台風の影響③
花里さんと長いようで短い時間を過ごした後、今度は月森さんと二人きりで会う。
花里さんと話して感じたのは、こんな風に感謝を伝える時間はこれからも取っていった方がいいかもしれないということ。
しっかりと感謝を伝えておかないと。
世の中は何が起こるか分からない。明日、僕が絶対に生きられているという保証もないわけだし、口がしっかりと動いているうちに言っておかないといけない。
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目の前の月森先輩は落ち着かないようでおどおどしていた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。もちろん、怒ったりするわけではないので」
「…うん」
「今回は月森先輩に感謝を伝えたくて、来てもらったんです」
「感謝?」
「はい。今まで月森先輩には色々とお世話になっているので、しっかり言葉で感謝を伝えておきたいんです」
「…そんなのいいのに。ぼくがただやりたくてやっているだけだから」
「それは分かっています。それでも、僕が感謝しているということを伝えたいんです。ただの自己満足なので、申し訳ないんですがそれに付き合ってください」
そう。
これはただの自己満足だ。彼女たちは別にそれを望んでいないのに、僕が強制的に感謝をしているだけ。
「…わかった」
「ありがとうございます」
僕はしっかりと月森先輩の目を見て、伝える。
「月森先輩、いつも側で護ってくれてありがとうございます。個人の時間を削ってまで僕のために時間を使ってくれるなんて感謝しかありません」
「…葉山くんのためであればどんな時でも絶対に護るよ」
「そう言ってくださると嬉しいです」
本当に花里さんも月森先輩も優しくて、ありがたい。こんなに優しい人と巡り合えたのは本当に嬉しいし、奇跡だ。
「そしてこれは花里にも同じことを言ったんですが、日頃のお礼として何かして欲しいことがあったら教えてください。僕に出来る限りのことであればどんなことでも大丈夫です」
「…お礼はいらない」
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、僕としては何かお礼を言ってくれた方がありがたいんです」
そう言うと月森先輩は少し頭を傾けたりして色々と悩んでくれた。悩んでくれているのは本当にありがたいけど、僕じゃできないようなことを言われたらどうしようという不安もある。
数分経ち、月森先輩の中で何か決めたようで僕の瞳を射抜くように見つめてきた。
「決まりましたか?」
「うん」
「では、どんなことなのか教えてもらっても大丈夫ですか?」
「……頭に手を載せて欲しい」
「頭ですか?」
「うん、おねがい」
これは一体どういうことなんだろうか。僕の手を頭にのせることに何か意味があるのかな。
でも一応、僕のできる範囲のことだし、ここはやっておいたほうがいい。
「じゃあ、のせるね」
「うん」
月森先輩の頭に手をのせると、次に何をすればいいのか分からず、固まってしまった。
「このままにして」
「このままでいいんですか?」
「うん。このまましばらくしてくれたらそれだけで満足」
月森先輩がそう言うのであれば、僕は大人しく従えばいい。それで月森先輩へのお礼の気持ちを示すことができるんだったら。
体感時間で30分近く、月森先輩の頭の上に手をのせていた感覚があるものの、時計を見るとどうやら5分位だったみたい。ただ何もせずに頭に手をのせていただけなので余計に長く感じたのかも。
目の前の月森先輩は顔を伏せたままで、僕としては本当にこれでよかったのかと今になって思っている。本人がこれでいいと言ってくれてはいたけど、本当はもっと違うことが良かったとか思っているから、顔を伏せているのかな。
「…嫌だったら、もっと違うことでもいいよ。さっきのは無効ってことにしても全然問題ないですし」
すると月森先輩は俯きながらも首を左右に振ってきた。
「それならよかったですけど……」
しばらく月森先輩は俯いたまんま、動かなかった。




