第7話 子供達と出かけよう!
二時間後。
最後までどの騎士服で行くかと無駄に悩みまくった挙句、結局いつもの騎士服になった俺は大いに不満だった。
やはり既存服でも良いから買い物するべきだったのではないか。むしろ既存服じゃ絶対駄目とか、理解が出来ない。やっぱり貴族は金持ちだ。
「はあ。あれだけカッコ良く決めるって宣言したのに。いつも通りだって知ったら、子供達に笑われそうだな」
「むしろ、笑ってくれたら良いですね」
「心を抉るのやめようか、ブランシュ」
「だって、笑い合える関係じゃないでしょう、まだ」
ぐっさりと心の痛いところを突いてくる。その通りだからこそ辛い。
「まあ、それはこれからおいおい……。おっと、もう二人の方が先に来て、た、――」
エントランスに行くと、既に子供達が待機していた。時間を守る良い子である。
そして、二人は天使だった。
「あ、父上」
「おとうさま」
控えめにだが、こんな俺に微笑みかけてくれる二人。俺と同じ赤茶の髪が、もはや光り輝いて眩しすぎる。
それはまさしく、燦然と神々しく空から舞い降りた天使そのもの。
天使だ。天使過ぎる。
笑顔はもちろん、声も可愛い。しかもお出かけ用の服までが可愛すぎる。普段は見たことが無いケープ付きの服装だ。
子供らしく可愛らしい飾りまで付いていて、俺と出かけるためにたくさんお目かししてくれたのが伝わってきた。感動した。心が震える。
ディアンはどちらかと言うと、顔の造りが俺似。カーラは母似だ。
どちらも可愛すぎて天使でしかない。カーラは母親似だから当然として、ディラン。よく俺に似たのにこんなに可愛い天使に育った。最高だ。
そんな可愛いこの二人と今からお出かけ。ご褒美タイム過ぎる。むしろ俺しか得しないのでは。
この震える感動を伝えるなら今! 今しかない! 動け、俺のポンコツ口!
「ふ、た、……り、……、……………………」
相変わらず俺の口はポンコツ過ぎる。似合っているの一言さえ捻り出せないとは。
だが、俺はやってやる。このポンコツ馬鹿魔人の体を自由に使いこなすため、俺は気合でスケッチブックを取り出した。
「……はあああああああああ……っ!」
「……」
「ほおりゃああああああああ……っ!」
「……」
「ふん! はあ! ……俺の、……俺の、気合い、は! まだ、まだ、こんなもの、じゃ……ない……! かああきつくせええええええええええっ!」
「……」
奇妙でおどろおどろしい雄叫びを上げながら、俺は何とかスケッチブックに文字を書き上げる。相変わらずミミズの動きの方がマシな文字だが、昨日よりは読める。当社比で。
ふんっ! と力いっぱいスケッチブックをひっくり返し、子供達に見せる。
子供達も大人しく文字を読んでくれた。
『にあっている』
本当は「可愛い」まで書きたかった。しかし、このポンコツの手ではこれが限界だった。
とはいえ、昨日よりは多く文字を書けた。進歩である。本当に。心なしか体力も昨日より持っている気がする。
二人はまじまじとスケッチブックを見つめ、徐々にふわあっと花開く様に笑顔になっていった。
「ありがとうございます! 父上!」
「ありがとうございます、おとうさま!」
「お、う……っ!!!」
ぱあっと輝いた幸せそうな笑顔に、無事に俺の目は焼き尽くされた。
この子供達は良い子過ぎる。このポンコツの体、本当に何とかしたい。
だが、幸先は良い。俺の体はまだ動く。疲れで死んではいない。
「ブランシュ、馬車を」
「はっ。……ディアン様、カーラ様。さあ、こちらへ」
ブランシュの誘導に、二人は、はーいと手を上げて従う。大人の言うことをきちんと聞ける良い子だ。誰の教育のおかげだろうか。この屋敷の者達か。後で褒美を出そう。
そして、ディアンが馬車に乗り込もうとしたその時。
ばささっと、頭上で鳥が羽ばたいた。
「――あっ!」
思った以上に大きな音だったらしく、ディアンがバランスを崩す。
そのまま、頭からひっくり返りそうになったディアンを見て。
「……おわっとおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
すかさず俺の体が動いた。今までのポンコツ具合が嘘の様に。
がしっとディアンを受け止め、俺は彼の状態を確かめる。
服越しに伝わってくる心臓の動きは、どくどくと激しい。
それはそうだろう。ディアンはまだ小さい。ここで転んでしまっていたら、頭を打って大怪我をしていたかもしれない。恐くて当然だ。
間に合って良かった。
「ち、父上……っ」
「け、が、……ない、か」
「……っ、はい。ありがとう、ございます……っ」
ぎゅうっと俺の胸元を握り締めてきた。よほど恐かったのだろう。
俺はディアンの頭を撫でようとして――ぎしいっと、またも体が動かないのを確認した。
嘘だろ。今、動いたじゃん。何でまた動かなくなるわけ。
「ふ、おおおおおおおおおおおおっ」
「ち、父上?」
「お、れ、……おれ、の、……こ、…………ど、……もおおおおおおおおっ」
安心させるために頭を撫でたいのに、出来ない。酷すぎる。頭くらい撫でさせて欲しい。
石像の様に固まってしまった俺を見かねてか、ブランシュが丁寧に俺からディアンを脱出させ、優しく地面に立たせた。
俺はその間、ディアンを受け止めた格好のままである。しかも、もはやその腕の中には誰もいない。傍から見たら不気味な光景だ。泣きたい。
しかし。その直後。
「……おとうさま、カッコいい……」
「――」
ぽそっと。本当にぽそっと。背後から小さく小さく呟かれたカーラの可愛らしい声に、俺はぴしゃーんと雷が直撃した様な衝撃を受ける。
カッコ良い。カッコ良い。カッコ良い。
このポンコツが、カッコ良い。こんなに不気味な格好のまま固まっているのに、カッコ良い。
早くもご褒美をいただきました。俺はこの子達にまだ何も返せていないのに。
「……く……っ」
我が人生に一片の悔いなし。いや、あるけどなし。
涙を滝の様に流した。心の中で。残念なことに、このポンコツは表情筋を変えられない。別の意味で泣いた。
そうして、俺が再び人間として稼働出来る様になるまで、きっちり五分。
ディアンとカーラは俺が動くまで、何故か傍で見守ってくれていた。可愛かった。
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