44.危険なモノ
あぁだめだこれは。
倒した動物を食べる事でその力を得るとか、昔は考えられていたはずだけど、魔物が倒した人間を食べるってどういうこと。
せめてミノタウロスを倒して、ミノタウロスを食べて欲しい。その判断に達しないから危ない集団になってるんだろうけど。
なんか、この集団も話すだけ意味が無いような無駄のような。
「食して力を得るか。 その程度で力を得られるなら、人は遥か昔にもっとも優れた生物になれただろう」
カイは設定上かなり厳しい鍛錬を自らに課す事で強くなったのだから、食べる事で簡単に力を得られるなんて、色んな意味でありえないと考えているんだと思う。
でもファンタジーっぽい世界なんだし、もしかしたら食べたら本当に強くなるかもしれない。
「全員捕まえて衛兵に突き出そうか」
やっぱり危険なカルト的集団だし、人肉を好んで食べるなんて、常識的に見て問題、とりあえず捕まえて衛兵達に突き出そうと思う。
「まずはおびき寄せる。 リョウは準備しておけ」
カイはハッチから出ると砲塔の上に立った。
「お前達!」
踊り狂っていた人たちは、カイの声に振り返ると、見られていた事に焦ったようで、各々鉈や剣を掴み始める。
「人だ!」
「見られたぞ! 殺せ!」
「殺しちまえ!!」
分かりやすくて助かるかもしれない。自分達でさえ、他人に見られたら不味いような事だって、自覚しているわけね。それなら容赦なく捕まえさせてもらおう。
通路一杯になって向ってくるのは正直少し怖い。でも、狂信した人達の時よりは、冷静に見ていられるかな。
非致死性ゴム弾の機銃を掃射。うめき声を上げ、狙った腹部にゴム弾の一撃を受けて倒れていく。ただ、狂信していた人達と違って、背中を見せて逃げる人もいるけど、逃げる人には砲塔の12.7mm重機銃の非致死性ゴム弾を撃ち込む。
12.7mmに撃たれた人は地面に倒れたままほとんど動かない、死んでいないと思うけど、激痛で気絶してしまったのかも。やっぱり威力が高過ぎて、鍛えてない人にはきつ過ぎるかもしれない。
「なっ、なんだこれ!?」
一人だけ念動力で掴む。必死で暴れているけど、力は強くなってないや。前に捕まえた盗賊の人たちのほうがたぶん力が強かったと思う。やっぱりこの世界でも食べた位じゃ強くなれないのね。
ロープを取り出して縛り上げると壁際に転がしておく。少しずつ近付きながら一人一人縛り上げ、あと5人位で終わりかと思ったとき、いまだ奥にいたリーダーのような教祖のような男は、大鍋に草や何かの種をどんどん入れてかき混ぜている。
「神食を得て力を!」
雄牛の仮面を被った教祖っぽい男は人肉の混ざった大鍋に、器を直接入れて一気に飲み干した。
どんどん器を入れては飲み干しているんだけど、なんか様子がおかしい。固形物があるんだから、咀嚼が必要なはずなのに、ひたすら飲み干している。
器を投げ出すと、人間の足そのものを掴むとそのまま貪り付いていた。
正気じゃない。
「おぉぉぉぉぉ!」
雄たけびを上げると足を投げ捨て、こちらに向って襲い掛かってくる。
雄牛の仮面の下の表情はわからないけど、獣のような雄たけびを上げ、走ってくる姿は怖い。
念動力が届く範囲にきたので、掴んで空中に持ち上げたけど。
エンジンの回転数を上げ、出力を最大近くまで上げているのに、約220馬力で抑えている念動力が無理やり引き剥がされそうになってる。
「うがぁぁぁぁぁ!!!!」
念動力を振り切られ、襲い掛かってきた男に殴りつけられた装甲が歪む。ワイバーン以上の力というか、もう人間の領域を遥かに超えている。でも、殴りつけた拳が潰れ、両手から血が噴出していた。
麻薬か何かで痛みも恐怖も何も感じてないっぽい。
砲塔の12.7mm機銃を向け発砲。7mくらい弾き飛ばされ、通路にたたきつけられるけど、立ち上がってくる。非致死性ゴム弾とはいえ、12.7mmを近距離で受けたのに。もう、生きたまま捕らえるのは無理みたい。220馬力の念動力でも止められないのだから、ロープで縛り上げておくなんて無理。
「ぐぅぅぅぅ!」
唸り声をあげる雄牛の仮面の下からは、涎のような嘔吐物のようなものを垂れ流し、獣のように四つん這いで今にも襲い掛かってきそう。
7.62mm機銃を実弾に変更し、一回の掃射で細切れになって終わりを告げた。痛みを消して筋力を幾ら強化しても、人の身で頭蓋骨さえ粉砕する機銃弾に耐えられるはずはなかった。
また、自分の手で人の命を奪ったと思うと、吐き気がしてくる。
「……気分が悪い」
「慣れるまではそんなものだ」
安っぽい慰めも労いもないけど、カイはこんなものだと思う。
ちょっとした気遣いや言葉なんて積み重ねても、励ましなんて実際は役に立たないし、結局耐えられるかどうか、慣れられるかどうかなんて自分次第なんだと思う。




