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魔王討伐 ⑥

街の酒場の中でも、そこそこ値の張る店に俺は二人の人物を呼び出した。


「―てことでさ。お前らに頼みたいのよ。」


内容が周りに聴こえない様に貸しきった奥の個室で、俺は手を合わせて頼み込んでいる。


「そんな話、聴かされたら断れないじゃない・・・。」


グリムが困惑した表情で肩を落とした。

人材を選出するように言われた時、真っ先に思い浮かんだのはグリムだった。

弓の腕は超一流。強襲部隊の隠密行動技術は、力の失った勇者一行には必要不可欠だ。


「訓練が必要だな。」


呼び出したもう一人の男がボソリと呟いた。

男の名前は、バッガス。種族はワーベア。要するに熊の獣人だ。

茶色の髪を短く刈り込んでいるせいで飛び出た丸い可愛らしい耳が、傷だらけの厳つい顔と相まって、ちょっと不気味だ。

背丈は2メートルを超え、筋骨隆々とした巨体は、隣に座るグリムと比べると3倍くらい有りそうだ。

そのため、普通の椅子が使えず、床に座っている。

バッガスは、重歩兵のエースだ。

戦いでは真っ先に敵の包囲網に穴を穿ち、防衛戦では敵を一体も通すことは無い。

さらに、戦いだけではなく、彼の種族はサバイバル能力にも長けている。

野草の知識や飲み水の確保方法に狩り。

この男が居てくれれば、どこで遭難しても生き抜けるとさえ思える。


「今聴いた話だけで判断すれば、相当訓練しないと、すぐに死ぬぞ。」


バッガスの低く掠れた声で言われると緊迫感がグッと増す。


「ああ。もちろん彼らには毎日訓練に励んでもらうさ。一応、今の考えなんだが、グリムにはリテルとクリアに弓を教えてもらいたい。アーデとミシェルにもそれなりに扱えるようにしてもらうが、重点的にはリテルとクリアに頼む。」


俺がそう言うと、グリムは軽く「オッケー」と返した。

まぁこいつなら何とかしてくれるだろう。


「我は何をすれば良い?」


バッガスは意外と乗り気な感じだ。


「バッガスにはアーデとミシェルに防衛戦の手解きを頼む。俺も参加する。それと、最低でも週一で全員にサバイバルの講義をしてもらいたい。」


手短に説明すると、バッガスは大きく頷いた。

よしよし・・・この二人を手に入れれたのはかなり大きいぞ。

情報の漏洩も考えれば、部隊は出来るだけ少人数に留めなくてはならない。

そうなれば個々のスキルが相当高くないと隊はすぐに全滅する。

ただでさえ子供たちのお守りもしなくてはならないのだから、トップクラスのメンバーが必要不可欠だ。


「ねぇ。」


ここでグリムが口を開いた。


「リテルちゃんって、全く力使えなくなったんだよね?」


持っていたデザート用のスプーンをクルクル回しながら言う。


「ああ。そうらしいな。総司令の話では完全に普通の少女だそうだ。」


俺は腕を組んで溜息を漏らした。


「アーデ君は勇者だから戦わない訳に行かないでしょ~・・・ミシェルくんやクリアちゃんは、少しは戦える訳でぇ~・・・リリちゃんは申し分無い訳よね~・・・。」


グリムが思い返すように指折り数えている。


「リテルちゃんは、やっぱり連れて行かないと駄目なのかな。」


そう言うとグリムはスプーンを口で咥え両手で頬杖を付いた。


「リテルは巫女様だ。連れて行かない訳にはいかないだろ?」


そうは言っても、正直、俺の心中でも、やはりリテルの参戦は出来るだけ避けたい。

本当はアーデだって戦いに出せる様な状態じゃないんだ。

自分の身も守れない様な女の子を戦いに連れて行けば確実にお荷物だ。

それに、魔獣やモンスターと違い、魔族や魔人は女子供を誘拐する事が良くある。

理由は考えたくも無いが、とにかく誘拐されたら二度と帰っては来れない。


「あたし達3人だけじゃ守りながら戦うなんて無理だよ。」


グリムの言葉にがバッガスが大きく頷いた。


「総司令からは4人まで部隊員選出を言われてる。」


俺がそう言うと、二人は目を丸くしてこちらを凝視している。


「よ、4人って!少人数で構成されている強襲部隊でも15人はいるわよ!」


グリムがいきり立つ。


「まぁ落ち着けよ。だからこそお前らに頼んでんだ。俺達なら通常の5倍は戦える。お荷物分を差引いても少数精鋭部隊としては十分優秀だと思うぜ?」


俺の言葉にグリムが睨み返す。


「そんな軽い事言ってられないでしょ!総司令は何考えてるのよ。もしこのまま戦いに出て魔族や魔人の部隊に出くわしてみてよ・・・絶対死んじゃうよ。」


グリムは言い終わると肩を落とした。

言いたい事は痛いほど解る。

常に死と隣り合わせで戦ってきた俺達にとって、この無謀以外なにものでもない部隊の先に見えるのは死だけだった。


「あと一人はどうするのだ?」


バッガスが口を開いた。


「あ、ああ。まだ考え中だ。勇者一行の実際の力量を判断してから必要に応じて人員を探そうと思ってる。まぁ今のところ医療に長けてる人材が欲しいところかな。」


俺がそう答えるとバッガスは大きく頷く。

確かにバッガスも医療の心得がある。

だが、それはサバイバル中の応急処置程度であり、本格的な医療とは言えないのだ。


「てことは、精霊術師?」


グリムが訊く。


「そうだな~・・・リリがいるから回復魔法は問題無いとは思うけど、もう一人精霊術師が欲しいところだな。いくら創生の賢者の子孫だからって攻撃も回復もじゃ魔力がもたないだろうしな。まぁとりあえず明日は適正テストって感じかな。」


それから食事を終え、店先でバッガスと別れた後、酔っ払ったグリムを彼女の自宅の部屋へ放り投げた頃には、空は月明かりが照らす真夜中となっていた。

俺は人気の少なくなった通りを抜け自室のある町外れの兵舎へと向かった。

魔王が倒され黒雲の晴れた夜空は綺麗だ。

夜空を見上げながら歩いていると、ふと子供の頃を思い出した。

そういえば、こんな夜空を見た事あったな。

兄弟3人で母国の祭りで花火を見た帰り、散った花火がそのまま空で煌いている様で、俺は兄のラルフィスに手を引かれながらずっと空を見上げていた。


「こんな綺麗だったんだな。」


俺は思わず一人呟いた。

子供の頃と変わらない夜空。星がキラキラと輝いて、一粒がだんだん大きく・・・。


「な!なんだ!?」


目を擦りもう一度空を見上げる。

特に変わりなく綺麗な夜空。

今のはなんだ?疲れてるのかな。


「こんばんは。」

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