ってそうじゃないから。主張激しくないし、一緒にいて気が楽っつーかこうやって適当にダベってられる所が良いんだよなぁ」
そういうものらしい。主張が激しくないから一緒にいて楽というのは、褒められてる気もあまりしなかったが、それでも本人がそれで助かった様に表情を崩しているのを見れば、輝も何も思わないわけではなかった。
「へぇ。そんなもんか」
「あぁ、そんなもんだよ」
軽口を叩き合っていると、ついにガラガラと廊下と教室をつなげるスライドドアが引かれた。
生徒達が慌てて席に戻る中入室してきたのは――。
クラスの中がざわめきに包まれた。
中にはおおお! と歓声じみた声を上げる男子生徒まで現れる始末。
その中で輝は――即座に顔を伏せるという行為に及ぶ。
そうせざるを得なかったのだ。
何故ならば、そこに現れたのは担任教師ではなく生徒会メンバー。
つまりそれは――あの百合ヶ丘百華の所属するグループという事なのだから。
「……ッ」
「え、なんで生徒会が――って輝? お前なにしてんの? なんでうつ伏せになって震えてんの?」
やばいやばいやばい。
どうしよう。顔がバレたら死ぬ! 怒られる! この前サボったことさえもしかしたら生徒会長には知られてるのかもしれない!
もしバレていたとすれば……。
◆
「あなた、この前の生徒ですね」
「そうでーす」
「あのあと学校をサボりましたね」
「はーい」
「そうですか、じゃあ死刑です。死ねぇ!」
◆
(こうなるに決まっている!)
独断と偏見と被害妄想にまみれた輝の感性が言っている。絶対にこれで間違いないと。
「皆さん、お静かに」
パンパン、と百合ヶ丘生徒会長が手を打ち鳴らすと、周囲の声は一気に消えた。生まれるべき時代を間違えたとしか思えないカリスマだ。
「これより、生徒会の管轄で抜き打ち持ち物検査をさせて頂きますので、皆さん机の上にカバンをおいてください」
その言葉に、えぇー! とクラス中から声が漏れた。理由はお察しである。
「最近生徒達の不要物持ち込みが増えているという報告を受け、今回この様な抜き打ち検査を生徒会が受け持つこととなりました。ですので、もし今回不要物を持ち込んでしまった生徒は反省し、以後持ち込まないように気を付けてください。なお持ち込みが発覚した生徒は物品没収の上、反省文提出の義務があるので忘れないようにしてください」
ということらしかった。輝からすれば不要物の持ち込みについては何も心配はないが、生徒会が態々それを行う事に対してまるで狙いすましたようなタイミングで誰かが始めたようにしか思えないくらい最悪の展開だった。
一人、また一人とクラスメイトたちが徐々に断罪されていく中、輝の所に段々死神の足音が近付いてくる。
どうしよう……! まじでどうしよう。やっべーよ! やっべーからこれ!
思わず語彙が貧困になるぐらいに輝は混乱の極地にいた。
顔を伏せたまま輝は冷や汗をダラダラと流し、打開策を必死に模索する。
① お腹が痛いと言って保健室へ向かう。 考えられない手でもないが、少なくとも荷物検査をやってる手前素通りは出来ないはずだ。制服の方も調べられる可能性がある為、危険性が高すぎる。
② 寝たふりをする。
生徒会長に殺される。
駄目だ! どう考えてもまともな案が浮かばない!
緊張してきたせいか、いよいよ輝は思考さえまとまらなくなり、ふるふると体が震える。
そこに―――ついにやってきた。
「それでは鞄をお願いします」
まるで断罪するように、睥睨するように頭上から声が掛かる。
顔を見なくても輝にも分かった。
生徒会長の声だ。
「……」
無言のまま、ついに輝も覚悟を決めた。
そして輝が選んだ方法とは――。
主人公君絶体絶命。
やべー奴に捕まりかけるの巻き。
あと途中に紛れ込む激寒ギャグ(ry
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