第6話 お出かけしたいと伝えよう!
前世を思い出してから始まった、二日目の朝食。
相も変わらず天使の様に可愛らしく挨拶をしてきた子供達に、ようやく伝えられた一言は「ああ」だった。進歩がない。泣いた。
しかし、ここで終わるわけにはいかない。
昨日の夕食の時にも伝えたが、今日から一ヶ月は家にいることをもう一度伝えよう。
「でぃ、……」
「? はい、父上」
「でぃ、あん。……か、……か、かかかかかー、ら」
「は、はい、おとうさま」
つっかえながらの呼び方にも関わらず、即座に返事をしてくれる子供達は偉い。天使だ。それに比べて俺のポンコツの通常運転具合は酷すぎる。殴りたい。
だが、落ち込んでばかりもいられない。
今日は出かけよう。
そう伝えたいのだ。
むぎぎぎ、と必死に歯を食いしばって、何とか言葉を捻り出す。
「お、れ。今日、……から、いえ、……いる」
何だこの片言具合。
どうして俺は片言になるんでしょうね。もっとスムーズに会話がしたいよ。しかもこれだけしか喋ってないのに、疲れ具合が半端ないし。
それでも子供達は、俺が話しかけてきたことに驚いた様だ。嫌そうでないことだけが救いだ。
普通、こんなに愛されているかも全然分からない親、嫌だよな。それなのに、こうして慕ってくれている。何て天使な子供達だろう。本当、前のギルバルトはどうして子供達を放っておいたのか理解不能だ。
「そ、だ。……だ、だ、……だだだだだ、からっ」
「……」
「……ぐううううううううっ」
「……」
「おお、俺、……お、俺、と」
「……」
「俺、……とおおおおおおおおおおおおおおお……っ」
唸り声の様な話し方である。
ナイフを握り締めて唸るとか、殺人犯一歩手前だ。子供達が泣き出さないか心配である。せめて食事のナイフを置こう、俺。
ブランシュが「頑張ってください旦那様」と背後から小声で応援してくれる。その応援が力になった。かっ! と目を見開く。――ナイフを置き忘れたので、もはや殺人犯だ。現に、子供達が涙目である。泣きたい。
「おおおおおお俺、とおおおおおおおおおっ!」
「……は、はいっ」
「で、ででで」
「で? ででで?」
「……で、でで、でででで、でえええええええとおおおおおおおおお! に、い、く」
「――」
デートに行く。意味が分からない。
それってせめて、仲の良い親子で使う単語じゃないんかい。俺は俺にツッコミを入れた。
一緒に買い物に行こう。
たったそれだけを言いたかったのに、何故にデート。いや、デートという単語なら、買い物よりも一文字少ないから言いやすいだろう。そう思ったのだ。文字が少ない方が言いやすい。
それに、今日は昨日と違い、全く喋れなくなるわけではない。唸りに変わるだけになった。大した進歩ではないだろうか。やはりリハビリは大事なのだ。
しかし、デートに行こう、ではなくデートに行く。言い方が、強制的過ぎる。子供達が断れない誘い方など言語道断。
「い、い、や。で、と、ではなく、だな」
「は、はい! 行きます!」
「か、かかかかかかかかい、かいかい、……は?」
「でーと、おとうさまと、いく!」
びしっと手を上げてカーラが返事をしてきた。お兄ちゃんであるディアンが行く、と言ったからだろう。優しさからの返事であっても、嬉しい。
「そ、そそそ、そそそそそそそ、そ、うか」
「は、はい!」
「で、と。……、……に、にじ、にじにじ、かん、ご。行く」
「はい!」
片言だけではなく、つっかえまくりのどもりまくりである。
父親の威厳は形無しだ。そもそもまともに言葉を発するどころか表情さえ作れないのだから、元から威厳など塵に等しい。
だが、言質は取った。
そうとなれば善は急げ。
「ブランシュ! 着替えるぞ! カッコ良く! 頼む!」
「はい、旦那様」
ばびゅん、と音がしそうな勢いで俺は部屋を出て行った。せっかく子供達が一緒に買い物に行くと言ってくれたのに、気合を入れないでどうする。
急いで自室に辿り着き、ばんっとクローゼットを開ける。
しかし。
「……騎士服しか、なあああああああああああいっ⁉」
「まあ旦那様、家と詰め所の往復しかしてませんでしたからね。パーティもすっぽかしていましからね。警護以外」
呆れた様に指摘され、俺は床に崩れ落ちた。
騎士服しかない。すなわち、子供達に新たなる一面を見せることが出来ない。服装は第一印象を変える最っ高でお手軽な手段だというのに。
「よし! 服を買いに行こう!」
「嘘でしょ旦那様。せっかくのお出かけなのに、既製服で終わらせないで下さいよ」
「だって! ディアンとカーラに! 新しい父親像を見せる良い機会だったのに! よりによって騎士服とかいつも通りじゃん! トラウマ父親しか見せないってどうよ!」
「トラウマかどうかは知りませんが、それならこの機会に服を仕立ててみては? ディアン様やカーラ様もご一緒に」
「なるほど! それだ!」
びしいっと人差し指――は人に向けてはいけないので、手のひらを差し向けてから親指を立てる。何て素晴らしい発案だ。子供達の新しい服もプレゼント出来て、一石二鳥。今こそ父親面を発動する時。
「……ディアン、カーラ。好きなものを頼みなさい。今日は特別な一日。特別な思い出を作る日なのだ」
「カッコつけていますけど、それ、本人達に言って下さいね」
「言えるわけないだろ! 固まるんだぞ! 口も体も心も! 俺の体ポンコツ過ぎるんだよ!」
「いやあ、私の想像以上でびっくりでしたよ。まさかのスケッチブック大作戦にまで支障が出るなんて。……どれだけ子供と接するのが恐かったんですか」
恐い。
なるほど。もしかして、ギルバルトは子供と触れ合うのが恐かったのか。
しかし、何故。
自分よりも小さくて、触ったら壊れてしまいそうだからだろうか。それなら納得だ。この俺ギルバルトは、なかなか強い。力も強い。ふんっと力を入れれば、そこらの石くらい握り潰せるくらいには力がある。
「なるほど。……俺が二人を抱き上げたら、骨ごとばっきばきに壊してしまいそうだもんな。納得だ。俺は恐かったんだな、二人を抱き潰してしまうのが」
「……ああ、そうなんですか?」
「原因が分かったところで、それも後で伝えておいてくれ! 二人を愛していないなんて誤解は、一つ一つ解いていかねばならん! 後は俺が笑顔できらっきらにカッコ良い父親として挨拶をしながら、ははははははと笑って会話をするだけだ!」
「道のりは遠そうですね」
あははあははと笑いながら、子供達とにこやかに会話する俺。確かに俺自身も無理な気がしてきた。このポンコツの体のせいで。
まあ、一歩一歩着実に。
まずはこの買い物を成功させることとしよう。
――拳を握り締めて不気味に笑う俺に対し、ブランシュが若干引きながら苦笑していたが、幼馴染という点を差し引いて不問としよう。
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