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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
308/313

308.休息中

 カイさんが出かけてから一日、イノシシのが一頭現れただけで特に何も起こらず、捌いた後は燻製干し肉と毛皮にするため


「今日は内臓が沢山あるし、川があるからしっかり洗って食べようか」


 エイケは楽しそうに

 作れるものは場所によって限られ、腐りやすくダメになりやすい内臓類は川沿いに留まった時しか調理する事は出来ない。


「今日は鉄板焼きとナベの両方が出来ますね!」


 アウグと共に川に行くと、捌いたばかりの猪の肉の中でも、普段なら捨てる部位の水洗いを始めた。

 護衛の皆が警戒している中、魚を取ったり洗い物をしたり皆はゆったりと過ごしている。女だけで安全な旅なんて普通考えれば出来るわけもないけれど、今は商会として暮らしていられる。いつまでもこうであって欲しいのだけれど、元々情報を聞く代わりの取引なのだから、用が終わればカイさんはいずれ別れる事になる。

 私もデュロもアキュラも他の皆も、感謝をしているしずっとこのままなら良いと考えてしまう。


「イルレさん。 猪の皮どうします? 全部なめし皮にしちゃいましょうか?」


「ちょっとまって。 一個はなめし皮にして、一個は傷んでいる寝床の交換に毛皮のまま使おう」


 いつかは離れていくのだけれど、カイさんが居なくなってもこの状況が維持できるように色々準備を整えておかないと。




 三日目、留まってから初めて隊商が街道を通り、誰でも使える野営広場に立派な防壁が出来上がっているのをみて驚き警戒していた。


「これは、ここの責任者は誰か」


 護衛を務めているらしい槍を持った男が、部下らしき数人の男達を連れて防壁に近付いてくる。

 防壁の外を見れる小さな物見台から様子を窺っていたのだけれど、カイさんが居ないときの代表や判断は私の役目。


「あたしが代表だ。 何か用か」


 高圧的に出過ぎても、下手に出過ぎても女は舐められまともな話にはならない。気を付けながらも強い声で答える。


「ここにこんなものは以前なかった。 お前達は何者だ」


 全員武器を手に警戒している、盗賊かろくでもない集団かと思われたのかもしれない。


「あたしらはステアー旅商会、諸事情で一時野営で留まるためにこの野営地を整えた。 使っている間は中に入れるわけにはいかないけれど、商会としての取引ならするよ」


 いまだ怪しんでいる様子は消える事がない。


「今取引物をもって行く。 扉を開けるからそこで待っときな」


 物見台から降りて皆から籠と石鹸の入った壺を受け取り、護衛のグリーナーと共に車輪の付いた扉を横にずらし防壁の外に出る。

 武器を向けてはこないものの手から離す様子はなく、隊商の護衛をしている連中は警戒を解いていない。


「うちらの商会は料理と籠、そして石鹸を商いしている。 食事なら昼と夕方だけやっているよ」


 少し警戒しながら一人が籠と壺を受け取り、一応確認らしきことをすると荷車に居る商人らしき男の所に持って行った。


 少しして戻ってきたときには、商人だろう男も一緒であったことから、こちらが商会であると理解してくれたようだ。


「大変失礼しました。 中々良い商品をお持ちのようで、石鹸をいくらか購入したいのですが」


「それより、まずは護衛の奴らに武器を下ろさせな。 失礼だろうが」


 全身に入れ墨のあるグリーナーが威圧を込めながら話すと、少し怯えた表情を見せながら護衛の男達に武器を下げさせた。

 商品を理解したことでようやく商会と認めたくれたようだけれども、やはり女というだけで少々侮られてしまうのは、目に見える範囲で侯爵様のお抱え商会と分からない限りこれからもきっと続く。


「うちらはソミールレイル侯爵様のお抱えのステアー商会、余り度が過ぎるなら侯爵様に訴えさせてもらうよ」


「そ、それは失礼いたしました。 何卒穏当にお許しください」


 侯爵様という上流貴族のお抱え商会、それが二番目に安全で居られる理由、カイさんが居なくなったら貴族お抱えの商会として王都、もしくはソミールレイル侯爵領で店を開き暮らす事になるかもしれない。

 カイさんのように強くも、色々知識があるわけでもないから。







 皆の所に戻るには5日掛かり、二日目に女の子は目を覚ました。


「ここ、助かった……の?」


「大丈夫だ。 もう教団はなくなり、大分離れた場所にいる」


 助ける前にカイと少し話をしていたらしく、状況を理解すると泣くこともなく安堵の表情を浮かべている。 デュロよりも少し幼い感じがするのだけれど、とても強い子なのかもしれない。


「ありがとうございます。 やっと、やっと出る事が出来ました」


 自分は車内の様子は見ないようにしつつ、声だけ聴きながら道を進み続ける。


「これからどうするつもりだ。 教団から出て一人で生きていけるのか」


「それは……、でも教団に居なければ一人で生きていけます」


「そんなに甘くはない。 奴隷商人に捕まるか、盗賊に捕まり慰め者になるか。 力も後ろ盾もない子供一人なんてそんなところだろう」


 世界は甘くはない、それに奴隷商人が居る事も知っているし、村はともかく町には孤児みたいな子達を見かけなかったわけでもない。男女問わず子供が一人で生きて行けるようなモノじゃないということは、


「オレのところで生きる術を学んでいけ。 商会で働けば何かしら働く技能くらいは着くだろう。 それから一人で生きるかどうか考えろ」


「でも、誰かと一緒になんてもう」


 傷つけられ過ぎて誰かと一緒に居るのが辛いのかもしれない。そうだとしても、何も知らない子供を1人で放っておくことは出来ない。


「みんな女だけだ。 心配する事はない」


「それでも、もう一人で良いんです! 一人で生きていきます!」


 意志は固いらしく、一人で生きていくと退かない女の子に強く言うわけにも行かない。助けられたとはいえ他人を信用し辛くなっているようだし、してあげられることは限られる。


「そうか、それなら少しだけ一人で生きていくための道具をわけてやる。 リョウ 止まれ」


 停車するとカイは車内に置かれている荷物袋から、普段使っている投擲用のナイフを2本を革で縛って納め、小さな革袋には銀貨数枚と銅貨を入れ、革の水筒と干し肉を含めて全てを背負える革袋にまとめて女の子に差し出した。

 戸惑いながらも女の子は受け取ると、カイは車体後部の扉を開いた。


「一人で生きていくのはそんなに甘いものではないが、やれるだけやってみろ」


「助けてくれて……、ありがとうございました」


 女の子は礼を言うと、車体の外に出て一人道を歩いていった。皆よりも強かったかもしれないけれど、他者を信じず一人で生きる事を選んだことを止められなかった。

 女の子と別れた夜、皆が待つ野営地へと向かう最中。


「あの子、一人でやっていけるかな」


「……難しいだろう。 難しいと伝えても自ら選んだ以上、してやれることはあれ以上ない。 無理にどうにかするのなら、それは教団と変わらないだろう」


 カイのいう通り無理やり生きる術を教えても、それは教団がしている事とあまり変わらない事になってしまう。促し方や伝え方が余り良くなかったかもしれないけれど、選択したことを無理に変えさせる事は出来ない。


「願わくば、あの女の子に道を照らす神様の御加護がありますように」

「あぁ、オレ達がしてやれることは、神に祈ってやる事だけだ。 あの子の行く道に光がある様に」


 加護を与えてくれるだけ神様の力が戻っているかは分からないけれど、1人で生きていく決心をし旅だったあの子に神様の籠がありますように、祈ることくらいしかできない。

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