313.これから-END-
アルスト教団の件は片付きそれと共に色々な事を知る事が出来た。それは新世代の神様が余りにも短絡的で考えや詰めが甘すぎた、老神様が新世代より“優秀で残酷”なら用が済んだ自分を排除して先の不安要素を無くしておくことくらいはするはず。
暗い夜道を皆が待つ町へと向かう最中、夜空をまばゆい光が走ると徐々に光の輪の形にかわり光をまとった存在、老神様、その姿を見るのはこの世界に送られている最中以来となるのだけれど、強烈な光と共に無数の雷が落ちる。
「お久しぶりです老神様」
以前とは異なり威圧感のある老神様の姿に恐怖を感じる。
「ご苦労であったな。 これで先代の神々が起こした問題の一つは徐々に解決していくだろう。 だが、この国にいる神を信じぬ人間達を刈り取り減らすべきであるか」
信仰の無い者達は減らすという恐ろしい言葉、存在しないはずの冷や汗を感じ慌てて声を上げる。
「待ってください老神様! それは余りにもやり過ぎです!」
強烈な光が周囲を覆い始め、カイをとっさに車内に押し込み車長席に押し付け衝撃に備える。
強力な衝撃が装甲を粉砕し、強固な体がばらばらになっていく。護る為に作られた体が、強固な力が全てが踏みにじられ壊される。モジュラー追加装甲が砕け、強硬な素材の複合装甲がひびが入り機銃がもぎ取られ衝撃は過ぎ去った。街道の周囲に生えていた木々や小さな丘があったはずなのに、遠くまで何もかもが吹き飛び何一つ残っていないただ平面な大地が広がっていた。
カイは車内で車長席に固定されていたおかげで衝撃はあまり受けずに無事だったものの、もし車内に入れて守るのが遅れていたらとぞっとしてしまう。しかしそれよりもまずは老神様を止めないと。
「老神様、自分が動ける範囲で見てきた中で、ろくでもない連中も居ました、私欲のために協力をする貴族もいました、それでもやっぱり皆なんとか生きようとしているんです。 それに少しでも良くしようとしている人達も居ました」
襲われたり命を狙われたり、誘拐ならぬゴーレム盗難しかけることもあった、それでもほとんどの場合根本にあるのは生きる為、それが悪意や短絡的な手段をもって行動をしようとしたのなら、そのまま救わず関わらずにしておいてほしい。神様が選別し意図して殺し続けていたらきっとそれは教団と似た事、人間程度のことで神様が直接動くなんてことはしてほしくない。
「人間の命を神様が直接奪うなんてほどの価値はありません。 どうしようもない対象は見限って加護を止め自滅を待つだけで十分なんです」
最前線で仲間の盾になり、相手の命を奪ってでも、先陣を進み道を切り開く、それが戦車の役割。だからそれと同じように、身を挺していままで見てきたことを伝える。伝える事しかできない。
「控えよ! 神に意見など許さぬぞ!」
さらに強烈な衝撃が再び遅い、モジュラー装甲やサイドスカートが全て引き千切れ、10m近く地面を削りながら吹き飛ばされる。もう履帯を動かす軌道輪は完全に破壊され動かない、砲塔周りも歪み思い通りに動いてはくれない。
「無礼なのは承知しておりますが控えません、先陣を切り盾となるのも戦車の役目。 この世界の人達の味方ではないけれど、それでも人間と同じように命を簡単に奪う直接的行為を、そんなことを神様が選択するなんてしちゃいけないんです」
天から降り注ぐ20発もの連続した落雷、車内に電気が通りにくいと言っても限界を超え、中の電子装置も全て破壊されてしまう。過剰な落雷故に車内にいたカイも軽く感電してしまい、普段通りに動く事は出来そうにもない。エンジンだけがいまだ動いているのは奇跡だろう。
「神様は、人間にとって、本当本当に、最後の両親なんです。
怖くて暖かくて、やはり厳しくても、それでもそれでも、やはり居て欲しい大切な両親なんです。
見守っていてくれていると思えるだけでも、辛くてもなんとか生きていけるんです。
そんな存在から、人間に直接手を下す程度の存在にならないでください」
《複数の高位意思を確認》
以前に貰った木の実と白い結晶が車内で光始め、木の実は砲弾の形に変化し白い結晶が形を整える。10式戦車砲弾に形を変えた木の実と結晶、しかしそれを主砲に装填できるだけ精密な動作を出来るような状態ではなかった。
「カイ、体はまだきついと思うけれど装填をお願い。 もう自分自身では細かく動けそうにない」
「大丈夫、オレに任せろ」
カイはまだ体にしびれが残っているはずだけど、木の実と結晶が変化した主砲弾を持ち上げると砲身後部の装填口に弾薬を押し込み、自分は念動力で歪んでまともには動かない砲塔の砲身の照準をなんとか老神様へと向ける。
今までは戦車砲なんて天に唾を吐くと同じように無意味だと感じていたけれど、これなら届くと言われている気がしてくる、それでも今できる事はこれくらいしかない。
発砲と同時に何度も衝撃を受けた車体が反動に耐えきれず、砲塔と車体を繋げていた部位にひびが入りもはや砲塔を動かす事さえできず、それと共に自分を繋ぎ留めていた何かが千切れ戦車から意識が外れてしまう。
放たれた砲弾は光を放ちながら老神に到達すると強烈な閃光が周囲を多い全てが白く染まっていく。
強烈な光の中、老神に怒りの表情はなく、驚きながらも小さな木の実と白い結晶を手に、多数の神々と共に空に存在していた。水の神、商の神、道標の神、森林の神、火山の神、治癒と病の神、それぞれが神の形と力を取り戻し、時間こそ掛かったものの木の実と白結晶を依り代にしている。
人間や動物にはない神々の価値観、それでも人々や動物達をおぼろげになりながらも見守り続け、結論を出そうとしていた老神に自らの意見を伝え再考をするよう求めていた。
短くて非常に長い時間、神々同士の対話の中で結論は出ると老神様を残して他の神々は姿を消し、老神様は見下ろすような状態のままだが周囲に放たれていた光が優しく暖かいものへと変わる。
「人の子よ。 ワシらは今一度人を許し世界をゆっくり見守ろう。 ほんの少し声を掛けて導き、良き人々が滅びないようにするのみに留まる」
腕を軽く振るうとリョウの体が修復されカイの傷が癒える、それと共に衝撃によって丘はなくなり木々が吹き飛んだはずの大地が再生されていく。元はあまり使われておらず木々もまばらだった殺風景な街道なはずが木々に覆われ、豊かな森林地帯へと変わっていった。
「お主の努力は対価をもって答えよう」
最後に繋がりが消えたことでただの鉄塊になっていた戦車と、繋がりが消えてただの意識の塊になっていた二つの繋がりを戻し、老神は笑顔になるとゆっくりと姿が消えていく。
「虚ろだった神々が説得に現れるなど、予測さえ超える事を起こすとはやはりあの世界の人間の可能性は面白い。 ワシの世界の人間も同じように育ってくれるとよいがのぅ」
ボロボロの車体に意識が戻り、痛みと共に曖昧だった視界と感覚がはっきりしてくる。
【条件を満たしました。 人型を開放します】
頭に聞こえてくるのはいつもと同じ人でも神様でもない何かの声。
「自分は戦車のままでいいです。 これからも戦車のままで、丈夫な体で誰かの盾になり、誰かの為に何かと対峙するこの体で良いです」
【人型の開放を中止します】
未練がないと言えば嘘になるけれど、戦車の体でいた方が出来る事は多い。それに人になったら人としての欲が出てきてしまうかもしれないし、それなら戦車のままでいたほうが良いことのほうが多い。だから自分は戦車で良い。
ボロボロの10式からAAV7に車体を変更し、皆が待つ町へ向かおうとしたとき、再び夜空に一条の光が差した。
「次は海を南西に渡り新たな大陸に向かうのだ。 そこにまた多くの人間が暮らす場所があるが、荒らされたまま神の加護はこの地と同じように弱い。 まだまだやらねばならぬことはあることを忘れてはならぬぞ」
これで終わりと言う事ではなく、まだまだやる事はあるらしい。それでも海を渡るのなら、みんなと別れなくてはならない。
海を渡るならそこは間違いなく国外、国外ならソミールレイル侯爵の影響外だし、保護下であり傘下にあるステアー商会と別れなくてはならないから。
数日かけて港町トバムに戻るといつもどおり皆が待っていてくれた。
「全ての用は済んだ。 あと少しでお別れだ」
カイの言葉に皆は悲しんだけれど、元々お互いの事情によって集まっていたことから止める人はいなかった。男と話したくないカイの代わりに交渉や情報を集め、カイはその代わりに皆を保護するために力を貸す。
そう言う約束で共に行動し、生活していくための知恵や道具などの作り方をカイが教えていた。だからそれもお終い。
二か月かけて王都に戻り、ソミールレイル侯爵夫人が領地に戻っているという事で、さらに一月かけて侯爵領まで移動する事でようやく夫人と会う事が出来た。
「そうですか。 ベレッタの神官修業は終わったのですね?」
庭園で行われる話の中で、重要な事はベレッタさんがちゃんと神官に成れたかどうかということ。旅の最中に何度も見習い神官として治療を行っているのを知っているし、それなりに治療ということは出来ているはず。
「正式な神官としては十分だろう」
「わかりました。 それではベレッタはこちらに戻る事を認めます」
予想とは異なり引き留められることはなく、謝礼としていくらかの金貨を渡されただけであっさりと了承してきた。
ソミールレイル侯爵としても手駒に神官が出来た以上、特に求める事はないということ。そしてステアー商会は旅商会から侯爵領の町に店を開く方針に変更となり、侯爵家の正式な傘下であるため相応な保護を得られる事となった。
店を開くために侯爵家お膝元の町にある大きな空き家の買取と、改築のため侯爵領の町に二ヵ月留まり、別れる故にあとに不安が残らぬよう一つ一つ終わらせていく。
ベレッタさんは神官としてカイから正式に洗礼を受け、ソミールレイル侯爵家の下で女性でありながら男爵という特例、その事をソミールレイル侯爵が認め、治療を司る神官として生きていくらしい。正式な神官に成ったので後継者を育てる事も、新たな神官となる人物に洗礼を与える事も出来る。
アキュラさんはベレッタさんと協力する形で薬を調合・処方し、侯爵の支援を受け薬の開発などを行っていくこととなった。暮らす場所は相変わらずステアー商会内で、これからも男を避けて暮らしていくそうだ。
カイから色々と薬を作る事や神への祈りについての注意点などを記載された木板を受け取り、これからも努力していくと笑顔だった。
エイケさん達皆はソミールレイル侯爵の傘下の商会として、旅商会を引退して侯爵領で商会本店を開く。
商品は貴族向けの健康的な料理の開発にミソとショウユなどの調味料の製造に貴族向けの高価な石鹸。
庶民向けには料理店と籠や刺繍した布に茶の素と安価な石鹸の販売。
商会として仕事はたくさんあるのでみんなは基本ステアー商会所属として生活と仕事をしていく。商会と言うよりは皆が生きていくための互助会に近いだろうか。
ファルさん、育てていたツル性イチゴは本来は育てるのは辞めた方がいいのだけれど、ソミールレイル侯爵の庭園の一角で育て侯爵専用料理の食材として使用、かつステアー商会から派遣される形で専属庭師としてやっていくと話はまとまった。植物の成長をある程度促すことも出来る事もあるけれど、イチゴや他の植物を大事に育てているので元々素養があったのかもしれない。何よりもソミールレイル侯爵家でしか味わえない果実と言う希少性を侯爵夫人が手放すはずもなかった。
シグさんは今後はステアー商会の牛に山羊や羊などを育てていくということで、牧場付きの為商会は侯爵領の町でも比較的町はずれにある。ソミールレイル侯爵家からの命令で少数とはいえ正式に家畜が許可されたので、他の商会や牧場は口が出せず、作られたミルクは料理や石鹸の為に使われていた。
ステアーは番狼として商会に残るかと思ったのだけれど群れに帰ることを選んだらしく、最後になると分かったらしいカイはいつも付けているスカーフを外すと月のない夜に静かに森へと去っていった。
非常に賢く襲い掛かるときは一切吠えない唸らないステアーがどのような群れを作るのか分からないけれど、それはきっと人間には脅威になると思う。それでもステアーは狼でありそう言った生き方を止める事は出来ない。
フサフサクラブのトーラスは商会裏にある牧場内とため池で暮らす。店内よりも広い場所で暮らした方が良い事と、いずれはつがいの相手となるフサフサクラブをシグさんが迎えるつもりらしい。
ハスタルさん達は雇われの護衛から専属のステアー商会の護衛になり、荷物の運送や商会そのものを守る仕事に就く。不安定な家業から落ち着いた生活になるつもりとのこと。
チェスカさんはまた旅を続けるために商会を出て行った。それでも近くに来たときは寄ると言っていたので、それなりに仲間と思ってくれていたのは確かだけれど、何よりも番を探す旅のついでに護衛をしてくれていたので仕方ない。
デュロはグリーナーさんと共に見分を広めるために、数年は商隊護衛などで国を見回ってからステアー商会で働くと決めている。まだ10代のデュロには色々見て体験してもらいたいと、そしてグリーナーさんが居れば安心なのでみな賛成していた。
アルスト教団に一度人生を壊されても、また自分の道を進んでいる。もう手を貸すことも心配する必要なんて何もない。特別な別れなどを一切断り、普段通りの朝食の後侯爵からの協力命令書を持って別れる。
再び3か月かけて港町トバムまで移動すると、アルスト教団が無くなったことで地球製の薬が手に入らなくなり、町は商人が減り活気がなくなっていた。アルスト教団が提供することでしか手に入らないモノを売買していた為、それを失ったことで領地を持つ貴族として信用まで落ちてしまったようだ。
神託に従い海を渡るために港で準備を整えることから、協力命令書を船大工に渡して依頼のモノを制作してもらいながら、入った海水を掬い出すための小さめの桶と樽を買ったり、豪雨時車内に水が少しでも入らぬよう幌布を用意したり半月、車体より短いものの細長いボートを6個ほど依頼通り制作が出来たので購入して町から離れた砂浜まで持っていく。
AAV7の前後5mに1隻ずつ、左右5mに2隻ずつ、太く丈夫な丸太で繋げ船用の太いロープでぐるぐるに結び付け組み合わせる。最後に自分の車体と繋げれば完成、これで大きな波や嵐の時も安定させひっくり返えったり沈まないように支えられる、かわりに抵抗が大きくて航行速度は落ちるらしいのだけれどこれ以上の事を自分は知らない。あくまで生前にTVや雑誌で見聞きした程度なのだから。
陸地を離れる準備が全て整った時、ステアーが番を連れて後を追ってきた。立派な毛並みだけれどステアーより少しだけ小柄な狼、実力をもってねじ伏せられたのかまだ新しい傷があるように見える。
「お前は、付いてくるのか。 ならば仲間が居る証がないと危ないからな」
荷物の中から取り出し刺繍された布を付けるためにカイが近付くと、もう一匹の狼が唸り声をあげたところを即座にステアーが首に噛みつき地面に押し付けた。やはり上下関係はステアーの方が上みたいだけれど、実際の力の差もかなりあるらしく身動き一つ出来ずに悲しげな声を上げている。
「ステアー、構わずにしておけ。 それよりも新しい首飾りだ」
ステアーは押さえつけるのをやめたのでカイは新しい布を首に巻き付ける。諦めたような顔で自由になった狼も首に布をつけたのでこれで野生と間違われて襲われることはない。
追加でステアー達の分だけ水と食料を積み込み、運動できるように車体と小舟を繋げる丸太同士の上に板を張って自由に移動できるように追加改造、もし海に落ちたなら念動力の範囲内で引き上げられるし、波が酷い間は車内に居てもらう。
ゆっくりと砂浜から海に入り、出来上がっていたバランス用ボート群と車体を船舶用ロープで固定し準備完了、これからは長い海を渡る航海の生活だけれど、それでも次の国に行くのにもっとも軽い車体でも船に乗れるわけもないのだから仕方ない。
航路はソミールレイル侯爵の伝手で手に入れた海洋航路の地図の写しと、羅針盤はなくとも方角わかる方位磁石はある、それに自分もカイも水や食料を必要としないので、ステアー達の分くらいは納入品一覧の中にドッグフードと水があるのでどうにかなるし、それに夜は道標の神様によって進むべき方角が示され迷うことなく海原を進み続けることができる。
「次は南西の大陸、虚ろな神様達の下へ」
「まだまだやることはあるだろう」
広い世界、まだ行ったことがない場所で、助ける事が出来る人がいるかもしれない。信仰が失われて虚ろになっている神様もいる、だからまだ終わらない旅を続けるためにAAV7の姿でゆっくりと海岸を離れていく。
生命を奪うものにも生命を守るものになる、それが道具で兵器。アルストはその力を全て自分自身の為だけに使った。
リョウとカイはどちらも容易く命を奪うことも命を守る事も出来る、道具で兵器と同じ。そこになんの違いもないけれど、使う時と場所と方法を選んだ。お互いにブレーキをかけたり逆に背中を押したり、この世界の人が後でも出来る事を考えて。
人ではないリョウとカイは余り変わらぬ考えで、力と道具の使う時と場所を選びながら、これからも生まれた場所とは異なる場所、
異世界を戦車として進む
3年4か月の長い期間、読者となってくれた方々ありがとうございました。
二人の旅はこれからも続きますが、これで完結となります。




