309.火山地帯と火山の神様
皆と合流し、少し休んだその翌々日には出発する。
野営地は壊さずそのままにしていくらしい。なんでも隊商が立ち寄り、その商会が今後は使うし整備すると言う事で、壊さずにそのままの状態で良いとのこと。
しっかりと野営地の整備費をイルレさんが請求し、車輪付きの出入口の門には隊商の専有であるという板が打ち付けられていた。
「よし、それじゃ再出発!」
残るはアルスト教団の本部のみ、いくつかこの国の中でも神様への信仰も産まれたし、次の国へ行くときには皆と別れなきゃいけないので、一緒に居られる時間も少ない。
西南へと街道を進み続けるなか山岳地帯に入るけれど、街道と繋がる大きい山道を見つけられず、人が徒歩でなんとか進めそうなものばかりで荷車などは通れそうにない。
「二三か月かかるかもしれないが、山を迂回する街道もあるから最悪そちらを進む事になるか」
イルレさんが旅人や隊商から話を聞いていたので、大きく山を迂回する街道がある事は皆知っていた。
迂回路への進みながらも時折見かける山道への道を確認する中、山間にある村が街道沿いにあるのを見かけ、一旦休憩と情報集めを兼ねて一旦休息を取る事になった。
広場に停車して皆が休む準備を進める中イルレさんが村の人に声をかけ、山を越える道を聞くと村人は首を横に振る。
「今は山に登らんほうがええよ。 今の時期は風向きが悪くて、悪い空気が山に留まって危ないんよ」
「悪い空気? それは」
「食べ物が腐ったような悪臭が漂って、動物も死んでいるんだ。 短い間ならともかく、山越えなんてとても無理だよ」
火山性ガスが出ているのかな。村の人達は長く暮らしてる中で、風向きからどれだけ居たら危ないかを経験で理解したのだろうか。
「次の季節になれば馬車も通れる街道が開くよ。 季節が変わるのは一月位先だけれどね」
一日留まる最中イルレさんに色々話を集めてもらい、この時期は旅人も隊商も通らずに季節が終わるまで待つらしい。しかしここが一番大きい山を越える道なので、季節によっては多くの人達で賑わうので今は完全に季節外れということ。
その夜は早めに夕食を取り皆は各々やりたい作業をしつつ、油を使った手作りランプを明かりが必要な頃合いになると皆眠りにつき、護衛の人が当たっている焚火だけ明かりとして残っていた。。
車内ではカイが静かに目を瞑り壁に背を預けていたのだけれど、目を開くと運転席側に移動した。
「神の気配が僅かにある。 山を早めに登った方が良いだろう」
「神様の? 少し情報を集めてもらったら、明日の昼には出発しよう」
イルレさんが山道の通り方を村の人に訪ねると、危険だと止めてくるものの何度も頼むと渋々と言った形で教えてくれた。
教えてくれたのは山道だけではなく、山に入る為のルールがあり、途中にある大きな岩に頭を下げてお礼を言ったり、綺麗に拭いた後山に入らなきゃいけないとか、動物達の分を残して木の実や山菜は採らなければならない、幼獣や幼鳥は狩ってはならない、採って来たモノの一部は大きな岩に置いて来なければならないなど。
なんとなく火山を信仰するような形に残っている身を守る為のルール、それを守りつつ注意をしながら山道を上り中、所々に生えている木は枯れ動物の気配とかは何もない。
「以前に通った山に似ているね」
「前よりも、少しだけ匂いは弱い気がする」
「もしかして、またお湯に入れるかな?」
火山らしく温泉のようなものがあると聞いて、湯治みたいなものを考えているのだけれど、山小屋とか整えられた湯場とかはないらしい。ただ村の人達も温泉に浸かる事はあるのでお湯に問題はなさそう。
日が暮れ始めたところで早めに野営する為に山道の横にずれて停車、嗅覚が大分なくなっている自分にも危ない気がするほど火山の匂いが強く成ってきている。
カイは皆が眠りにつくと静かに一晩祈りを捧げ、朝方になると風向きが少しだけ変わり火山特有の匂いが薄らいでいた。
皆は特に気付くことはなく朝食を済ませ出発、カイは何も食べずに車内で眠っている。さすがに一晩眠らずに祈りを捧げていたので朝食が終わった後仮眠をとり、目覚めたのは昼を少し過ぎた頃だった。
「大丈夫?」
目が覚めたカイに皆に聞こえないように小声で訪ねながら、納入品一覧からお弁当類を出して渡す。
「問題はない。 気配がある場所はあと少しのはずだ」
食事を終えると再び車体の上にカイは移動し、山道を進んでいくと途中から枯れた木々さえなくなり、岩ばかりが転がり地面から湯気が噴き出している場所が多くなってきた。
「向こうだ」
途中からカイに言われて山道を少し離れ、山道を進むとそこはとても広いお湯が湧き出してる場所にたどり着いた。
学校のグラウンドくらい広い泉に、深さと温度を確認しにカイが触れ注意しながら途中まで入っていき、膝位のところまでお湯に浸かるとそのままぐるりと全体を回って戻ってきた。
「温泉は温度も深さも問題ないようだが、反対側は急斜面だ。 周囲を少し整えた後、数日休憩を取ろう」
車体に積んであった丸太を下ろして柱として使い、その間を古くなりしまっていた幌布を荷車から降ろして囲いと目隠しを作る。近くに建物でもあればいいのだけれど、何もないので着替えが出来るような場所は作れそうにもない。
幌布も限りがあるので急斜面になっている方向は覆わないのと、着替えは温泉を囲った中ですることにした。皆が分担して作業したので短時間で出来上がり、着替える為に服や布に石鹸を持って入っていった。
自分はいつも通り入り口で見張り兼待機、何か呼ばれれば動けるようにということもある。
今までの中でとても広く湯煙で急斜面側が少し霞んで見える。これだけ広のは温泉でも初めて。
「デュロ、泳いじゃダメよ」
「温泉は暖かいけれど、ちょっと匂いが慣れないかもしれない」
「はぁ、屋敷に居たらこんな贅沢できないわね」
「……温泉の湯気で料理できないかな」
みんな落ち着いているし、カイさんも今日はゆっくりとお湯に浸かっているし、これだけ広いと狼のステアーも川のような感覚で気にせず、お湯に入り泳ぐように浸かった後は温かい岩の上で寝そべっている。
あれをデュロが真似してみたところ、暖かくなっている岩の上で横になるのもかなり気持ちが良いのがわかった。アキュラを含めて何人かは温まったあとに湯船のふちにある平べったい岩の上で横になっている。
「湯船も良いけれど、これもいいですね」
「私ハ、こちラノほうがいい」
ゆっくりと温泉に浸かっている中、急斜面側から湯煙の中何かがお湯に入るのが見えた。時折吹く風でその姿が見える。
「ワ、ワイバーン!?」
大柄のワイバーンがお湯に浸かっているのが見え、驚いて立ち上がろうとしたしたとき肩をカイさんに抑えられた。
「大丈夫、落ち着いて騒がなければ問題はない」
カイさんは気にする様子もなく、ワイバーンもこちらに近づく様子もない。ただ寝そべりながらお湯に浸かり、鳥や他の動物が現れても襲う事もない。
「騒がず近付かず干渉しなければ何もない。 どんな生き物だろうと、安息の地を荒らすような真似は避ける」
「安息地って、そんなことが起こるわけ」
皆が驚き怯えている中でカイさんは特に動くこともなく、ゆっくりとお湯に浸かっている。しかしワイバーンも動くことなく温泉のふちに顎を置きながら全身は湯に浸かっていた。
「怪我をし本能的に体を治すためにここにきている。 飢えるか怒らせない限りこちらに関わる事はない」
ほぼ反対側でお湯に浸かっているワイバーンはそのまま特に何をすることもなく、中央で源泉が湧き出している所から直接お湯を飲んだ後急斜面から飛び立っていった。
翌日も私達と同じように温泉にはゆっくりとワイバーンと一緒に違う獣が浸かりに集まるも、争う事もなく人が居ても警戒こそするものの近付くことも唸る事もなく時間が経つと温泉から出ていく。
比較的大人しい動物だけならまだしも、狂暴なはずのワイバーンまで大人しいし、カイさんのいう神様関係の事なのだろうか。
皆がお風呂を出て夕食を済ませ眠りについた後、カイに言われるまま湯船に入り中央付近を念動力で探ると土台が崩れた像が出てきた。
「これは、神様の像なのかな」
人の形をしていないものの丈夫な石を削って作られた
「少し削れているが、これくらいなら治せそうだ。 残照としても随分希薄になっているが、数日留まればなんとかなるだろう」
翌日から自分は大きな岩を念動力を使って平たい台座になるように削り、カイは少し削れていた像の形を整え始める。夜は温泉の中を自分が整えながら、像を彫り終えたカイは奉納の舞と歌を捧げる。
みんなは休息を取りながら個々の趣味に時間を使い、やはり動物は相変わらず温泉に浸かりに来ていた。ただ、大柄なワイバーンは毎日訪れ、昼間ずっと使ってはこちらを見ているような素振りをしつつ、夕方になると飛び立ち離れていった。
2週間近く続けているうち周囲の地面は岩をどかして片付け終わり、温泉の中に溜まっていた砂に小石や砂利も大体除去が終わった。
湯船の周りも比較的平べったい岩を並べたり、天然温泉とはいえそれなりに整えられたとは思う。その間にも昼間は大型の鳥に熊のような動物まで湯船に入りに来ている。
ここはきっと生き物たちの湯治場、神様の残照があるということは、ここでは無意識に争ってはいけないという意志がでも伝わっているのだろうか。
全ての準備が整い、数日待ちようやく来た満月の夜に神様への正式な神事による神卸を行う。なのだけれど、その日は夜になっても大柄なワイバーンや動物達は残り、湯船にも入らず崖側にずっと佇みこちらを見ていた。
「神事を執り行う。 リョウ中央に像を」
言われた通りに石を削り研ぎ上げた土台を、源泉が湧き出している温泉中央のすぐ横に置き、その上にカイが整え直したなんとなく和竜似た像を置く。
「はい。 出来上がっているよ」
「とっておきのお酒です」
エイケさん達が作った料理とお酒も台座の上に並べて奉納する料理も出来上がり。カイは薄着になると湯船に膝までつかり奉納の舞と歌を始める。
「ア カ ハ ナ マ...
フ ヌ ム エ ケ...」
歌と共に舞が続いていくと月の光が強くなり、雪の様に月の光が降り注ぐと像が光り輝き、噴き出していた温泉の湯が像の形を取り始める。
しっかりと形をとるとそのまま像を包み込み、白い結晶のようなもので覆われて完全に固まった。奉納の舞と歌を終え、カイは温泉から上がった。
「これで大丈夫。 あとは温泉に来る獣達が大事に守ってくれるだろう。 神は二度と荒らされぬよう軽く呪いをかけるようだが、大丈夫だろう」
若干恐ろしい言葉もあるのだけれど、人ばかりが信仰するのが神様じゃないのは分かっているし、大切にしないのなら人間に加護が与えられないのも仕方ない。
神様は人間にとって都合の良い存在であるはずがないし、きっと都合がよい神様なんて居たら人間は我儘でダメになる。
一際大柄きなワイバーンは中央の像まで行くと、小さな結晶の欠片を器用に口で咥えながらこちらに近付いてくる。皆が怖がり下がる中、カイは動くこともなくそのままみているだけ。
霜柱のような白い結晶、それを自分の前に置くと温泉の中に戻り湯船のふちに首を置いて寝そべった。他の動物達も湯船のふちにある暖かい岩に寝そべったりお湯に浸かるなどのんびりとし始めた。
前みたいに持って行けってことだろうか。念動力で持ち上げ車内に入れて毛皮などで大切に包みしまっておく。
「これでここの神も戻った。 明後日には移動しよう」
途中で神様の気配がなければ次の目的地はアルスト教団本拠地、途中でみんなと別れる事になるけれど、それでも一つの物事に片が付く。
それにどことなく気になっていたアルストと言う人物、まさかとは思うけれど自分と同じ外部から何かを委託された人じゃないだろうかと考えている。色々な所でのやり口がなんというか、妙に自分と同じ現代人っぽいというか、貴族の人達や商業の人達と余りにも違い過ぎるから。




