表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
282/313

282.枷と取引

 納入品一覧にあるレースのカーテン、これを生地として献上品にする。かなり質が良いので石鹸と合わせれば問題ないはず。

 そしてやっぱり暖かい料理を食べてほしいというのは皆の意見、だからみんなは色々考えて、装飾を施した木板を作り、熱々に熱した取っ手付きの鉄板もしくはお鍋を置けるようにした。

 これで長々と貴族の作法や毒見があっても、暖かい間に食べられると考えた事。

 石焼と最初に皆は考えたのだけど、野蛮とか思われそうだから、石像用とか色々な石を取り扱っている石工の店でとか考えた、しかしカイと相談して一番安全なのはすでに食事にも使われている鉄鍋の鉄製となった。

 王都で有名な鍛冶屋で一人用の鉄板と鍋と丸い鉄の玉を作ってもらい、疲れる事のない自分がひたすら丁寧に磨き続ける。

 数日ずっと磨き続け、鋳鉄製だけどうっすらと光を反射するまで磨いた。これなら熱々になるまで焼いてから、スープのお鍋や鉄板に置けば熱さを維持できるし見た目も良い。


「この装飾、意味があるの?」


 楕円形で浅い皿の形をしている鉄板の底には、花の浮き出る彫り物がされている。それを疑問に思ったアウグさんがエイケさんに尋ねた。


「貴族様に使ってもらうからね。 鉄皿だって装飾がないと」


 自分としては余分な脂とかソースっぽいものを落とすつもりだったのけれど、網状だと味気ないので花の浮き彫りにしてもらった。みんなはあまり分かっていないようだけれど、これはこれでちゃんと意味はあったみたい。


「まずは練習用ので何度か作ってみないとね」


 練習用の鉄皿は網目というか碁盤と言うか、簡単に掘られているだけで装飾性はない。それでもエイケさんはうまく使いこなすため、その日からみんなで食べる料理には積極的に使うようになった。





 それから数日、ソミールレイル侯爵から使用人の人がまた訪ねてきた。話の限りでは、今まで食べていた味噌料理と比べ、ずっと美味しくなくおかしいとのこと。

 たぶん少し覚えたことをベースにアレンジして、バランスを崩してしまったのだと思う。

 エイケさんとアウグさんの料理を食べたことがない人にとっては美味しくても、夫人にとってはいまいちだったのだろう。

 何はともあれ呼ばれたのだから、みんなで料理を作りに向かい庭園の隅に案内された。

 そこで使用人に説明されたのは料理長と比較するために味噌を使った料理を作れとということ。事情としては料理長は自信を持って出す料理がいまいちの為、夫人思い違いかも知れないという疑問が出てきたという。


「こちらに食材は用意いたしておりますので、昼食に間に合うようにしてください」


 使用人の人達によって食材が運ばれ、調理道具こそ別だけど、同じ食材と同じ香辛料を用意されているみたい。


「事情は分かったし、やっていこうかね」


 屋台車から調理道具を下ろし、みんなはてきぱきと調理の準備を進めていく。材料を持ってくる使用人の人達はどこか香辛料を使えるのかと、笑いながら説明しているので馬鹿にしているような様子が見えるけれど、エイケさんとアウグさんは一度に使う量こそ少ないだけで、普段から味噌鍋に使っている事は割と多い。

 使えるお金も限られているからというのもあるけれど、試行錯誤していく中で多種類の香辛料をバランスよく少しずつ入れた方が美味しいと分かっていた。


「鉄皿は軽く火であぶって。 火傷しないよう注意だよ」


 貴族の料理は豪勢で沢山! というイメージがあるかもしれなけれど、歴史の本をちゃんと読んだり史実を調べると、そう言うのは特別な日だけで普段はそれほど品目は多くなく、一品一品が高価という感じ。食道楽なら話は別だと思うけど、幸いソミール侯爵家はそういうわけではないらしいことは、別邸で夫人の治療中にしっている。

 今回は料理長のモノを食べた後、エイケさん達の料理を食べるというちょっと量が多めになるので、一品一品は少なめに工夫を凝らすらしい。



 用意された豚肉を数少ないショウユとコショウと塩で焼いて、鉄皿の上に食用油が少し流されて一口サイズに切られた野菜に絡んでいく。単純でわかりやすくて、パンにもお酒にも合う組み合わせ。

 次にエイケさんが選んだのは固くて安い雑穀パン、だけどそれを火であぶってさらに硬くした後、特製スープに砕いて入れるととても美味しいらしい。

 これも普段の食事でエイケさんとアウグさんが見つけて、あれこれ試して一番良いのを食べ比べて決めた。

 困ったのはデザート、果物くらいは使ったことあるのだけれど、エイケさんもアウグさんもわからず、用意された食材ではなくまだ少ない食材を使う事にした。

 強い蒸留酒に漬け込んだ干し葡萄。それはたっぷりとお酒を吸い込みあま~くなり、みんなが楽しみにしているもの。たぶん ラムレーズン っぽいものになっているんだと思う。

 高級な貴族の料理を知らない中で、エイケさんとアウグさんが見た目と味を考え抜いた料理。

 出来上がった料理は使用人の人達が受け取り、毒見の人が家族の前で食してからになる。だから運ぶ直前に熱々に熱した鉄球を鉄皿の隅に置き味噌鍋の中に入れて完成。給仕の人達が侯爵一家が待つ庭園の会場に運んでいく。





 当主は妻と子達と共に庭園で料理長の新たな ミソ というものを使った料理を楽しんだあと、腹がある程度満たされた状況での評価にあまり期待していなかった。

 しかし妻はかなりご執心であり、料理長が自信を持って出した料理も余り気に入っていないようだ。


「どうぞ。 まだお熱いのでお気をつけてお食べ下さい」


 どんな料理かと思ったが、貴族の料理にしては見た目もあまり良くなくそして色合いも地味。しかし妻が気に入った料理は中々だった。

 目の前に給仕されたものは木の板の上にさらに鉄皿が置かれ、鈍く光る鉄球が鉄板を熱して料理は温かな匂いと音を立てている。

 見た目は地味ながら一通りの食べ物は平民にしては悪くはない出来と言えるだろう。


「熱いな。 だがワインと肉がよく合う」


 まだ鉄皿の上で暖かさを保っている肉は酒にもよく合う。いや熱いほどの料理は初めてかもしれん。


「そうね。 やはり暖かいとワインにも合うわ。 温かくしたワインもまた飲みたいわねぇ」


 妻は療養中に食べ慣れた味、火傷しない程度に熱く、湯気を立てている料理は酒にもよく合うのを知っていた。

 貴族が晩餐会や他の貴族や商人と共に食べる気品のある料理とは言い難いものでも、味だけは濃くなくさっぱりしても美味しいという、香辛料だけの味が濃いという豪華な料理とは異なる味に、毒見が行われた後当主・夫人と子供達によって、ゆっくりと食事が行われた。





 使用人の人に呼ばれ、当主が下した評価はエイケさんとアウグさんが作った料理、食べやすいと言う事と真新しいとの差で選ばれたとのこと。

 皆が一安心する中、料理長は睨むようにこちらを見ている。正式に当主が認めたとしても、やはり割り切れるものじゃないらしい。


「いい加減にしなさい。 決めたことに逆らう気ですか」


「そうだな。 初めて食べたが、うむ 食べやすく味も良い。 見た目はそれほどではないが、鉄皿と鉄鍋の温かさはとても良い。 これは比べる必要もない差だろう」


 当主と夫人の決定、それは貴族の決定であり平民には基本として逆らう事は出来ない。しかし料理長は頭を下げてたあとこちらを一睨みしてから屋敷へと戻っていた。

 たまたま夫婦の趣味趣向にあっただけで、実際には料理長の方が美味しかった可能性があるし、エイケさんのほうが美味しかったと思う事はないとおもう。

 日本料理風のモノが何よりも美味しいとは思わないし、事実当主の人も 《暖かさ》 と付け加えていたからね。

 その様子を見て夫人は何か決めたように夫と話し、頷くと当主は使用人を呼びつけて屋敷に戻っていった。子供たちもそれぞれで使用人を連れて屋敷に戻り、その場には夫人だけが使用人に茶会の準備をさせ残っていた。


「少しそのまま待っていなさい」


 貴族の結婚は政略が基本と言うのは歴史書で読んだことがあるけれど、それでも惚れた弱みと言うか、自らの器量で夫を尻に敷く事は出来るのも知っている。

 どうやらソミールレイル侯爵夫人は、病で別邸に行ったものの、その器量で当主を篭絡と言うかある程度言う事をきかせることができるらしい。

 少しして書面をもって執事らしい人が羊皮紙を持ってこちらに歩いてきた。それを夫人が受け取ると中身を開いて読み上げる。


「ソミールレイル侯爵家は、ステアー商会を正式に傘下に加える事を認める。 この意味が分かりますね?」


 今まで色々隠しながらやっていたし、運よくさほど知られなかったので大事にならずにすんでいた。でも、それもそろそろ限界、人は増えてきたし料理の味もかなり良くなっている、暗に後ろ盾になってもらっても強気に出てくるのがいないわけじゃない。

 王都の広場に居る間でも、雇ったハスタルさんが止めても、エイケさん達に声をかけて引き抜こうとされたりして、警戒していても皆のストレスになっている。

 ただの商会ではやっぱりもう安全じゃなく、庇護下と言う名の支配下に入るしかない。幸い侯爵夫人はまだ病気の件もあり、理解者というかこちらの話を聞いてくれる。難題は言っても無理は言わないでくれるだけましかもしれない。




 それからカイとイルレさんがソミールレイル侯爵夫人と条件に付いて話し合い、余り言いなりにならず、そして主張し過ぎないように気を付けながらも一応まとまり、後日正式に当主の印が為された木板と書面が与えられた。


・特定品の定期的献上 特製石鹸及びミソ

・売り上げの一部献上

・ベレッタ男爵令嬢を神官として教育のため同行させる

・正式な侯爵家の印板

・自由な旅



等、これからはステアー商会はソミールレイル侯爵の正式に傘下というか取り扱いの商店となる。

 それでも正式な侯爵の看板故に、他の貴族も大商人ももう手出しは出来ない。悪質な相手などはともかくとして、こちらも振る舞いとか気を付けなきゃいけないけれど、他の町を色々見てきた中で貴族に逆らうような人はまず見かけなかった。

 表街道を出来る限り歩いて商売をすれば安泰となる確実な後ろ盾。

 正式に決まってから、夫人の話ではかなり危ない段階にあったらしい。ドラゴンの素材を売ったり、珍しい物を取り扱っているとかで、貴族達が探していたとのこと。

 下手すると悪質な商会や危険な貴族によって身動きを抑えられ、もしくは自分とカイが戦うことでお尋ね者になっていたかもしれない。


「今後は商会としては従ってもらいます。 信徒として無理は言いませんが」


「無理をいってもいいぞ? 二度とオレが教える事はなくなるが、自力でも時間をかければ相応に神託を聞けるだろう」


 安全と引き換えの枷、だけどそれが今は皆の為には必要なこと、大分緩い枷になるようイルレさんが話し、神官としてカイが夫人にくぎを刺す事で止められるので、それほどではないことにできたのが幸い。


「神託が無ければ、私ではほとんど治療できません。 この像が無ければ聞くこともままならず、そのような事は出来ませんよ」


 ソミールレイル侯爵家との関係は、夫人との直接的な繋がりで家族とは一切ない。それだからこそ金銭や品だけで余り縛られずに済むのかもしれないし、神官として権力とは別の事で優位にはたてている。


「女神アルテの女神像か。 そうだな、木像から特別なモノを作るとしよう。 木像と違ってオレ以外は決して作れないモノをな」


 カイが特別な像を造ると言うと、ソミールレイル夫人はどこか嬉しそうに頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ