↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

第三十五話:氷雪の招待状と、兄の背中

クーデターと学園祭を乗り越え、物語はいよいよ新章『凍原の演習と失われた古代機兵』へと突入します。


公爵家当主として多忙なアイラに届いた、北方合同演習への招集状。

妹の背中を守るため、単身で極寒の地へ旅立つ兄・ギルバートを待ち受ける罠とは――。


新章開幕、第三十五話をお楽しみください!


窓の外は木々の葉が落ち、校庭を行き交う生徒たちの制服も冬服へ完全移行。吐く息が白く染まり始める季節。

室内では暖炉の薪がパチパチと小気味よい音を立てて爆ぜ、部屋全体を暖かく包む。

セリアが優雅な手つきで銀のティーポットを傾け、メンバー全員へ淹れたての「特製ホットシナモンミルクティー」を配る。甘くスパイシーな湯気が立ち上り、冬の寒さを忘れさせる落ち着いた雰囲気だ。

ドアが勢いよく開き、モコモコのファー付きマフラーを巻いたセナが大きな段ボール箱を抱えて突入してくる。

「みんなお疲れ〜! 見てこれ、冬の最強兵器! 放課後の生徒会室に絶対必要っしょ!」と、どこからか調達してきた『高級木目調コタツ』を満面の笑みで部屋の中央に広げようとする。

リサが無表情のままスッと立ち上がり、メガネのブリッジを押し上げながら手帳型バインダーをセナの額へピタリと突きつける。

「生徒会室規律規約第7条『執務スペースにおける私的暖房器具および堕落を誘発する調度品の設置禁止』に基づき、即刻差し押さえ処分とします」

「えぇーっ!? リサ先輩マジで言ってる!? コタツで食べるみかんの美味しさを知らないなんて人生の半分損してるって〜!」

セナの抗議を一切聞き流し、リサは事務用封印テープを段ボールに無慈悲に貼り付け、ロッカーの奥へ撤去する。

ノアが魔導端末のホログラムスクリーンを高速スクロールさせながら、淡々と報告を挟む。

「学園全域の魔導暖房グリッド、負荷分散処理完了。各教室の室温は21.5度で均一に維持されています。……ちなみにセナ先輩、そのコタツの消費魔力、学園のブレーカーを落とすレベルでしたよ」

「うっ、ノアくんまで論理で詰めてくるじゃん……!」

と、セナは項垂れる。

一方、窓際のタクトは指先に青く淡い魔力を集め、窓枠の隙間に極薄の『微細偏向障壁』を均一に展開。

外からの冷気の侵入を物理的にシャットアウトしつつ、室内の暖気を逃さない完璧な温度管理アシストを見せる。

「これで隙間風も完全に止まりました。会長、寒くないですか?」

「うん、すっごく快適! さすがタクト、障壁の使い道がどんどん生活に密着してきてるわね!」

生徒会長デスクには、整然と積み上げられた二つの大きな書類タワー。

左の山は「桐花学園・冬期文化活動予算および期末監査計画書」。

右の山は「ヴァルハイト公爵領・冬期薪炭配給および寒冷地減税令の認可書」。

私は生徒会長の金バッジを胸に、右手の指にはめた蒼銀の当主印璽を輝かせながら、羽ペンを淀みなく走らせて次々と決済のサインを完了させていく。

なんだろう、忙しいっちゃ忙しいけど……充実感に満ちている。

ペンを走らせながら思わず笑みがこぼれる。

「よし、これで領民への薪の配給は予定通り冬至前に間に合うわ。……さあ、次は学園の予算ね!」

平穏で温かい冬の日常が完成したところで、部屋の扉へ重々しい足音が近づいてくる。


ドアを叩く重々しいノックの音とともに、学園の事務員を伴った帝国軍部の伝達使が入室する。

思わず構える生徒会メンバーたち。その空気に気圧されつつも、黒漆塗りの木箱から一通の親書を取り出し、アイラの前へ恭しく差し出す。

私はペーパーナイフで封を切り、リサとともに内容を確認する。

演習名:帝国冬期選抜合同軍事演習(通称:北方冬季演習)。

開催地:帝国最北端の極寒地、アイゼンベルク演習場(古代遺跡群が点在する軍事要衝)。

趣旨:帝国中のエリート魔法士官学校、名門貴族の後継者、軍の若手将校が一堂に会する最高峰の合同演習。

指名:ヴァルハイト公爵家の新当主であり、学園都市のクーデターを鎮圧した筆頭実力者として「アイラ・フォン・ヴァルハイト」が名指しで特別招待・実技筆頭候補に指定されている。

リサが素早く手帳型のスケジュール端末を展開し、光る予定表をアイラの前に突きつける。

演習の日程は、公爵領で予定されている「冬期減税公聴会・新体制施政方針説明会」および学園の「全校期末監査・冬期予算査定」と一分一秒の狂いもなく完全重複している。

リサが眼鏡を光らせて冷静に忠告する。

「領地では当主の初お披露目となる最重要会議、学園では全クラブの命運を握る監査です。ここに帝都往復と極寒地での三日間の軍事演習を組み込むのは、物理的・生体的に不可能です」

セナが横から覗き込み、

「うわ、移動だけで死ぬやつじゃん! 寝ないで馬車乗っても間に合わないっしょ」

と肩をすくめる。

セリアも眉をひそめ、

「軍部も意地が悪いわね。新当主の足元を見ようと、断りにくいタイミングを狙い撃ちしてきたのかしら」

と警戒感を口にする。

当主としての対外的な威厳を保ち、学園と公爵家が軍部に軽んじられないため、アイラはスケジュール帳を睨みつける。

「断れば『小娘が当主になって腰が引けた』と貴族院や軍のタカ派に突かれるわ。……分身は無理でも、睡眠時間を削って転移門を乗り継げばギリギリ回せるはずよ」

そうして私は無茶な強行軍スケジュールをペンで書き込もうとする。

タクトが会長、さすがにそれは倒れます」と止めに入り、生徒会室が張り詰めた空気に包まれた瞬間、廊下からカツンと硬質な足音が響き、扉が開く。


扉が開き、領内騎士団の冬期巡回・訓練報告を終えたギルバートが入室する。

埃ひとつない白銀の軽装甲冑に身を包み、背筋をピンと伸ばした端正な佇まい。

張り詰めた部屋の空気を察し、私の前に広げられた招集状と過密なスケジュール表へ冷徹な深紅の視線を落とす。

「……何をもめている、アイラ」

アイラが事情を説明する間もなく、ギルバートは招集状を一読して即座に机へ置き直す。

「お前が行く必要はない。この演習には、私がヴァルハイト公爵家筆頭騎士として代理出向する」

迷いのない兄の宣言に、生徒会室が一瞬静まり返る。

私は驚き、即座に反論する。

「ダメよお兄様! 相手はあの海千山千の軍部よ。新体制になった我が家を試すための罠かもしれないのに、お兄様を一人で放り込むわけにはいかないわ!」

ギルバートは妹の懸念を静かに受け止めつつ、真剣な眼差しで私を真っ直ぐに見据える。

「アイラ、お前は今や公爵家当主であり、この学園を束ねる長だ。領民の生活を守り、学徒の日常を維持することこそが当主の最大の責務だ」

ギルバートは腰の魔導剣の柄にそっと手を添え、言葉を続ける。

「かつて私は思考を止め、愚父の言いなりとなってお前を苦しめた。だが、今の私の剣はお前が切り開いた未来を守るためにある。当主の背中を守り、対外的な武威を示すことこそ、筆頭騎士である私の役目だ」

帝国最強の剣士としてのプライドと、妹を支える兄としての強い意志が込められた言葉に、私は息を呑んで言葉を詰まらせる。

タクトが一歩前へ出て、私へ穏やかに声をかける。

「会長。ギルバート殿の剣と実力は、僕たちが一番よく知ってます。領地と学園は僕たち生徒会で完璧に守りますから……ここはギルバート殿の誇りを信じて任せるのが一番筋が通ると思います」

リサも手帳を閉じ、「法規上も、当主代理としての筆頭騎士派遣は何も言うことははありません。むしろ軍部への強力な牽制になります」と理詰めで後押し。

セナも「うんうん、兄様めっちゃ強いし! 帝国の軍人どもビビらせてきてよ〜!」と親指を立てる。

仲間の言葉と兄の揺るぎない覚悟を受け、私は深く息を吐き、机の上の羽ペンを握り直す。

「……分かったわ。ヴァルハイト公爵家当主として命じます。ギルバート・フォン・ヴァルハイト筆頭騎士、我が代理として北方演習場へ出向し、我が家の誇りを示してきなさい!」

ギルバートは胸元に手を当て、完璧な騎士の礼で応じる。

「御意。当主様の仰せのままに」


朝靄が立ち込める澄んだ空気の中、学園正門前に整列する生徒会メンバー。

遠征用の純白のマントと白銀の甲冑を纏い、愛馬の手綱を握るギルバート。

セリアが木箱入りの特製アンプルを手渡す。

「極寒地用の耐寒ポーションと高濃度ビタミン剤ですわ。……それと、万が一のための解毒薬も入れておきました。軍のお茶会には用心なさって」

セナがいつものノリで手を振る。

「兄様、お土産は北方の名物『スノーベリーの限定タルト』でよろしくね〜! 箱潰さないで持って帰ってきてよ!」

ノアが通信機を同期させ、「演習場外縁の軍部回線へ当家の専用暗号プロトコルを設定しました。定期連絡は3時間ごとにお願いします」と確認。

タクトが小さく敬礼を交わし、「ギルバート殿、道中お気をつけて。会長と生徒会室はしっかり守っておきます」と言葉をかける。

私は前に進み出て、ギルバートの手袋を包み込むようにギュッと握る。

「……お兄様、絶対に無茶はしないでね。怪我一つなく帰ってくるのが、当主命令よ」

ギルバートは口元を微かに緩め、「心得ている。留守を頼むぞ、アイラ」と短く応じ、馬を走らせて北方の雪空へと旅立っていく。

遠ざかる兄の背中を、私たちは見送った。


場面は一変し、猛烈な吹雪が吹き荒れる極寒の地・アイゼンベルク演習場。

地上の雪嵐とは隔絶された、冷徹な静寂が支配する地下古代遺跡の巨大空間。

重厚な古代魔導隔壁の前、黒塗りの軍服に身を包んだ帝国軍部強硬派の将校たちが数名、腕を組んで冷酷な視線を注いでいる。

隔壁の奥、不気味な脈動とともに赤黒い光を放ちながら回転する超巨大な古代魔導コア。

端末を操作する技官が冷たい声で報告を上げる。

「……ヴァルハイト公爵家からの出向受諾の電文を確認。新当主の小娘ではなく、筆頭騎士のギルバート・フォン・ヴァルハイトが単身向かっております」

中央に立つ顔に傷のある将校が、下卑た笑みを浮かべてコアを見上げる。

「くくっ……帝国最強の剣士が自ら飛び込んでくるとはな。あの規格外の純粋魔力……古代機兵を完全起動させるための『触媒』として、これ以上の極上品はあるまい」

暗闇の中で、古代機兵の巨大な鉄の四肢がギギギ……と微かに蠢き、赤黒いセンサーアイが怪しく点滅する。

罠が張り巡らされた極寒の地へ、何も知らぬ白銀の騎士が向かっている。

一 日 一 話 の 亀 更 新


お待たせしました新章開幕です!

前章でドタバタしたので今回はシリアスを描いていきたいと思います。

まぁこの物語の本筋って本当はシリアスだからね……(本当に?)

ギルバート兄様が思いの外ハマりキャラで今回は兄様にスポットが当たります。

だってメロいじゃん、兄様(作者が一番メロついてる)

更新頻度に波があるかと思いますがお付き合いいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。