小久間岬の物語⑤
約束の日になるまで、僕は双葉さんに協力してもらって洋服のことや当日のことなど色々と打ち合わせをした。僕の個人的な事情に双葉さんを巻き込んでしまうことは本当に申し訳ない気持ちで一杯だけど、この世界の女性についてはあんまり分からない。
だからこそ、双葉さんからしっかりと情報を得てから、岬さんと会いたい。
でも、まさか双葉さんがここまで感情をむき出しにして反対してくるなんて。
「自分は今からでもその相手に断りの連絡を入れるべきだと思います」
「そ、そう言われても…」
「自分は葉山様のことを思って言っているんです。女と会うことの危険性を葉山様は理解されていません!!」
「…そうかな」
ここまで双葉さんが感情的になるのを始めてみた。どんな時でも冷静に物事を判断してくれるイメージだった。
「葉山様が自分を恐れずに接してくれることはとても嬉しいです。今回もこのような形ですが、相談してくれたり、お願いをしてくださるのもありがたいです。それだけ、頼りにされていることですから」
双葉さんの目が僕の目を射抜くように見つめて来る。
「ですが、自分は葉山様にしっかりと女に対する警戒も持って欲しいのです。この世の女は男に飢えています。男を手に入れるためであればどんなことにも手を染めるぐらいには」
双葉さんは僕のことを考えてくれている。もしかしたら、僕以上に僕のことを考えてくれているんだと思う。
それがしっかりと伝わって来る。
「遠隔で会う分には問題ないです。ですが、直接会うとそれは全く違う話です。それに私を近くに待機させておくだけで会おうとしていますね」
「う、うん」
「それはあまりに危険です。自分も葉山様を守るために全身全霊を尽くしますが、その相手が私を制圧できる可能性も存在します」
「…でも、岬さんは優しい方なのでそのようなことにはならないと」
「本当に葉山様は優しいです。この世界に生きて、ここまで優しい心を持っているのは葉山様だけでしょう。それは葉山様の長所でもありますが、同時に短所でもあると自分は考えます」
この世界に生きていれば、双葉さんのような考え方になるのは当たり前なんだと思う。逆に僕が異質な存在だということも理解している。
それでも…岬さんと約束をした。僕も生半可な気持ちで女性に対して会おうと言っているわけではない。
「この世界ではその優しさに付け込んで、葉山様に危害を加えようとしてくる相手もいるのです。だからこそ、葉山様には考えて頂きたいんです」
双葉さんは良い終わると深呼吸をしてから、また僕のことを見つめて来る。その目からはもう一度考え直して欲しいという気持ちが感じ取れる。
「…僕は双葉さんのことを信用しています。双葉さんのお陰で僕は楽しい大学生活を送ることができていますしね」
前にも言ったけど、これは本気で思ってる。双葉さんのお陰だ。
「だから双葉さんに見守って欲しいんです。双葉さんがいればどうにかなると思っています」
それぐらい僕は双葉さんのことを信頼している。
「甘いと思われるかもしれないけど、僕は人を見る目はあると自負しているんです。だって双葉さんも花里さん、月景先輩、みんな良い人ですし。今回も僕が大丈夫だと思った人なので信じてくださると嬉しいです」
僕も双葉さんを見つめながら自分の気持ちを正直に伝えた。ここで双葉さんが呆れて、見守ってくれないとなったらそれも仕方ない。だってこれはあくまで僕の我儘だ。元々、双葉さんのボディガードとしての仕事が学園内と行き帰りの車ぐらい。
そこにプライベートなことは含まれない。
岬さんとのことは完全にプライベートなことで、双葉さんは本来であれば関わる義務はなくて断られたとしてもおかしくないのだ。
「双葉さんが嫌であれば断ってもらっても大丈夫です。これはあくまでプライベートなお願いなので」
そう言うと双葉さんは静かに首を横に振った。
「自分が葉山様の願いを叶えないなんてことはあり得ません。そういう言葉が出て来る時点で葉山様は自分がどれだけあなた様のことを思っているのか、理解できていません。自分はこの世に地獄というものがあるのであれば、そこまでお供するぐらいの気持ちでいます」
双葉さんは僕のことをよく考えてくれているとは思っていたけど、地獄まで付いて行くぐらいの気持ちとは想像していなかった。そこまで想われていると逆にこっちの方が緊張してしまう。
「ちょっと地獄はやり過ぎだけど、そこまで考えてくれて嬉しいです。だから、どうか少し遠くから護衛をお願いできないでしょうか?」
「わかりました。葉山様が決めたことなのであれば、もう自分が止めることはできません。絶対に葉山様をお護りすることを誓います」
双葉さんは力強い目で僕を見ているが、本当に決意が現れている。
それから当日の場所や双葉さんに居てもらう場所などについての打ち合わせを行って、別れた。




