第三十九話:古代遺跡の深層と、鼓動する巨神機
旧式冷却ダクトの闇を抜け、生徒会が足を踏み入れたのは地下深くに眠る禁断の古代遺跡。
軍部の防衛ラインを鮮やかに突破した先に広がっていたのは、見上げるほどの超巨大古代兵器『極光の巨神機』。
そして、その心臓部に囚われ、魔力を強制抽出されるギルバートの姿でした。
あざ笑う黒幕の将校、限界を迎えるお兄様の魔力、そして大地を揺るがして目覚める古代の神。
大切な家族を取り戻すため、生徒会の最終実習が始まります!
垂直に落ち込む暗黒の竪坑を前に、タクトが両腕の青銀の魔導腕甲を構える。
落下していく6人の足元へ、斜め45度の滑り台状にした『偏向障壁』を空中に連続生成。
障壁の反発係数を滑らかにコントロールし、無音のジェットコースターのように竪坑の内壁を跳ねながら超高速で滑り降りていく。
「うっひょ〜! タクトの障壁スライダー、相変わらずアトラクション感覚で最高〜!」
「はしゃがないでくださいセナ先輩、舌噛みますよ! 反発角度、最下層に合わせて減速入れます!」
「着地地点の防音・防振、抜かりなくやりなさい」
「了解っす! 衝撃ゼロで着地させます!」
風切り音すら偏向膜で相殺され、物理的な落下音・突入音は完全にゼロだ。
竪坑の底、最後の偏向膜がふわりとクッションのように沈み込み、6人は雪埃一つ立てずに無音でフロアへ着地。
周囲を見渡すと、そこは何千年も昔の超文明が遺した巨大な白銀の石造建築と、旧帝国軍が無骨に増設した鉄骨・配線ケーブルが継ぎ接ぎされた異様な空間だ。
「……ここが、霊峰の地下古代遺跡ね。空気が重いわ」
「ええ。氷の冷たさだけではない……肌を刺すような濃密な魔力が澱んでおりますわ」
「旧軍の地図通りじゃん。ここから中央の実験ブロックまで、一本道で繋がってるはずだよ」
壁面には凍りついた古代の幾何学レリーフが走り、ところどころに軍部強硬派が設置した仮設の黄色い作業用ライトが薄暗く灯っている。
足元の石畳から、ドクン……ドクン……と心臓の鼓動に似た不気味な重低音と振動が伝わってくる。
ノアが黒革のノートを開き、空中に青白い生体魔力ソナーのホログラムを投影。
「……捕捉しました。この通路の先、約200メートル先の巨大防衛ゲートの向こうが第0実験ブロックです」
ノイズに塗れた画面の中央、深部にある第0実験ブロックから、禍々しい古代の魔力波形と、それに対抗するように明滅する白銀のシグナルがキャッチされる。
「『極光の巨神機』の古代炉、励起率がすでに80%を超えています。……そして、その中心核に直結されているギルバート様の魔力シグナル、減衰速度が上がっています! もう猶予はありません!」
私は指揮杖を強く握り締め言う。
「お兄様、今行くわ……! 全員、突撃準備!」
前方の暗がり、分厚い古代合金の隔壁ゲートの前に、複数の青白い光学センサーアイが不気味に起動する音が「キィィィン」と響く。
軍部が遺跡の防衛用に再起動させた古代の自律兵器と、哨戒兵の足音が通路の奥から迫ってくる。
「げっ! お出迎えのお人形さんたちがお出ましだよ!」
私は真紅のマントを翻して先頭に立ち、リサが眼鏡を押し上げながら掌に冷気を宿す。
「止まる気なんて最初からないわ! 最短・秒速で薙ぎ倒して通るわよ!」
回廊奥の巨大な防衛ゲート前で、待機していた古代合金製の四足歩行ゴーレム2体が「ギュイィィン!」と駆動音を上げて立ち上がる。
頭部のバイザーセンサーが赤黒く点灯し、肩部の古代魔導砲がチャージを開始。
防寒軍装を纏った強硬派の哨戒兵6名が銃口を向け、「侵入者だ! 撃てェッ!」と一斉に魔導火線と弾幕を浴びせかけてくる。
「射線、俺が全部預かります! 『指向性偏向障壁』!」
タクトが両腕の魔導腕甲を前方に交差させ、淡い藍色の光膜を展開。降り注ぐ魔導弾が「キィン、カカン!」と甲高い金属音とともに天井と側壁へ全弾跳ね返され、跳弾の破片が敵の足元を削る。
「ナイス、タクト! ノア、セナ、左のゴーレム! タクトとセリア先輩は右をお願い!」
「「「了解!」」」
左側のゴーレムが重低音を響かせて跳躍突進してくる。
セナが回廊の壁面を三角飛びしながら影のように肉薄し、両手から「高伝導魔導ワイヤー」を射出する。
ワイヤーがゴーレムの頭部センサーアイと関節駆動部をぐるぐる巻きに縛り上げ、視覚と首の旋回を完全に奪う。
「ハイ目隠し完了〜! ノアくん、料理しちゃって!」
視界を塞がれて暴れるゴーレムの真下へ、ノアが足音もなく滑り込む。
黒革のノートを開き、剥き出しの整備用外部端子へ指先から古代魔導言語のオーバーライドパケットを直結流し込み。
「古代防衛プロトコル第3階層、認証バイパス……システム・シャットダウン」
ゴーレムの赤いアイセンサーがプスンと消灯し、巨体が「ドスン!」と電源の落ちた鉄屑のようにその場へ崩れ落ちる。戦闘不能・完全沈黙する。
右側のゴーレムが突進し、前脚の超重量ブレードを振り下ろしてくる。
タクトが正面から迎え撃ち、接触の瞬間に『偏向反発面』を斜め上60度に展開。
ゴーレムの猛烈な振り下ろし軌道がツルリと天井方向へ弾かれ、巨躯の前胸部が完全にガラ空きになる。
「軌道、頭上へスルーっす! セリア先輩、どうぞ!」
その隙間へ、セリアが後方から優雅にフラスコ型の「金属脆化アンプル」をアンダースローで投擲。
「ふふ、古代の希少合金とはいえ、金属結合の理屈は同じですわ。――『脆化崩落』」
アンプルが胸部装甲に直撃して割れ、強烈な紫の蒸気が立ち込める。
数千年耐え抜いた古代合金が、あっという間に湿った乾パンのようにボロボロと茶色く変質・風化。自重に耐え兼ねて四肢のフレームが自壊し、ガラガラと瓦礫の山となって崩れ去る。
ゴーレム2体が瞬殺された光景に、残された哨戒兵たちが「ば、化け物どもめ……!」とパニックになり後退しようとする。
リサが床へ手をかざし、冷徹に詠唱。「逃がしません。――『氷結回廊』」
回廊の床一面が瞬時に鏡面氷結し、兵士たちがツルツルと滑って盛大に転倒する。
その中央へ、私が真紅のマントを翻して音速の踏み込み。
指揮杖を軽く水平に一閃させ、『瞬間凝固』の余波による鋭い圧縮衝撃波を放つ。
兵士たちが構えていた魔導小銃の銃身だけが「バキバキッ!」と綺麗にへし折れ、全員が壁際に吹き飛ばされて尻もちをつく。
「国家反逆罪、それに公務執行妨害よ。……生徒指導室で反省文を書く準備はできたかしら?」
「ヒィィッ……!? こ、こいつら本当にただの学生なのか……!?」
そこへセナとタクトがやってくる。
「はいはいお疲れちゃん! ドアの前あいたよ、アイラちゃん!」
「防衛ゲートのセキュリティ解除しました。……この奥が、第0実験プラントです」
開け放たれた隔壁ゲートの先、冷たい鉄と古代の石造りが融合した広大な空間が広がる。
ドームの中央にそびえ立つのは、漆黒とくすんだ白銀の装甲に覆われた人型の超巨大古代兵器『極光の巨神機』。
全身の装甲の継ぎ目から、ドクン……ドクン……と心臓の拍動のように赤黒い古代魔力光が脈動している。
「……っ! なんだよこれ……でかすぎるだろ……!」
タクトが数歩後ずさる。
「うわ、マジで出やがった……! あれが裏ギルドの書類にあった古代遺物『極光の巨神機』……!」
「数千年前の古代帝国が封印したとされる戦略級の兵器……本当に実在していたのですね」
天井や壁面からは、何十本もの太い軍用魔導ケーブルが巨神機の胸部へと血管のように接続されている。
巨神機の胸部、装甲板が展開された心臓部に設置されているのは、強化ガラスで覆われた巨大な円筒形生体カプセル。
その内部で、両手足を幾重もの魔導拘束具で固定されているギルバートの姿を私は視認する。
「――っ、お兄様……ッ!!」
白銀の軽装甲冑はところどころ焼け焦げ、常に凛としていた端正な顔立ち面は蒼白にやつれ果てている。
「そんな……あれほど強大で澄んでいたギルバート様の魔力が、あんなにも細く……!」
カプセル内を満たす赤黒い術式液を通じ、ギルバートの全身から「澄んだ白銀の純粋魔力」が太い光の筋となって強制抽出され、巨神機の古代魔導核へと吸い込まれ続けている。
ノアは端末を操作しながら青ざめる。
「生体魔力残存率、すでに15%を切っています! あれ以上吸い上げられたら、魔力枯渇による心停止を引き起こします!」
「今すぐそこから出してあげるわ! タクト、カプセルを――」
アイラが駆け出そうとした瞬間、カツ、カツと靴音が上空から降り注ぐ。
見上げると、巨神機の頭上を通る鉄骨キャットウォークの上に、黒塗りの軍服を着崩し、顔に斜めの古傷を持つ大柄な将校が立っている。
「クハハハハ! ようこそ、吹き溜まりの学生諸君。まさか雪上迎撃部隊を突破してここまで辿り着くとはな。公爵家の小娘にしては上出来の芸当だ」
腰に軍刀を提げ、葉巻の紫煙を燻らせながら、下界の生徒会メンバーを見下ろして下卑た笑みを浮かべている。
「……あんたがこのふざけた実験の責任者ね? その汚い手をお兄様から離しなさい!」
「離せだと? 冗談を言うな。我が軍部強硬派が、あの無能な前当主の残した資金と裏ルートを使って長年掘り起こしてきた悲願なのだよ」
「動かすための唯一のピース……数百人分の魔導士を束ねても届かない『至高の純粋魔力』を、そこの愚かな騎士自らが単身差し出してくれたのだ! これほどの極上品、手放す理由がどこにある?」
私の叫び声に反応したのか、カプセルの中で力なく項垂れていたギルバートの瞼が、かすかにピクリと動く。
「……ア、イ……ラ……? なぜ……ここに……」
濁りかけた深紅の瞳をうっすらと開き、ガラス越しに妹と生徒会の姿を視界に捉える。
口元を微かに震わせ、喉から掠れた呼吸とともに声を絞り出す。
「にげ、ろ……! こいつの……古代炉は……人の手で……扱える代物では……っ!」
それを見た将校は嘲笑うように言う。
「フン、まだ意識を保っていたか。さすがは帝国最強の剣士だ。だが、お前たちの小競り合いもここで幕引きよ」
「貴様ら学生ごときが何人束になろうと、この古代の神を前に抗う術などない! 見よ、完全同期の瞬間をなァッ!」
将校がキャットウォークの手元にあるメイン制御レバーを力任せに引き倒す。
引き倒されたレバーとともに、ドーム全体に「ヴォォォォン……」と鼓膜を破らんばかりの重低音サイレンが鳴り響く。
カプセル内の術式液が激しく沸騰し、ギルバートの四肢を縛る拘束具から太い光の筋となって白銀の純粋魔力が一気に吸い上げられていく。
「ぐ……っ、ガァァァァッ……!!」
吸い上げられた白銀の魔力は、巨神機の胸部コアで赤黒い古代術式と強引に融合・変質。
「同期率98%突破! 古代炉の臨界圧、計測限界を超えています……! 完全に目覚める!!」
全身の装甲を走る無数の古代幾何学スリットが、血管のように禍々しい光を放ちながら末端まで発光していく。
「見よ! これぞ数千年の封印を解かれた我が軍の至宝、神の巨体だァッ!!」
カチリ、と頭部バイザーの奥で巨大な三ツ目の光学センサーアイが真紅に点灯。
何本もの極太ケーブルを力任せに千切りながら、数十メートルの巨体が「ギギギ……ガシャァン!」と重厚な駆動音を立てて立ち上がる。
空気を裂く超音波混じりの金属咆哮がドーム全体を突き抜け、衝撃波だけで天井の鍾乳石や鉄骨がバキバキと音を立てて崩落し始める。
タクトが即座に頭上へ『偏向反発面』を展開し、降り注ぐ数十トンの瓦礫を斜め後方へ弾き飛ばす。
「頭上注意! 障壁で逸らしますけど、足場が保ちませんよ!」
「うわっ、デカすぎ! あんな鉄のカタマリ相手にどうやって勝てっていうのさ!?」
「慌てないでセナ。相手がどれほど巨大であろうと、所詮は魔力で駆動する機械に過ぎません」
全身から魔力を奪われ、青白くやつれた顔のギルバートが、意識が途切れかける中で必死に首を動かし、妹を見下ろす。
胸部カプセルの強化ガラスに指先を這わせ、かすかに動く唇から声を絞り出す。
「……アイ、ラ……頼む……逃げろ……っ! お前まで……巻き込まれる……わけには……っ」
「――寝言は後でたっぷり聞いてあげるわ、お兄様ッ!!」
私は真紅の防寒マントを力強く翻し、足元の石床をドンッと踏み抜く。
その一歩に込められた『瞬間凝固』の圧倒的な意志と覇気により、足元の揺れが一瞬でピタリと鎮まる。
アイラは魔導指揮杖の切っ先を、頭上の将校と眼前に迫る巨神機の胸部コアへ向けて真っ直ぐに突きつける。
瞳には、かつて実家を力づくで掌握した「若き支配者」、そして学園を守り抜く「生徒会長」としての揺るぎない覚悟が燃え盛る。
「小娘が、強がりを! この巨神機の一撃で、チリ一つ残さず踏み潰してくれるわ!」
背後で、リサが絶対零度の冷気を両手に集め、タクトが魔導腕甲の出力を最大励起させ、セリアが特製アンプルを指に挟み、ノアが端末のクラックコードを走らせ、セナが短剣とワイヤーを構えて扇状に展開する。
「桐花学園生徒会・冬季校外特務実習――これより最終試験を開始するわよ!」
「課題内容は『古代兵器の完全解体』、ならびにお兄様をモルモットにした不法占拠者どもの『全員連行・強制生徒指導』よ――ッ!!」
「「「了解ッ!!!」」」
巨神機が振り上げた超重量の鋼鉄の拳が、空気を圧縮しながら生徒会一行へと振り下ろされる。
やつれてるお兄様えっちやな……(失礼)
今度の敵は古代巨神兵、アイラたち生徒会のチームワークでなんとかなるのか……!?
お兄様をみんなで助け出せ!




