海野彩葵の物語②
ITエンジニアとしての仕事が忙しくて、最近はユウさんと会えていない。メッセージでのやり取りの頻度も減ってきている。
それでもユウさんは連絡すれば絶対に返してくれるし、やり取りし始めた時に比べればユウさんから何かを聞いたりしてくれることも増えた。私の勘違いでなければ、普通に良い関係が築けていると思う。
仮想空間でも今まで一度も体験できなかったことをしてくれたりする。手を握ってくれたり、頭を撫でてもらえたり、あの日出会い系サイトでユウさんのことを見つけてメッセージを送っていなければ絶対にあり得なかったこと。
私は本当に幸運な女だという自覚もある。
こんな非の打ちどころがないような男性に出会える可能性はとても低い。そんな素晴らしい人に出会ったのであれば、慎重にしつつも、行ける時は大胆に行動して少しでもユウさんの心を引き留めなくてはいけない。
でも、あくまで嫌われないことを大前提に置くべき。というかそれを最優先にしないといけないはずだ。
その日の私は酔っていた。
仕事が忙し過ぎて、ユウさんとのやり取りも減って気分も落ち込んでいたし、家の掃除なども出来ていなかった。それらのストレスが溜まって仕事帰りに浴びるようにお酒を飲んだ。
そこで止まっていれば何も問題なかった。
お酒を飲み過ぎて、二日酔いになったとしてもそれはあくまで明日の自分が頑張ってくれればいい。仕事を休むとかになったら、同僚に迷惑を掛けてしまうが、最悪そこで終わる。
私は酔った勢いでユウさんにメッセージを送ってしまったのだ。
『私はユウさんのことがこの世界で一番大好きです。どんな時も一緒に居たくて、いつもユウさんのことばかり考えています。これからも一緒に生きていたい!!』
『あなたのために生きさせてください』
『どんな形でもいいので、あなたの側に居させてください』
『あなたの犬にさせてください』
もちろん次の日は二日酔いになったので、私が自分のメッセージを確認したのは次の日の夕方だった。
最近メッセージが遅れていなかったし、何か送ろうっていう軽い気持ちで開いたのだ。
そして画面に映し出されていたのは、自分が酔った勢いで最悪のメッセージたちだ。もっと最悪なのはユウさんがこのメッセージを読んだのは確定してる。それは私が送ったメッセージの下に『既読』と表示されているから。
最悪だ。
今までこんな風に酔った勢いで誰かにメッセージを送ったりすることはなかった。だからちょっと油断していたのかもしれない。最近は色々とストレスが溜まっていて、それを発散する形でユウさんに気持ち悪いメッセージを送ってシマんだと思う。冷静に自分の行動を分析するなら…そんな感じ。
これは今まで私がユウさんと積み上げてきた信頼を一瞬で壊すに値するような出来事だ。
普通に考えて、今まで普通にやり取りしていた女からこんなヤバいメッセージが送られてきたら、普通に関係を切ったとしてもおかしくない。というか私が男だったら間違いなく、関係を切るし、これから連絡しない。
それにいつ既読が付いたのかも分からない。さっき見たかもしれないし、送ってすぐに見たかもしれない。
もう私とのメッセージなんて見ないかもしれない。
初めてのお酒で失敗がこんな最悪な形で来るなんて。せめて、この形以外にしてくれたら。
仕事関係でもいい、家族関係でもいい。
でも、ユウさん相手にだけはどうしても避けたかった。
幸運で手に入れたチャンスを自らの手で放すことになるのだけは。
「これからどうすればいいんだろう…」




