小久間岬の物語⑥
岬さんが悪い人でないと信じてる。一度も会ったことはないけど、やり取りなどを通じて思ったのはやっぱり優しい人。そして一生懸命頑張っている人だと思う。
そんな岬さんと今日会うことになっている。時計を見ると約束の時間まで6時間ぐらいある。今日は岬さんと会う以外の予定は何も入れていない。その理由としてはもし、何か入れていて予定が長引いたりするのを避けるため。
あとこれは双葉さんからの提案だったけど「今日、お迎えに上がって目的の場所で降りましたら、約束の相手が帰るまで、自分たちが会うのは避けましょう」いうものだった。
双葉さんの話としては、女性は男性が自分以外の女性と会っているところを見るのはすごく嫌うらしい。だから、もし僕と双葉さんが話しているところを岬さんに見られると機嫌を損ねるかもしれない。
これを聞いて、やっぱり双葉さんに相談して良かったと思った。やっぱり女性目線じゃないと分からないこともある。
それにしても約束の時間まで何をしよう。
岬さんとのことばっかり考えて、その時間まで何するかを全く決めていなかった。
双葉さんの話だと女性は男性が女性と仲良くしていると機嫌が悪くなるらしいので、今日だけは他の人とやり取りするのも止めよう。
岬さんだけに。
「じゃあ…男性区域を散歩でもしようかな」
最近は大学の関係上、女性区域に行くことが多かったから男性区域を散歩するとか出来ていなかったりする。
それから用意を整えて、僕は散歩に出かけた。
その道中で配達をしている女性に会ってお話したり、久し振りに友人と会ったりと色んなことがあった。
―――
家に戻った後は大学の課題をやったりしていると、約束の時間になった。ちょうどそのタイミングでインターホンが鳴ったので確認せずに開けるとそこには双葉さんがいた。
「お迎えに上がりました」
「いつもありがとうございます」
それからはいつも通り、車に乗せてもらった。
このためにいつも運転してくれている人まで働かせてしまっているのは申し訳ない気持ちもあるので、後で何か欲しいものがあればプレゼントしよう。
目的の場所に着くと、僕は家の中へと入って行く。双葉さんは打ち合わせ通り、いざという時に駆けつけられる場所に移動し、運転手さんは近くのコンビニで待っててもらう。
やっぱり双葉さんと運転手さんには何か用意しよう。
僕と岬さんが会うのは…一軒家だ。
あくまで一軒家と言っても不動産屋さんが持っていて、貸出を行っている。なのでその一軒家を借りることにした。
どこかのお店で会うにしても、僕は男だ。嫌でも目立ってしまうし、そうなったらのんびり話したりするのだって無理だ。
最初、双葉さんは「では葉山様が女装するというのはどうでしょうか?」なんて言い出したけど、すぐに却下した。ある程度のことは許せる僕でも、女性の恰好をするのだけは勘弁したい。
インターホンが鳴り、相手を確認すると鍵を開けて、岬さんを迎え入れる。
「初めましてですね、岬さん」
「…は、はい。ユウさん、はじめまして」
岬さんの容姿はプロフィール写真と同じで茶髪のショートカット、美しい顔立ちをしていた。前世で岬さんと出会っていたら、僕は彼女に惚れていたのかもしれない。
「あがってください」
「は、はい。ありがとうございます」
リビングに案内した。岬さんはそわそわしているので、ソファーに座るように促すと緊張した感じで腰を下ろしてくれた。
「飲み物は何でもあるので、飲みたいものを言ってください」
一応、今日のためにどんな飲み物も用意した。よく考えれば岬さんにメッセージを確認すればよかったなぁ…。
「…お水で」
「わかりました。用意してきますね」
明らかに岬さんの緊張が伝わって来る。いくらメッセージでやり取りしていると言っても面と向かって会うのは初めて。お互いの顔を見て話すのは予想以上に緊張するものだよね。
お水を用意して、岬さんに手渡す。
「どうぞ」
「…あ、ありがとうございます」
まだ岬さんは緊張しているけど、少しずつ話していけば緊張も解けていくと思う。
「今日は態々、来てくださってありがとうごさいます」
「…い、いえ、わたしもユウさんと会えて嬉しいです」
それからしばらく沈黙続いたので、僕は少し前に岬さんについて得た知識から質問してみることにした。
「そう言えば、岬さんは編み物がお好きなんですか?」
「好きですね。マフラーとか手袋とか作ったりしますよ。編むのは難しいんですけど、出来上がった時の達成感とかを覚えちゃうと忘れられません」
どうやら話題選びとしてはそこまで悪くなかったようで、岬さんはハキハキと話してくれた。やっぱり自分の趣味とか、好きなことを語る時は何も考えずに語れるから緊張が少し解けたりするのかな。
すると岬さんが今度は僕に「ユウさんは大学がお休みの日にやっていることとかありますか?」と問いかけてきた。
そう聞かれると思いつくものがあんまりない。大学の課題をしたり、仮想空間に入ったりするぐらいしか、最近はやっていない。
「あんまり思いつかないですね。仮想空間とかに入っている時間が長くて」
「あ、あの世界での私は違くて!!」
何をそんなに焦っているのだろう。
「現実の私は…あ、あ、あんなこと!!」
そこで僕はやっと気づくことができた。なんで、岬さんがこんなに取り乱しているのかを。
「手を握りますか?」
「え……」
これじゃない?
てっきり仮想空間で何度か岬さんから「手を合わせたい」とか「手に触れたい」とか言われたので、それをしたいのかと思った。仮想空間もかなり上手く作られていたので、現実とそこまでの違いがあるのかは分からないけど。
なぜか、岬さんはとても遠慮気味に「い、いいんですか?」と聞いてきたので「いいですよ」と答えた。
元々今回会おうと思ったのは、岬さんを支えるため。なので今日は出来る範囲であれば岬さんの願いを叶えたい。
少しでも会っている時間が岬さんにとって癒しになってくれることを望んでいる。




