第三十六話:途絶の魔導波と、黒幕の罠
途絶えたギルバートからの定時連絡。
軍部の欺瞞を暴いた生徒会が突き止めたのは、古代兵器の生贄にされゆく兄の危機でした。
大切な筆頭騎士を奪還すべく、生徒会が再び動き出す――。
激動の第三十六話、ぜひお楽しみください!
夕日が差し込む生徒会室。暖炉には赤々と火が灯り、部屋の中は快適な温もりに満ちている。
私は生徒会長デスクで最後の冬期インフラ整備計画書にペンを走らせて
「よし、これで公聴会前の重要決裁は全部クリアね!」
と、達成感の笑みを浮かべる。
セリアが淹れてくれた温かいベリーハーブティーを一口含み、ホッと息をつく穏やかな空気。
リサも監査書類の整理を終え、「予定より二日早く全作業が完了しました。実に規律ある進捗です」と手帳を閉じる。
壁掛け時計の針が重なり、カチリと17時ちょうどを指す。
私はデスクの端に置かれた専用の魔導通信機へ自然と視線を落とす。
__________ギルバートとの間で取り決めていた「3時間ごとの定時連絡」の時刻。
しかし、青銀の通信機は静まり返ったまま、着信音も発光も一切見せない。
タクトが壁際から通信機に視線を向け、「……鳴りませんね」と小さく呟く。
「あのお兄様に限って、連絡時間を1秒でも過ぎるなんてあり得ないはずなんだけど……」
微かな違和感が胸をよぎる。
ノアが手元の魔導端末を操作し、過去3日間のギルバートからの通信ログをホログラムで空間に展開。
初日〜2日目:「演習場外縁に到着。積雪はあるが異常なし」「先鋒部隊と合流。訓練メニューは順調」など、几帳面で詳細な報告。
昨夜〜今朝:「演習は予定通り」「異常なし」など、報告文が極端に短文化し、どこか機械的・定型文のような不自然さが目立ち始めている。
「筆頭騎士の生真面目な性格を考慮しても、この報告の簡素化は不自然です。あたかも『第三者が過去の文章を切り貼りして送信している』かのような違和感があります」
と、ノアは顔を顰めて言う。
私自ら通信機のコールボタンを押し、ギルバートの個別プロトコルへ呼び出しをかける。
しかし返ってくるのは、無機質な「指定の魔導波は応答圏外です」というエラーシグナルのみ。
「応答圏外……? 軍の主要演習場なら、強力な中継魔導塔が常時稼働しているはずなのに……」
私の胸に更に嫌な胸騒ぎが走る。
「リサ、軍部の北方演習本部へ直接問い合わせを繋いで!」
私の鋭い指示とともに、平穏な生徒会室の空気が一気に張り詰める。
リサが生徒会長専用の特務回線を立ち上げ、帝国軍部・北方演習本部へ通信を接続。
空中に浮かぶ立体スクリーンに、軍部の広報担当将校が映し出される。
リサが感情を排した冷徹な声で状況を問い質す。
「桐花学園生徒会ならびにヴァルハイト公爵家より緊急照会です。当家筆頭騎士・ギルバート卿との定時連絡が途絶しました。演習場内の中継状況および本人の安否の即時開示を求めます」
しかし将校は気だるげに書類をめくり、小馬鹿にしたような笑みを浮かべてマニュアル通りの回答を並べる。
「ああ、公爵家のご令嬢方ですか。アイゼンベルク一帯は現在、数十年に一度の猛吹雪に見舞われておりましてね。中継塔に一時的な回線障害が出ているだけです」
「ギルバート卿は最前線部隊の指揮で極めて多忙を極めております。演習は予定通り極めて順調。学生が過保護に騒ぎ立てるような事態ではありませんよ」
形式的な謝罪もなく、通信を一方的に打ち切ろうとする将校の不誠実な態度。
セリアが優雅に扇子を握りしめ、冷ややかな視線を向ける。
「数十年に一度の猛吹雪……? 気象魔導院の今週の週間予報では、北方は晴天のち小雪のはずですわ。見え透いた嘘をおつきになりますのね」
通信が切れると同時に、ノアが青い光を帯びた魔導端末のキーを叩きつけるように操作する。
公爵家が保有する古代魔導アーカイブの観測ログと、帝都防衛衛星の広域スキャンデータを同期させ、アイゼンベルク演習場のリアルタイム魔力マップを室内中央に投影する。
画面に映し出されたのは、気象現象などではない異常な光景だった。
まず、演習場全域をドーム状に覆う、超高出力の『指向性魔力ジャミング結界』。外部との通信・転移を完全に遮断している。
そして演習場地下の古代遺跡から、通常の魔導兵器を遥かに凌駕する未知の超高密度古代魔力パルスが断続的に噴出している。
ノアが眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて報告する。
「悪天候なんかじゃありません。これは意図的に張られた『外部遮断結界』です。演習場そのものが、外からの目を完全に塞いだ密室に仕立て上げられています!」
タクトが険しい表情で腕の魔導腕甲を鳴らす。
「演習場全体を隔離して、地下から古代の魔力反応……ただの軍事演習でやる規模じゃありませんね」
私は冷たく光る魔力マップを睨みつけ、拳をぎゅっと握りしめる。
「軍部がお兄様を隔離して、何か良からぬ企みを隠しているのは明白よ……!」
一刻の猶予もない緊迫感が最高潮に達したその時、ガタッと生徒会室の窓が激しく開かれる。
ガタガタッと激しい音とともに生徒会室の窓が外側からこじ開けられる。
冷たい外気とともに、マフラーを振り乱したセナが身軽な宙返りで室内の絨毯へ着地する。
息を激しく切らし、いつもの余裕なギャルピースもなく、真剣そのものの表情で顔を上げる。
「ハァ、ハァ……! アイラちゃん、みんな! 帝都の裏ギルドから特級のヤバいネタぶっこ抜いてきた……っ!」
セナが懐から取り出したのは、裏社会の密売組織と軍部強硬派の間で交わされた暗号通信の羊皮紙スクラップ。
セナが息を整えながら、早口で裏付けられた事実を暴露していく。
「表向きの演習は完全な隠れ蓑、本当の目的は、アイゼンベルク演習場の地下遺跡に封印されていた古代遺物『極光の巨神機』の再起動実験だったの」
「黒幕の正体は失脚したアイラちゃんのお父さんと繋がってた軍部強硬派の残党派閥。最新の魔導兵器を凌駕する古代兵器を手中に収め、帝国への発言権を取り戻そうと画策してるっぽい」
「そんでもって、なんでアイラちゃん、お兄ちゃんが招集されたって、古代騎兵を完全起動させるためには通常の魔導士数百人分に匹敵する「純度の極めて高い高密度魔力」が必要だったからってわけ」
「初めは新当主のアイラちゃんを狙っていたけど、代理として単身乗り込んできた帝国屈指の実力者のギルバートに標的を変えたの」
「軍部は演習にかこつけてギルバートを地下深くへ誘い込んで、「生体触媒」として拘束して機兵に直結……」
「……ってわけで、お兄ちゃん、部下たちを庇って罠に飛び込んじゃたみたい……!このままだと魔力を全部吸い尽くされて、マジで命が危ないよ!」
生徒会室を凍りつかせるような重い沈黙。
セリアの淹れたハーブティーの湯気が揺れ、私の足元からパキパキと『絶対凝固』の冷徹な魔力粒子が溢れ出す。
大事なお兄様の誇りと優しさを踏み躙って生贄に利用するなんて……!!!!
軍部への怒りが室内の空気を極限まで張り詰めさせる。
セナの報告を受け、静まり返る生徒会室。
私の瞳に宿る光が鋭く研ぎ澄まされ、足元の床板が『絶対凝固』の魔力で白く霜を帯びて微かに軋む。
「……私の代理として、誇りを胸に向かったお兄様を……生贄にするために閉じ込めたのね」
抑え込まれた声の中に宿る圧倒的な覇気に、窓の外の木枯らしすら息を呑むような緊迫感がある。
私の怒りに呼応するように、仲間たちが迷いなく立ち上がる。
タクトが青銀の魔導腕甲を両腕にガチリと装着し、不敵な笑みを浮かべる。
「会長、話は決まりですね。ギルバート殿を放り出しておいて、俺らがのんびり温かいお茶を飲んでる場合じゃありません」
リサは手帳を開き、羽ペンで校外活動申請書にサインを走らせる。
「生徒会冬季校外特務研修名目で、北方遠征の法的許可証および補給物資の徴発書類を即時発行します。手続き上の瑕疵はゼロです」
セリアは棚から頑丈な魔導調合ケースを取り出し、次々とアンプルを詰め込む。
「古代兵器の魔力吸収に対抗する特製活性ポーションと、極寒地用の劇薬……すぐに大急ぎで仕上げますわ。わたくしたちの筆頭騎士を傷つけた落とし前、きっちり払っていただきましょう」
ノアは観測ドローンの遠隔制御プログラムを北方ルートへ全基再設定。
「演習場のジャミング結界に風穴を開ける指向性破砕コードを組みます。突破口は僕が作ります」
セナはマフラーをキュッと締め直し、短剣と魔導ワイヤーを腰にセット。
「裏ルートの抜け道案内と、軍の雑魚の足止めはアタシに任せて! 兄様を絶対助け出すよ!」
全員の視線が私へと集まる。
私は生徒会長の魔導指揮杖を右手に握り、床へ力強くトンと打ち鳴らす。
「ヴァルハイト公爵家の筆頭騎士に手を出しておいて、無事で済むと思ったら大間違いよ」
凛とした声が部屋中に響き渡る。
「これより桐花学園生徒会は、北方アイゼンベルク演習場への緊急介入を実施する! ――全員、カチコミの準備をしなさい!」
「「了解!!」」
全員の決意が一つになり、猛吹雪の北方へ向けた奪還作戦の幕が上がる。
ギルバートおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!
お前……バカッ!!単身罠に突っ込むなんて……!!
でもそんなとこもLOVE(一番狂ってるのは作者)
お兄様を助けに行くぞー!!




