海野彩葵の物語④
あおいさんの様子がおかしいのは分かった。
なので、一先ず通話をしてみることにした。まずはしっかりあおいさんと話し合いたい。別にあんな変なことを言われたからといって、あおいさんとのやり取りを止めたりするつもりは全くない。これまで通り、やり取りをしていく予定。
でも、しっかりと声を聞きたいと思った。
―――――――――
「あおいさん」
「…はい」
「やっぱり元気がないですね。なにかあったんですか?」
「い、いや…別に元気がないってことはないんです」
そこから少しずつだけど、あおいさんはなんであんな変なメッセージを送って来たのかを教えてくれた。お酒に酔って勢いでメッセージを送ってしまったこと、仕事が忙しくてメッセージをしばらく確認できたなかったことなど。
その話を聞けて、正直安心した。今まで接してきた、あおいさんは本当にあおいさんだったんだと。
「そうだったんですね、説明してくれてありがとうございます」
「本当にごめんなさい」
「大丈夫ですよ。ちょっと心配はしちゃいましたけど、お話を聞いて安心したので」
「…ほ、ほんとうにごめんなさい」
「で、でも…一斉に送った後にユウさんが「ありがとうございます」と送ってくれましたよね?」
「はい。送りますね」
「それから後の返信に関しては…しっかりと目覚めた後に送りました」
その言葉の意味が僕にはあんまり理解出来なかった。そんな僕を置いていくようにあおいさんは話を続ける。
「なので、あの後に『ユウさんの犬になりたいです!』と言ったのは…私の本心です」
僕はその言葉に絶句してしまった。さっきまでの話で、お酒に酔った勢いで送ったであれば『全然大丈夫』で済む話だけど、さっきの言葉だとあおいさんが本当に僕の犬になりたいと思っているみたいな。
「…私はユウさんの犬になりたいのは嘘じゃありません!本当にユウさんの犬になりたいんです!」
「…………」
「こんなことをユウさんに言うと引かれてしまうのは分かっています。でも、私はユウさんに害を与えるつもりはありません。むしろユウさんのためであればどんなことでもやるぐらいの覚悟です」
これがあおいさんの本当の気持ちなんだと思う。嘘でこんなことを言うような人間ではないのは今までのやり取りで分かっているし。
だけどそれ以上に…『犬になりたい』という言葉が引っかかり過ぎて、それ以上先の話が全く飲み込めない。
「…あ、あの、犬になりたいというのは具体的にどのような?」
「本当に犬のような恰好をさせても、ユウさんのためであればどんなことでもする人という感じのイメージです!」
犬の恰好…って。スマホの先から聞こえて来る、あおいさんの声は自信たっぷり。自分は間違ったことを言っていないというのが伝わって来るぐらいに。
これはどうすればいいんだ。普通に通話をすれば何かが変わると思っていた。もちろん、誤解の部分もあったものの、誤解じゃない部分もあった。
あおいさんはMなのかな。だから、犬にさせて欲しいなんて言っているのだろうか。逆にそういう理由じゃなければなんであおいさんがそんなことを言うのは本当に分からない。
「こんなことを女性に聞くのは失礼だと分かっているのですが、あおいさんってMなんですか?」
「…そうかもしれないです。ユウさんに責めて欲しい気持ちもあります」
「そ、そうですか…」
「お願いします。私をユウさんの犬にさせてください」
目の前にあおいさんがいるわけではないのに、なんか圧のようなものを感じる。それにこれもあおいさんの一面だ。それならば、その全てを受け入れられるぐらいの男になるべきかもしれない。
あおいさんが悪い人でないのはやり取りをしていて分かっているわけだし。
「…わ、わかりました」
「え、ほんとうにいいんですか!?」
「はい。大丈夫ですよ。僕はどんなあおいさんでも受け入れたいと思っているので」
「じ、じゃあ、私のことを犬扱いしてくれるってことですか?」
「…ちょっと心が痛いですけど、頑張ります」
すると、あおいさんからは喜びの声が聞こえて来る。ここまで喜んでいる声を聞くのが初めて、この趣味もあおいさんの一部なんだと改めて思った。
それから少し話して決まったこととしては、あおいさんと仮想空間で会うこと。あおいさんも忙しいため、直接会うよりも仮想空間で会う方がいいという判断は僕がした。
直接会う方法もあるといったら、あおいさんはそっちが良いと言ったかもしれないけど、本当に仕事が忙しいらしいので仮想空間の方がいいと思う。
仮想空間で会う日は僕も心を決めていかないと。
何をすることになるか分からないし。




