小久間岬の物語②
台風の所為で大学に泊まることになった日から1週間が経った。
台風一過とでもいうべきなのか、あの日以降は毎日晴天だ。
あの後はまず、岬さんにしっかりと連絡をして謝った。
かなり心配を掛けてしまったようで連絡も数百件ぐらいきていて、電話もかなりの数が来ていた。電話の先から聞こえて来る、岬さんの声はかなり弱っていて、こっちが心配になってしまった。
岬さんの話によると仕事で声を出すことが多くて、ただ枯れてしまっただけらしいけど。だけど、今までこんなことがなかったからさすがに心配だ。
僕と岬さんはあくまで仮想空間で会ったり、アプリ上でやり取りをするだけだ。近い距離感と言えば、近いかもしれないけど、大学の人たちと違って面と向かって会ったりしているわけではない。体調が悪い時に支えてあげられるぐらいの距離感ではない。
どうにかして少しでも岬さんの助けになりたいという気持ちはあるものの、どうすればいいのか分からないというのが今の状況。距離が離れていても力になれる方法。
岬さんはお子さんもいるって話だったし、それに加えて働いている。とても大変なのに僕とやり取りをしてくれているわけだ。
そんな大変な中、仮想空間で会う約束を破ってしまったのは本当にごめんなさいという気持ちだ。
それなら少しは僕も岬さんの助けになりたい。
どんなことをしたら、岬さんを支えてあげられるかをしばらく考えた。その結論としてまずは岬さんのことをしっかりと知ろうということになった。
僕は岬さんと仮想空間で会ったりしているけど、そこまでプライベートな話はあんまり話していない。
改めて岬さんの出会いサイトのプロフィール欄を見てみると、そこには最初見た時と同じで趣味の欄には『散歩』と記載されていた。
逆に、前に見た時はなかったものも書いてあった。それは趣味の欄に『編み物』という文字が追加されていた。
「編み物とか…やっているんだ」
今まで話している中で編み物をしているという情報は全くなかった。やっぱり知っているようで相手のことを全然知らないんだと改めて思い知らされた。
会って話したりするような感じであれば、もっと相手のことについて詳しく知るチャンスはあったりするかもしれないけど。
岬さんのことを少しでも知れたことを考えるとプロフィール欄見てよかった。
でも、プロフィール欄を見た目的は「支えてあげるための方法」を考えるため。そこから何かいい方法が思い付いたらと思っていた。
だけど、今のところは何も思いついていない。まず、岬さんに対して何かものを渡すのは難しい。僕がまだ大学に行く以外で女性区域に入ったことはない。大学の時は双葉さん、花里さん、月森さんたちに護られているからこそ、自由な行動を取らせてもらっている。
いくら女性に対する抵抗感が薄まっているとはいえ、さすがに一人で女性区域の中を歩くのは怖い。何もないと信じているものの、僕が出会って来た女性たちが全てではないのも知っている。
すぐに襲ってくるような女性がいないとは言い切れないし、もしそういう女性がいないのであればこんな風に住む空間が分けられることもなかったはずだし。僕もそういう体験をしたことはあるからこそ、難しい。
でも、なんとか岬さんのことを支えてあげたい。
それからも岬さんを支える方法を色々と考えると日が沈んでいた。




