312.教団の最後
待ち構えていたレッドドラゴン達の母竜と思われる二回り以上も大きなレッドドラゴン、遠隔操作と牽引を利用し最大数の5台まで、自分はマウスでティーガー2とティーガー1、M103重戦車にM47主力戦車、M41軽戦車と全力で迎え撃つ。
空を飛ぶレッドドラゴンとグリーンドラゴンが居るけれど、対抗する事が出来る87式自走高射機関砲は出さない。見られているとしたら、唯一自分が持っている空を飛ぶ相手に有効な方法を見せるのは良くないはず。
全車で戦車砲と機銃を撃ち続けて次々と倒れていく小型ドラゴン、それでも数の多さに仕留めきれず先頭で撃っている自分に飛び掛かり容赦なく噛みつき爪を立てるものの、やはりマウスの車体装甲を僅かに削るかどうかのところで問題はない。
怖いのはレッドドラゴンとグリーンドラゴン、あの二種類は噛みつかれたまま暴れられると砲身が歪みかねないし、何よりも力が強いので念動力で引きはがす事は難しい。
徐々に後退しながら小型のドラゴンを撃ち倒し、取りつかれ噛みついている小型ドラゴンを念動力で引きはがし車体と同軸と砲塔の機銃で小型のドラゴンのほとんどを倒した所、一息つきかけた瞬間に空を飛んでいたグリーンドラゴン4体とレッドドラゴン2体が一斉に襲い掛かってきた。
「来るぞ!」
「カイは中に居て!」
車体の上にいたカイには急いで車内に入ってもらい、砲塔部や車体のハッチを全て閉じる。
誰かによって命令されているようにグリーンドラゴンが同時に5台の遠隔操作車両に喰らい付き、動きが制限される中レッドドラゴン2体がマウス車体の自分自身に噛みつき爪を突き立てる。
今までと違って一体が砲塔に牙を突き立て爪を車体に押し当て引き千切ろうとし、もう一体の巨大なレッドドラゴンは丸ごと焼き尽くすつもりなのか、少し離れた場所に降りると大きく口を開き炎の塊が吐き出され車体にぶつかると粘性らしく弾けてくっ付くと消えずに激しく燃え続ける。
全ての痛みが連動して伝わり絶叫の大声を上げる余裕さえないはずなのに、戦車になって悲鳴を上げる声も感情も残っていても、酷い痛みの中でも冷静に戦車の体を動かせるようになり、人間だった頃の精神状態を失いつつあるのかもしれないけれど今はそのことに救われている。
「やはり、自分はもう」
「気を抜くな! 集中力を解くと意識を持っていかれる!」
カイの言葉に意識を引き締め直し、エンジンを前回まで回した念動力で喰らい付いているレッドドラゴンを主砲の前に無理やり移動させる、ほぼ至近で放った同軸とはいえマウスの75mmもある副砲弾は胴体に突き刺さりレッドドラゴンから血が噴き出すと、砲塔部に噛みついていた力が弱くなったところで完全に引きはがし頭部を主砲の前に動かし撃ち抜く。さすがにほぼ至近距離ともなると頭部は粉々に吹き飛び完全に貫通しレッドドラゴンの一体はそのまま倒れ動かなくなった。
ようやく一体噛みついていたレッドドラゴンが居なくなったことで、全身を炎で焼かれながらも少し余裕が産まれ、他のグリーンドラゴンも各遠隔操作している戦車のエンジンを限界まで回し最大馬力の念動力で引きはがそうと試みながらマウスの主砲と同軸の副砲の狙いを定める。
いまだ主砲弾が再装填中なので注意を向ける為同軸の副砲と砲塔機銃を撃ち、遠隔操作車両に噛みついているグリーンドラゴンは体に撃ち込まれたことで咆哮を上げながらこちらを向き注意と力が削がれた。
念動力でティーガーⅡの主砲前に頭部を移動させ貫きこれで自分と遠隔操作車両1台は空き、しかし車体に爪をたて砲塔に噛みついているグリーンドラゴンによってM41が酷く歪み耐えきれず操作不能になってしまう。
遠隔操作とはいえ自分の一部である戦車が操作不能になったことで痛みで視界が一瞬酷く揺らぎ、光となってM41の遠隔操作車体が消えてしまう。
主砲の再装填がティーガーⅡと合わせて終わり、グリーンドラゴンを先に倒すべく主砲でM103重戦車とM47主力戦車ごと砲撃、重戦車や主力戦車だからなのか遠隔操作車両に伝わる衝撃と痛みは軽いもので、グリーンドラゴンは絶叫の声を上げてほとんど動かなくなり、念動力で引きはがすことで頭部をM103とM47の主砲前に移動し撃ち抜いて仕留める。
ティーガーⅠに喰らい付いているグリーンドラゴンとM41を擱座させたグリーンドラゴンに機銃を撃ち続け、いち早く再装填が終わったM47主力戦車とM103重戦車の主砲を体に撃ち込み倒す事が出来た。WWⅡ後の戦車はWWⅡ中とは違って再装填が速いらしい。
残るはマウスの車体となっている自分に燃え上がる火炎弾を撃ち込み続けていたひときわ大きいレッドドラゴンだけなのだが空に舞い上がると逃げていく。
きっとその方向がアルスト教団の本部がある場所、それでも今までのレッドドラゴンとは動きがいつもと違う。何かに命令されているというか、行動が今までと大きく違う。
どこかで命令している人がいるかもしれないと周囲に目を凝らすと、高い空に一つ小さな何かが浮いているのが見えた。
「あれは、ドローンカメラ?」
車内にいるカイにだけ聞こえるように話かけ、車長席からハッチを開き外に出たカイが双眼鏡を使い空を見上げる。
「アレか、確かに映像で見た物に似ている。 この世界にあるはずもないが、アルスト教団の誰かはお前と同じモノということか」
アルストは自分と同じ地球に居た誰か、それであることは確かであることは分かった。今は追いかけて本部に向かうべきなのだけれど、その前に5両の砲塔機銃集中射撃で撃ち落とす。
周囲に目を凝らし再び見回してもドローンは見つからずおそらくドローンカメラはあれだけ、間違いなく待ち構えているだろう相手に出来る事はなんだろうか。
なにはともあれ遠隔操作できる最大距離400mで87式自走高射機関砲を選択し、自分を含め5台とは離れた状態でて追いかける。ただ自分がマウスを使っているだろうことは気付かれたかもしれないため、自らをティーガーⅡに変更したうえでマウスを遠隔操作へと切り替えた。
「カイ、少し大変だろうけど一つお願い」
「これは、使えと言う事か」
納入品一覧から対作品を選択し車内に取り出す。付属している簡易的な説明書を読んでもらい、完全に扱えるわけではないだろうけれどそれでも出来ること用意しておく。
離れていくレッドドラゴンを追い続けていると、今までの教団の建物とは異なり城壁も何もない美しい白亜の館が見えてきた。
綺麗に整えられた庭園の中央には噴水まであり、その中央の噴水にレッドドラゴンが降り立とうとした途端誘導弾らしいものがぶつかり肉片をまき散らしながら地面に落ちた。
独特な音が響き館の背後の方向に離れた空を見ると自分と同じ地球の兵器、AH-64E アパッチ・ガーディアン、知る限り最新型で最強と言われ陸上兵器全ての軽く倒せる存在が居た。
「やぁ、初めまして転生者! いや転移者かな!」
屋敷の庭園内にそこらかしこにスピーカーが設置されているらしく、パイロット席にいるだろう人物から声が伝わってきた。
カイがマウスの砲塔のハッチから出ると上に立ち声を張り上げる。
「お前がアルストか!」
カイの姿を見たのが理由なのか、攻撃をすることなく滞空したままの状態を維持している。
「君がなるほど。 姿からして転生者ってとこかな。 みんな準備をして」
屋敷から6人の女性達が大きな液晶画面が乗せられた台車を運び、すぐ前に置くとそのまま屋敷の方に戻っていき画面に人の姿が映った。その顔は日本人の20代くらいの男性に見える。
「君が得たのはその姿と旧式兵器かい? 古い物好みなんて趣味的なんだね」
彼はとてもおしゃべりだった。自分と同じ別の世界から来た人材、しかも人のままであらゆる兵器や物品を無条件で何もない空間から取り出せ、その使い方も即座に理解できるという。
彼は隠居する事にした老神様が託した新世代の神様が、手軽に世界の問題を解決し発展させようと沢山の転移者や転生者を呼び込んだものの、裏切られて信仰を沢山壊され最後にはそう言った問題の人達を取り除く彼を呼び込んだという。
そして地球の品物や魔薬を利用してアルスト教団という一神教を立ち上げ、人を集めながら裏切った者達を倒しここに居を構えてまだ10年経っていないという。
上機嫌にこちらを見ている画面の表情にはどこか見下しているのがわかってしまう、一歩間違えれば自分も増長して同じになっていたのだろうか。
「さぁ、話はこれくらいにして始めようか。 せいぜい楽しめる位には足掻いてくれよ!」
ディスプレイの映像が消えると屋敷から女性達が走って出てくる、カイは砲塔から飛び降りて走り出し女性達は無反動砲のカールグスタフをこちらに向け一斉に撃ってきた。
マウスに着弾すると同時に装甲を貫いた弾頭が車内まで到達し、内部を破壊し操作不能に近い状態まで損害を負ってしまう。念のために自身をマウスからティーガーⅡに変更していて助かった、そしてカイは十分接近すると躊躇なく女性の一人を斬り捨てる。
「魔法や変な能力だけの奴らとは違うなぁ。 うんうん、見ていても十分楽しいよ」
庭園に備え付けられたスピーカーから聞こえてくるのは争いを楽しむというよりは、他者を利用して自分を格上であるようにみせるようなそんな感じがしてくる。
「ほらほら、第一愛人になりたいなら皆頑張って。 どんなものだって望むままに出してあげるよ」
言うとおりであるならば彼の下にいる女性の中から、第一愛人にすることを利用して命がけの攻撃をさせ、彼にとってはこの世界の人達は愛玩対象に過ぎないのだろうか。
女性達はカールグスタフを投げ捨てると拳銃(SIG SAUER P320)を取り出しカイに向ける。他の教団では全く見る事がなかった銃器まで持たせているのは、他の教団にいた教徒達よりも大切であることは間違いなさそうだけれど。
銃声がした方を見ると1人が変な体勢で撃ったのか、反動で手を痛めたらしく銃を落として両手を抑えていた。肝心の銃弾もカイの近くに立っている庭園の木に当たったらしい。
手伝ってしまえばカイが居なくても動けると言う事が分かってしまう、アパッチもあと少し寄ってくれば砲塔機銃で狙い撃てるのだけれどいまは余りにも距離が離れすぎているし、カイが乗っていないという一度きりの奇襲も無意味になってしまう。
「女どもに戦わせずお前が降りてきて戦え!」
カイが大声を張りながら投擲したナイフが首に深く突き刺さり2人の女性が倒れ、残りの女性は3人なのだけれど助けるそぶりもみえない。
「彼女らは第一愛人候補であって、大事な愛人達は安全な場所にいるからね。 まぁすこ~しはイラついたかな」
機銃で撃つつもりなのか離れた位置を飛行していたアパッチ・ガーディアンは機体を傾けこちらに向かってきた。
十分狙いを定めて撃てば当たる距離だと判断し、マウスと87式自走高射機関砲を除いた全ての戦車、砲塔機銃で一度に攻撃を仕掛け、アパッチの装甲に当たり火花が走っているのがみえる。距離がある上に相手は空、12.7mm重機関銃とはいえ装甲を貫通して仕留める事は出来なかった。
「あのさぁ、君は一方的にやられるそれだけでいいんだよ。 めんどうな抵抗しないでくれるかなぁ!!!」
彼から余裕の仮面がはがれた。彼にとっては転移者も転生者もこの世界の人も等しく自分が好きにして良い対象、たぶん簒奪や強者の理論で自分の自由にできなかったから、気分を悪くして攻撃的な本性が出てきたのか。
カイが走り自分の車内に入るとハッチを閉めて後退を始める。
「カイ、準備して」
「わかった。 少しの間任せる」
車内に積まれている武器を箱から取り出してカイが準備を始める。
一方でアパッチ・ガーディアンは対戦車誘導弾のヘルファイアを撃てば全て済むはずなのだけれど、30mm機関銃によって車体の前や上面をえぐるだけで使うそぶりが見えないのは、こちらをいつでも倒せる余裕と言うより嬲って焦っているさまを楽しむためだろうか。
戦車の砲塔機銃ではあまり当てる事が出来ず圧倒的優位だからこそ、そういった余裕のある鼓動をしているのかと考えている最中に突然真横に居たティーガーⅠに何かが着弾、内部の弾薬に誘爆し砲塔が吹き飛ぶ。
「一台おしまい。 さぁて次はどれを狙おうかな?」
周囲に視線を向けると4機のヘリが飛んでいる。
AH-6X 軽攻撃ヘリコプター、本来は有人だけれどアパッチ・ガーディアンのドローンヘリとして改造し扱えるのはミリタリー雑誌に書いてあった。
対戦車誘導弾のヘルファイアに対地攻撃ロケット弾のハイドラを積む以上、戦車で対抗するのは難しい上にドローン兵器まで扱えるというのは戦車の自分にほぼ手が無い。
遠隔操作しながら砲塔機銃でアパッチを攻撃をしていた戦車がAH-6Xの対地ロケットの攻撃を受けて足回りを壊され、動けなくなったM103重戦車とM47主力戦車に対戦車誘導弾が直撃し遠隔操作不能寸前まで追い込まれる。
五月雨撃ちに放たれたハイドラロケット弾によってカイが脅威はないとして仕留めず、見逃していた3人の女性が巻き込まれ死んだのが視界の隅で見えていた。
自分やカイを害しようとした相手でも、ただ存在していなかったかのように命が奪われていくのは、それがとても腹正しく感じる。
「残りはその一台だけ、跪いて許してくださいっていったらどうかな。 まぁ許さないけれどね」
容赦なく戦車が破壊された上にいま一定距離をとった4機のヘリに囲まれた状況、あと少し近付いてくれたのならアパッチまでを気付かれず確実に当てられる距離に入れたのだけれどそこまで待っていられる余裕はない。
87式自走高射機関砲の照準を合わせ一気に弾丸をばらまく。35mm対空機関砲の掃射によって機体を貫き3機までは問題なかったものの、最後の一機を撃ち落とすのが遅れて場所を気付かれてしまい、アパッチは高度を上げ機首を向けると対戦車誘導弾のヘルファイアが2つ放たれた。
カイは視線が外れたタイミングでハッチから飛び出して近くの木の陰に隠れ、それとほぼ同時に照準が間に合わず何とか誘導弾を一発を迎撃したものの、もう一発を落とす前に搭載弾薬が切れてしまい車体に直撃し完全に破壊し尽くされ光へと戻っていく。
自分は念動力で車体のすぐ後ろの地面を全力で掘り準備を進め、気を引くためいまだ何とか動く他の戦車の砲塔上に載っている機銃で再びアパッチを集中して撃ち始める。
「あのさぁ! お前は圧倒的なオレの力の前にただひれ伏してりゃいいっていったよなぁ!」
立て続けに放たれる対地ロケット弾と対戦車誘導弾に丈夫なマウスの車体が吹き飛び、辛うじてまだ稼働していた他の戦車も限界を超えて光に戻った。
それでも時間は稼ぐ事は出来た、カイは手間取りながらも91式携帯地対空誘導弾を構え、照準を合わせ無事に撃ちだされた誘導弾はアパッチへと向かっていく。
「そんなもの効くと思ってんのか!」
アパッチからフレア及びチャフが使用され誘導弾は明後日の方向に外れてしまった。搭載できる量なんて限られるのは知っているし、本の知識だけれどフレアとチャフが切れるまで地対空誘導弾を撃ち込まれ続けて最後は欺瞞できずに撃墜されたヘリがあるのは知っている。
攻撃ヘリが落ちるまで撃ち続ける事になった多数の歩兵部隊は、撃ち落とすまでの反撃によってほとんどが壊滅したらしいけれど。
でも、確実にこちらから意識が外れる時間さえ稼げればそれでよかった。後退して掘った穴に車体を滑り込ませ、大きく傾ける事でティーガーⅡの8.8cm戦車砲の射角内にアパッチを収める。
「君は人間や戦車を見下し過ぎている。 限定的状況とはいえ戦車が航空機を落とした実例だってある」
撃ちだされた戦車砲弾は直撃こそしなかったものの、飛行を支える後方ローターブレードを貫いてえぐり取り不安定になったアパッチが落下してくる。
墜落とまでは言えないものの不安定な回転をしながら不時着し転倒した状態となった為、まだ回転していたメインローターブレードが吹き飛び屋敷に突き刺さった。そしてアルストだろう男はコックピットから這い出そうとしている。
一方で自分は無理な角度で撃った反動でエンジンと履帯の調子が著しく悪く動きにくい。10式へと車体を変更し穴を上り這い出している最中のアルストのもとへと向かう。その間に念のため10式にはオプションのモジュラー装甲を選択し身を徹底的に覆う、さすがに攻撃ヘリからの対戦車誘導弾や、トップアタックが可能な歩兵の対戦車誘導弾が使われたら意味はないけれど。
完全には開かない歪んだ扉や引っかかった服が邪魔でいまだに上手く出れず、こちらを見る余裕もなく不時着したアパッチのコックピットから必死に出ようとしている。
彼は脱出装置や非常時の対応などを知らないのだろうか、もしや表面的に操作する事や使うことだけでほかは出来ないということなのでは。
近付いていく最中にようやく抜け出した男は立ち上がると、光が集まり実体化したカールグスタフM4を右肩に担ぎ即座に発射されたロケット弾は砲塔に直撃し爆発した。
「油断しがやったな! 戦車なんて糞ザコは対戦車無反動砲で一撃なんだよ!」
親指を下に向けながら舌を出して笑う顔には、相手を嘲笑う品も何もない本性が見えていた。さらに新しくもう一発取り出して爆発の煙に覆われまま撃ち込む。
「俺の気分を害した報いを受けてろ雑魚が!」
確かに戦車は歩兵の持つ対戦車誘導弾や対戦車携帯火器で撃破されることはある。それは当たり所が悪かったり、至近距離で側面や後方だったり何発も撃ち込まれたりすれば耐えられない。
全速力で前進し影響範囲内に入ったアルストを念動力で掴み両手を後ろにしたまま地面から1mの高さまで持ち上げる。
「戦車は素人が適当に1発か2発撃った程度で撃破されるほど脆くないよ。 本当に君は何も知らずに力を使って、ただ支配者で征服者で、地球の道具で神様のように振舞っていただけ、それだけなんだ」
たった2発でしかも10式は装甲モジュール完全装備中、そして丈夫な砲塔前部に当たって終わるほど脆いわけでもない。砲塔横の増加装甲は砕けているものの、本体の装甲は酷い傷と焼け跡がついた程度で済んでいる。
「なんで! くそが! 男がもう一人隠れていやがったのか! てめぇら調子乗ってるとぶち殺すぞ!」
叫び声をあげながら振り払おうと暴れるけれど、念動力で押さえている手足は微動だにしない。彼はおそらく地球の兵器や市販品をなんでも出せて操作できるけれど体は普通の人間、操作するための手足を完全に抑えてしまえば何もできない。現に周辺に各種無反動砲や攻撃ヘリが光の集中と共に現れるものの動くことはない。
10式戦車砲の正面に移動させいつでも撃ち抜ける状態に抑えた。
「やめろ! 何でも出してやるし女だってやる! 金も道具なんでも! 愛人だって全員やるし教団の教祖にだってしてやる! 今までしてきたことだって謝罪する! だからやめろ!」
「何もいらないし、謝罪もいらない。 それで誰かが生き返るわけでも、傷を負った人が楽になるわけでもないから。 それに、心からの反省をする事が出来るなら、最初から踏み留まってここまでのことはやらない」
せめて何も感じないようにと思う気持ちと、苦しみを十分に与えたい憎しみがある。それでも近代対戦車兵器を次使われて大丈夫とは思えない以上、選択できるのは身動きできない状況で確実に仕留める事だけ。
遠隔操作でティーガーⅡとM24チャーフィーを選択し、ほぼゼロ距離で戦車砲をアルストに向ける。
「君を見ていると、自分自身が男や女としてでもなく、非生物のこの姿で大体の欲を失っていて、君の様にならなくて済んだ事を感謝してしまう。 生まれ変わったのが戦車で私は良かった」
「こ、この化け物が! てめぇのようなイカサマ野郎が居るなんて聞いてねぇぞ! 俺は、この世界で正当な評価を受け王や皇帝、いずれは神となる存在なんだ!」
目の前にいる戦車の誰かが載っているのではなく、戦車そのものだとわかり、無駄だと分かっていても酷く暴れ動かす事も出来ない兵器などが次々と周囲に現れる。
「アルスト教団の本当の名も知らぬ教祖、来世があるかは分からないけれど、死後の世界へ先に行ってください。 さようなら」
ゼロ距離で同時に放たれた8.8cmと75mmの戦車砲弾によって血と肉の霧となってアルストは消えた。
「リョウ 後片付けを済ませる」
カイがハッチを開いて出てくると、両手にナイフを握り白亜の館へと歩いていく。屋敷に残っている人達から情報を聞く出すのと並行して全員の命を奪うのだろう。
その間には自分は施設作業車になり、深く穴を掘り続けアルストが出したものを全て穴の底に入れると埋めていく。
この世界でもいずれは作られる可能性があったとしても、今の世界にはあまりにも早すぎると思う。それに未来ではこの類の武器が産まれ、この世界の人達がどうにかなってしまうのなら、それはまたこの世界の人達の選択なのだから、その時はこの世界の神様達とこの世界の人達で解決すればいい。アルストが出した道具やした事全てが伝承や伝説の内になり、詳細な事は忘れ去られる事が良いはず。
全てを埋め戻すのに大分時間が経ち、日が完全にくれた後カイは屋敷から戻ってきた。
「生存者は無し。 他の支部も訓練所もない。 紛れもなくここが最後だ」
「それは、これで一つは終わる事が出来た」
これで教団そのものは終わり、新たに地球の薬も道具も広がる事はないけれど、アルストが広めた教えそのものは少し残ってしまうのはもう消しようがない事、関わった人達を誰かれ構わず全員命を奪う事は出来ないのだから。
最後に屋敷を戦車砲と念動力で解体し最後は念入りに履帯で踏みつぶす。残った庭園はいずれ荒れ果て自然に飲み込まれなくなってしまう。
「一旦みながいる町に行こう」
アルスト教団のことが片付いたものの、何か満たされた感覚も軽くなった気持ちもないまま、戦車に乗り込んだカイと共に夜道を進む。
簡単な説明 ですが今回は多いです。
マウス:
超重戦車と呼ばれる製造された過去から現在まで戦車の中で一番大きく一番重くとても硬い戦車です。
12.8cmの主砲と同軸7.8cmの砲をもつとても大きな戦車です。
ティーガーⅡ:
WW2時代に製造された重戦車です。8.8cm砲で長い砲身を持つ当時はとても強い戦車でした。
ティーガーⅠ:
WW2時代に製造された重戦車です。8.8cm砲を持つ当時強い戦車でした。
M103重戦車:
WW2後に製造された米国最後の重戦車です。硬く重い戦車で敵戦車を倒すために作られた戦車です。
M47主力戦車:
WW2後に製造された米国初の主力戦車です。それまでに製造された重戦車を倒せる火力と中戦車の移動速度と中戦車に撃ち負けない装甲を持つ戦車です。
M41軽戦車:
WW2後に製造された米国の軽戦車です。軽く移動速度が速い代わりに装甲が戦車相手は苦手なほど薄いです。戦車を相手にするというよりは、戦車以外の装甲車両を相手にする戦車というべきでしょうか。装甲車とか輸送車両とか。
ドローンカメラ:
民間商用品でも数km離れた場所まで飛ばせて映像も見れたりします。もちろんお値段は張りますけど。軍事用は情報があんまりありませんが、民間用以上であることは間違いないでしょうね。
砲塔機銃:
戦車は大体同軸という戦車砲の横に付ける7.62mm機銃とか、砲塔の上に12.7mm重機銃が載ってます。
12.7mmだとある程度は対空射撃も出来ますが、そんなことを戦車がするのはご法度でしょうか。本来は戦車に向かってくる歩兵相手に一応使う為でしょうか。
87式自走高射機関砲:
日本の陸上自衛隊に配備されている移動する対空兵器です。35mmの機関砲を連射して、ヘリやドローン、時には航空機を落とします。日本は少数で生産やめましたが、世界的には自走対空車両は増産する方針ですね。
AH-64E アパッチ・ガーディアン:
地上を走る戦車や装甲車を対戦車誘導弾で破壊し、建物に籠る相手をロケット弾で建物ごと片付け、車両や歩兵の人達を35mm機砲で一方的に撃ち倒せる、たぶん私が知る限り最も強い攻撃ヘリコプターです。
ガーディアンはさらに軍用ドローンを制御して攻撃させることも出来ます。
カールグスタフ:
無反動砲(ですが少しはありますよ?)で、戦車に装甲車、建物などを歩兵の人が攻撃するために使います。
装甲理論が古いWW2時代なら、随分古いカールグスタフでもほぼ一撃でしょうか。現代戦車だと嫌って程撃ち込むか運が良くなければだめかと。
拳銃(SIG SAUER P320):
回転式けん銃ではなく、自動拳銃という手に握る箇所にマガジンを入れるタイプです。正直ちゃんとした訓練をしないと標準と言われる9mmでもいきなり的に当てるのは難しいですし、手を痛めます。
AH-6X 軽攻撃ヘリコプター:
元々は人が載って操作する汎用と呼ばれるヘリコプターです。無人対応改造出来るので、アパッチ・ガーディアンなどで使われることがあるそうです。人の命がない無人なので危険な攻撃も可能です。
チャフ・フレア:
チャフとフレアは原理は異なりますが、誘導弾の追尾機能を騙して外れさせる考えは同じです。
カールグスタフM4:
無反動砲のカールグスタフシリーズの最新型です。軽く高強度、そして使う弾の改良で威力が上がってます。弾も結構種類があるんで簡単に説明するのはちょっと難しいのでご勘弁を。
10式戦車:
日本の一番新しい戦車、安く高性能に日本防衛に合わせたサイズにと頑張った代物。予定量量産すると他国の戦車より1割以上安いですがなんか予定配備数を削られてます。これが無いと非常時守れないのになんででしょうか。
ともかく通常でも世界標準くらいは頑丈ですが、追加装甲モジュールを付けると重くなりますがさらに頑丈になります。
砲塔前部:
どの国の戦車もこの辺りは非常に丈夫です。旧式でも延命処置でここを当然のように強化改造したりしますね。ベストセラーの戦車なんて徹底的に重装甲化されてますよ。
M24チャーフィー:
WW2末期に米国で作られた軽戦車で、中戦車くらいの火力と中戦車を超える移動力に戦車は無理だけれど装甲車位は相手にできる装甲、そんな軽戦車です。
小柄な戦車で日本人の体格にマッチしたそうで、日本にも警察予備隊の頃に供与されてます。
血と肉の霧:
近距離で戦車砲が人体に当たると、こうなるらしいです。それらしい誤射の映像が残されてますが、見ないほうがいいです。
それでも戦車に歩兵で挑むって相当な覚悟でしょうね。私は無理です。戦車相手には戦車をください。




