280.単純な方が恨まない
ソミールレイル侯爵の後ろ盾があると言う事は、利があると同時にやっぱり断り切れない理由にもなってしまう。
あまり無理強いしたり無茶を言う事がない夫人のようなので安心ではあるんだけど、やっぱり後ろ盾になってもらうのは軽々しくはできない。
数日して10人が護衛の話を聞きに来たけれど、長期間の雇用と言う事でダメだったり、町や村をほとんど当てもなく動くと言う事で断られ、1人だけ女性の人を雇うことが出来た。
「それじゃ宜しく」
雇われた女性冒険者の人は、元兵士のイルレさんよりは小柄で、同じく元兵士のアウグさんよりちょっと年上なよく見かける茶髪のショートヘアの人。
「それで寝る場所はテントを用意するとして、移動手段はどうします?」
「馬は、ついて来れないよね」
さすがに雇った人を歩かせるわけにも行かないし、これ以上牽引するのは正直力ではなくて視界的に難しい。
とはいえ馬だと休憩が必要になっちゃうし、いつもより旅の速度が遅くなってしまう。
「ゴーレムを買いましょう。 それで護衛の人達用の荷車に使うんです」
「それがいいかもしれないね。 リョウについて来れるのは同じゴーレムだけだろうし」
「6人雇う予定だから、それくらいの人数と物を運べるといくらくらいするのだろう?」
お高く付くだろうけど、それでみんなが安心出来てちゃんと護衛が出来るなら必要な事。
でもやっぱり自分はゴーレム扱いと言うか、普通の人にはゴーレムの類に見えるわけね。
翌日は屋台を休みにして、皆で王都でゴーレムを取り扱う中でもっとも大きい商会を訪れていた。
最初はお店に入る事を入口の店員に止められたけれど、イルレさんが金貨の入った革袋を見せると大慌てで店に入っていった。
「会長 オーダー注文ですよ!」
店員の大声が外まで聞こえてくると、少しして商会長と思われる人が出てきた。
商会長として呼ばれて出てきたのは、ずっと前に見かけた二人の問題のある勇者の一人、確かにゴーレムを作っていた人だけど、モヒカンヘアが牽引ゴーレムを作っていたとは驚いた。
少し落ち着いたのか、ソフトモヒカンになっているけれど、顔は同じなので気付いた。
睨みつけるような視線のまま店の裏にある大きな広場に案内され、そこには沢山の牽引ゴーレムと席が置かれていた
「オーダーする前にどんなのがいいか見て回ってくれ。 話はそれからだ」
皆が店員の説明を受けながら沢山ある牽引ゴーレムを見て回る中、自分の近くにいるカイにモヒカンは少しだけ近付いた。
「……別に、恨んじゃいねぇよ。 そのゴーレムを参考に作って売ったら、今じゃあの頃みたいにわざわざめんどくさぇ戦いや縄張り争いなんてせず儲けられてるからな」
わりとさっぱりとしているというか、商売に成功したことで丸くなったのだろうか。
「今や王都にでかい店を持つ商会長様だ。 昔のごたごたなんてわすれてやらぁ」
そしてモヒカンの商会長は席に戻ると、皆が店員の説明を受け終わり集まってくるのを静かに待っていた。
「それでどんなオーダーだ」
イルレさんが木板に描いたものを説明すると、あれこれ説明しながら使い方などを確認していく。
席の近くで話を聞いているだけで暇なので、自分の上にはデュロが乗ってステアーにくっ付き撫でまわしていた。
「頑丈で魔力消費量が少ないことが望みか。 装飾性がないってところはまぁ金持ちや貴族様とはちげぇな」
説明を聞きながら自分の木板に必要な事を書き込み、アレコレと話しながら性能を詰めて、必要なモノや大体の価格をモヒカン商会長はまとめていく。
「9日後に来いや。 それまでには作っといてやるよ」
皆が店員に表に案内されている中、モヒカン商会長はカイを呼び止めた。
カイは機嫌が悪そうだけど、一応立ち止まるというより車体の上に乗って居るので自分が止まる。
「あいつはてめぇの事恨んでるから注意するんだな。 あいつは最低のクソだ、偽善者って名のクソだ。 気を付けねぇとてめぇの仲間をあいつは襲うぞ」
モヒカン商会長はそう言うと大きな商会の中に戻っていった。
もう一人の勇者だった人が仲間を襲うって、なんで自分ではなくて皆を標的にするのだろう。油断しないようにもっと気を引き締めて置かないと、皆を危ない目に会わせてしまう。
蒸留酒に漬け込んで数日、干し葡萄はしっかりと蒸留酒を吸い込みふっくらと膨らみ、お酒の方は葡萄の香りが移り良い匂いが漂っている。
「うん? 普通に作ったのより甘い?」
蒸留酒に漬け込んでいた干し葡萄を取り出し、試食していたエイケさんやアウグさんが首を傾げている。
「お酒も、ほんのりと葡萄の味がして美味しい」
「これ、きっと貴族様相手でも売れるね」
皆が試飲と試食をしながら上機嫌。
自分はお酒が苦手だったから良く分からないけれど、香りが良いことくらいは分かる。
「そうだけど、これはあんまり売れないんじゃないかしら?」
そんな中、ハスタルさんは首を傾げていた。
「味も風味も良いけれど、安くないんでしょ。 あたしみたいな冒険者もお金があるわけじゃないし、商人や貴族様なら良い物を持っているはずよ」
実際に混ざりもののない蒸留酒は高いということだし、沢山売れるものじゃないのは確かだと思う。良い蒸留酒を買ってから、漬け込んでいるので時間だってかかるし沢山作る場所だって余りない。
「当分は留まるから、ソミールレイル夫人に贈答しましょう。 気に入ってもらえるようなら、買い取ってもらえるようにすればいいんじゃない?」
エイケさんの提案にダリエルさんも頷き、酒漬けの葡萄を見る。
「中身の漬け葡萄もそうしましょう。 せっかく作ったのに売れないのはもったいないですし」
「甘味なら侯爵様への献上品としていいかもしれません。 ダニエルさん、他の果物でも色々試して用意しましょう」
「たまになら皆で食べてもいいかもね」
「あたしは結構甘口なお酒で好きだから飲むほうがいいわね」
割といい雰囲気で話が進んでいく中、前に見たソミールレイル侯爵夫人の使用人の人達と一緒に一人の人が屋台車の前に来た。
「ここにミソの使い方を教える料理人が居ると侯爵様から聞いたが」
ちょっと自分に自信があるような雰囲気がある料理人の男性、ちょっと言葉使いにも良くない感じがある。




