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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
311/313

311.トオリナ子爵のお茶会

 昨日町を案内してもらった人をイルレさんが声をかけて同じように銀貨を渡し、横の繋がりがあるだろう案内を仕事としている人達に聞いてもらい服飾を商う中で侍従服を取り扱う店を教えてもらった。

 昼前に一緒にその店を訪れると石組で作られた立派な建物で、店の前でも新人なのか下働きなのか分からない人たちが入口付近に飾られている服で来客に対応している。

 イルレさんが

 自分とカイとベレッタさんとデュロは車内で待っている。ベレッタさんは立場上良い服を持っていると言っても、最低限しか持ってきてないので新しい装飾品を買いたいらしく、デュロは服のサイズ合わせのため。


「女性用の服を買いたいのだけれど、種類を見せてもらえないかな」


「女性用の服はこちらにも御座いますが、店内の服は高価でお求めしにくいかと」


 イルレさんが話をするものの、初めて取引を訪れる商会だったり素性も分からない相手にいきなり良い物を売るわけもなく、何よりも身なりで判断し店内に入れてもらえずやりとりしている。


「ちゃんと支払えるし、男爵家で至急必要になったから急ぎ買いたいんだよ」


「そのような事を言われましても困ります。 店内の商品はそれなりの立場の人の使いの方以外は入れません」


「うちはソミールレイル侯爵様傘下の商会だとも言ったじゃないか」


 商店の人には信じてもらえず、ソミールレイル侯爵の書状は持ってきていないし看板のついている荷車も広場にあって証明する術がない。


「仕方ありませんね」


 車内にいたベレッタさんは立ち上がると、デュロが先に後部のドアを開き外に出た後をベレッタさんが出ていくとイルレさんの少し後ろに立った。


「私はガルドーネ男爵家ベレッタ・ガルドーネ、商会長を呼びなさい」


 直接貴族の令嬢が声をかけるというのはあまり行儀のよい事ではないらしい。

 しかし本当であった場合は貴族相手の非礼と言うことで、処刑されても文句は言えないらしい。急いで入口に居た店員の人は店内に入り、少しして慌てて商会長らしい人が出てきたことからちゃんとした商会と言うのが分かった。


「新人が大変失礼を致しました。 この度は当商会にお越しいただきありがとうございます」


 丁寧に頭を下げ非礼を詫びているのをベレッタさんは気にしている様子はない。


「この子に侍従服を2着用立てるように」


「わかりました。 客室を用意しておりますので」


 ベレッタさんは商会長らしい人に案内されながら、その後をデュロとイルレさんが付いていく。カイと一緒に





 商会の客室

 案内された客室の椅子に座り、いくつか侍従の服が用意された中で似合いそうなものを選び、店員に着方を聞きながらデュロは複数の侍従服を着用していた。


「あの、これでいいのでしょうか」


 侍女服に着替えたもののデュロは少し落ち着かない様子、慣れない服装故に仕方がないとはいえ、明日の茶会の最中は大人しくするよう言っておかないと。


「これで良いでしょう。 その服と合う小物も用意するように」


 デュロは少し腹部が緩いらしいけれど、問題なく侍従が着用する服を着る事が出来たことで明日は大丈夫でしょう。

 しかし私の為に持ってこさせた装飾品は質が悪く身につけるに値する物はない。貴族と取引できる価値がある商会と言う訳ではないらしく、たまたま縁があり侍従の服を強いれることが出来ているだけのようですね。

 待っているとデュロの侍従服とそれに合う小物の用意も出来、この商会でのようを済ませる事は出来ました。


「ご苦労様」


 席を立ちあがるとイルレが支払いとして金貨10枚を渡し、デュロが荷物を持つ。可能であればデュロが支払いまでやるのが侍従としての務め、しかし本当の侍従ではないのだからあまり求めすぎても仕方ない事。デュロは侍従を連れずに旅をしている私が、貴族として振る舞いが必要な時に侍従の代わりをしてくれるのだから、ある程度は大目に見てあげるのも大切なことですから。





 お茶会当日、迎えの馬車はこないので車体の後部扉を開き、ベレッタさんとデュロとアキュラさんに乗ってもらう。

 馬やゴーレムに牽いてもらう馬車はないので仕方ないのもあるし、馬車屋で借りたとしても貴族に相応しい物があるかわからない、それなら余り揺れず荷物を沢山詰める自分の方が良いらしい。

 港町から少し離れた丘にある子爵の屋敷まで向かうと、門の前には4人の兵士の人が門番として立っているので、御者席の代わりに車体の上に乗って居たデュロが降りて書面を見せる。


「お話は聞いております。 庭園の方にご案内します」


 門を通されると使用人の一人に案内され、庭園が見える場所で止まりデュロとアキュラさんが荷物を持って降り、その後をベレッタさんが普段は見ないドレス姿でゆっくりと先頭を歩む。

庭園は植えられた木々や花々が咲き誇り、ソミールレイル侯爵の庭より狭いその中心、そこにベレッタさんと同い年くらいの赤茶色の髪をした女性が侍女の人達と待っていた。


「マーニュ様、この度はお茶会にお招きいただきありがとうございます。 お機嫌も宜しいようで何よりです」


 スカートのすそを掴み貴族の女性らしく頭を下げ、デュロも荷物を持ったまま頭を下げている様子が見える。意外と声が聞こえる距離なのは庭園の広さもあるし、ベレッタさんが荷物を車内から出せるように近くに停める使用人に伝えてくれていたから。


「ベレッタさんお久しぶりですね」


 子爵の夫人マーニュさんと男爵令嬢のベレッタさんでは明確に格の差が出来てしまったで、友人とはいえ侍従の目がある以上余り親しくし過ぎるわけにはいかないのだろう。

 ベレッタさんが進められた席に座ると、少し離れた場所に設けられた椅子に座りアキュラさんがハープを奏で始め、デュロは渡されていた荷物をマーニュさんの側仕えに渡すと中身を改められ茶会のテーブルに置かれる。


「こちらはソミールレイル侯爵様が懇意にしている商会の品です」


 切り分けられたハチミツ石鹸が納められた木箱にマーニュ夫人は興味を持ったらしく、側仕えの人に中身がしっかりと見えるよう傾けさせた。


「これは、噂になっている肌が綺麗になる石鹸ですね。 良い物と聞いています」


 頷くと側仕えの人は箱をしまい、麦茶の茶葉はすぐに側仕えの人が淹れる準備を始めている。


「侯爵様から神秘の医術を磨く旅を命じられているとの話でしたけれど、侍従も一人だけで旅はつらくないかしら?」


「この子は侍従ではありません。 旅に侍従を連れる事が出来ませんので、旅に同行している侯爵様お抱えの商会の若い者に代わりにさせています。 粗相がありましてもお許し頂けると幸いです」


 挨拶も終わるとお茶と茶菓子と共に落ち着いた談話が始まり、デュロは笑顔のままベレッタさんのカップにお茶を淹れるなどしつつ近くで控えている。

 生まれてしまった上下関係はありつつも、久しぶりに会った友人との茶会は楽しいらしく、ベレッタさんもマーニュ夫人も笑顔で会話が弾んでいる。

 特に何かがあるわけでもなくマーニュ夫人が南西のトオリナ子爵に嫁いでからのことや、ベレッタさんの旅の理由やその間に起きた事などをしている中で、作っている薬の話になるとマーニュ夫人は侍従の人に何かを命じ屋敷へと取りに行かせ、その間にも話をしているとデュロが一回荷物を取りに来ると、アキュラさん製作の丸薬の入った小さい壺を車内から取り出して持っていった。


「とても効果のある薬も作っているのですが、やはり数は作れませんし試薬以外は侯爵様へ献上する量で精一杯なのです。 こちらも試薬として少しだけあるのですが」


 机の上に置かれた壺から、一つだけ丸薬を取り出したベレッタさんは元は茶菓子が載っていた皿に置く。


「それでしたら、アルスト教団から手に入れた万能薬があります。 少々高く付きますがは素晴らしい物、当家以外では手に入れる事さえ出来ない薬です」


「万能薬とのお話ですが、そのような神秘の薬が手に入るのでしたら、他の薬を作る必要などないのですね」


「えぇ、周辺の貴族の方々もこの薬を求めて当家に多くの融通をしてくれているのです。 アルスト教団の言う信仰とやらを認めるだけで当家は手に入るというのに」


 アルスト教団の影響、まさか万能薬なんてものが存在するなんて思わなかったけれど、それを提供する代わりに教団の信仰を広げる、いずれはこの町も貴族も乗っ取られてしまうのだろうか。それともずっと良い隣人の振りをし続けて隠れるのだろうか。

 マーニュ夫人の側仕えが高そうな箱を持ってくると丁寧に中から取り出され、テーブルの上に置かれた小さな瓶、何とか見えるそれはとても整った形をしているガラス瓶に鉄の蓋、ラベルこそ剥がされているけれど市販されていた総合風邪薬のようにみえる。


「カイ、もしかして教祖のアルストって自分と同じ地球のモノを何かの対価と引き換えに取り出せる、もしくは作る事が出来るとしたら自分が相手をするのは同じ地球人じゃ」


 車内にいるカイに静かに話しかける。


「そうだとしても、する事は何も変わらないだろう」


 カイのいう通りやる事はなにもかわらない、たとえ相手がどうであろうと。

 それがなぜ信仰を壊し、麻薬を利用して教徒を増やしていくのだろうか。知識があって力があるなら、それがどういった事を起こすかわからないはずがないのに。

 それはまるで、小学生が遊んでいる公園にリーダー面して命令している中学生みたいじゃないか。それとも何も知らない初心者に半端な知識人が驕るようなモノ。

 いや、自分も似たような事をしていたのかもしれない。本来存在しないはずの異物である以上、もっと気を付けなければ何もかも壊してしまう可能性だってある、自分を模倣して作られた牽引ゴーレムも馬車の発展に影響を与えているし。


「自分は、この世界に異物で有害なのだろうか。 教団と同じように壊し支配して回るだけの存在じゃないのだろうか」


「オレも共に異物ではあるだろう。 有害かどうかはこれまでのそしてこれからの振る舞いを先の歴史が決める事だ。 有害かどうかなどわかるはずもない」


 カイのいう通り全ては後の歴史が決めること、ただ現在を生きるならそれが正しいか間違えなのか考えながら進むしかない。


 それからお茶会は続けられ、町にいる間はトナリオ子爵の屋敷に留まってはどうかとベレッタさんは誘われていたようだけれど、商会と共に居る事も旅をする理由もであるとして断り一緒に広場へと戻ってきた。


「おかえり。 今日はファルさんが育てていた果実が獲れたから、今日は山羊ミルクと合わせてデザートにしましょう」


「挟み焼きパンもチーズが安く買えたのでたっぷり入れて作ります!」


 エイケさんとアウグさんは皆の料理を作り、植物を育てているファルさんが育ってて荷車の一部がイチゴ蔓だらけになっているらしい。さすがに荷車内は見る事が出来ないので本当かどうかは分からないけれど、それなりの頻度でイチゴが食事のデザートに提供されているので、それなりに株が増えているのは確かだと思う。





 翌日から数日かけて広場で屋台と露店を開きながらイルレさんが町で情報を集めてもらったのだけれど、トオリナ子爵との取引があるのでなんとなく方角は分かっていても場所は秘匿されているようで正確には不明。アルスト教団の教会もあるわけではなく、宣教師のような人もおらず白い装束を着た人達もまったくみかけないとのこと。


「すまないね カイさん。 色々聞いて回ったりお金を出したのだけれど」


 思ったよりも何もわからずイルレさんは謝っているのだけれど、大よその方角が分っただけでも大分助かる。本部に関しては各支部で回収した手書きの地図しかないので、大よその目印になるものが書いてあるばかりで方角さえもあまり分からなかったから。

 町に入って一週間経ったところで複数の手書き地図と話から大まかな位置を推測し、皆には普段通り護衛の人と共に待っていてもらう。


「気を付けて」

「大丈夫だと思うけれど、怪我はしないでくださいね」

「教団の奴らを許さないで……」


「何かあればギルドや衛兵所に金を支払って安全を確保してくれ」


 皆に見送られてカイと共に港町を出て海沿いに南へと進み10日、ほとんど使われておらず雑草も生えた街道でも荷車か馬車が進んだ轍だけはしっかりと残り、限られた人達だけが利用していることはわかる。

 手書きの曖昧な地図を参考に、目印らしい木や岩など元に大まかに向かっていたのは正しかったらしく、視界の先には待ち構えていただろう一際大きい金竜が翼を広げこちらに向かってくるのが見えた。

 ないはずの耳の奥にも響く金竜の大きな咆哮、それと共に新たに6体の赤龍と緑竜が翼を羽ばたかさせながら現れ、地面を駆ける小型竜の群れも見えてきた。


「リョウ ドラゴンが来る」

「アルスト教団は自分達が来るのを分かっているだろうだけれど、クル方向がまるで分ってみたい、まさかどこからか見られている?」

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