276.麦茶・王都へ
イルレさんは出来上がった新たな剣を腰に下げ、荷車の御者席に座ったので通過する王都に向け出発。正確には王都へと向かうというより、王都を通り過ぎてさらに西に向かうためなんだけど。
何故かは分からないけれど、王都周辺にはアルスト教団はないらしい。色々考える事があるのだけれど、もしかしたらアルスト教団の教祖はどこかしらの異邦人なんだろうか。
知らない別の大陸とかから来た知識人だったりしたら、それはそれで終わる事のない問題になりそう。
でも、老神様のいう感じでは、アルスト教団がもっとも信仰を失わせるような事をしているから、まずは一番大きい所から対応しなくちゃ。
それが終わったらまた一つずつ対応して解決していくしかない。
時折の休息の時、車内で分けてもらった麦を地道に分けている。それこそ一粒ずつ念動力で持ち上げ、確認しては傷んでいたり発芽してないものを選ぶ。
何種類か混ざっているような気がするけれど、品種とかわかるわけでもないので、とりあえず選別だけはすしておかないと。
数日かけて選り分けた麦、それを水で洗った後天日で丸二日干す。といっても昼間の移動中、薄広い箱みたいなものに入れておくだけなんだけど。
乾いたら借りたフライパンみたいなもので、焚火でボチボチと焙煎していく。こういう時大抵の暑さとか気にしないで済むのは助かるかな。
「リョウは何してるの?」
デュロが気になったらしく、近くでフライパンの中身を覗いている。
「食べ物?」
デュロも熱いから触れる事はないけれど、フライパンで煎っているものに興味を持ったらしくじっと見ている。そんな様子をエイケさんとアウグさんにダリエルさんの三人も混ざって眺められ、困惑しながらもしっかりと丁寧に焙煎というか、フライパンで水分が完全に抜けて表面がほんの少しだけ焼けるまで焦がす。
出来上がったら板の上で広げて冷ましてその間にお湯の準備。沸騰しはじめたお湯に三分の一ほど入れると少しずつ煮だされ色が変わっていく。
「スープかい? それともお茶かい?」
「私はお茶だと思う~」
エイケさんは何なのかじっと考えているようだけど、デュロが簡単に当てて見せる。
匂いが分からないのでなんとも言えないけれど、そろそろお鍋を火から外さないと煮出し過ぎて不味くなってしまう。
木のコップで掬うと皆は思い思いの飲んでみた。
「さっぱりとした感じ」
「うん、飲み口は良いね。 それに初めて飲む味だよ」
「食べれる麦をお茶として使うなんて豪華な代物だねぇ」
そうなんだよねぇ。麦はなんであれ食べる事が出来るから、それをお茶として使うのは贅沢だと思う。
それに煮出した麦の部分はさすがに食用に回せないから、これはやっぱり貴族とか商人とか以外は手が出せない。それでも高価な品物として販売する事は出来る。
「これ、他のお茶にも使えそうです」
焙煎すると言う事に興味を持ったらしく、ダリエルさんは今まで作ったお茶を焙煎してみるらしい。果物の皮を焙煎しても
「料理にも使えるかもしれないね」
「やってみましょう!」
エイケさんとアウグさんは炒るってから使うという方法が、何か新しい料理に使えるんじゃないかと、あれこれと話し合いながらまた料理に取り掛かり始めた。
旅をする事36日、王都が近付いてくると街道も整備され見かける人達も多くなってくる。
その分注目されたりするのだけれど、兵士の人や商人の人達は侯爵の銘板を見ると何もしてくることはない。多くの面倒ごとを避ける事は出来ているようだけど。
屋台と露店を開いても商人らしき人達がじろじろと見てくるし、料理についてはステアーが唸り声をあげないと裏に回って調理方法を知ろうとしてくるのも居る。
後ろ盾が居る為に大事にならない程度ではあるけど、後ろ盾が居る為に探ろうとするのが出てきた感じ。ステアーも昼間休めずに動いているし、トーラスまで爪で威嚇したりと大変そう。
「さすがに手間だね。 ここまで邪魔なのがいるとなると、あたしやステアー達だけじゃ追い払うのも大変だよ」
イルレさんも毎日の事となると疲れてきたみたい。ここまでになってくると、正式に護衛の人達を雇った方がいいのかもしれない。だけどいろいろな事情もあるからそう簡単にできるわけもないし。
「王都に着いたら人手を雇った方が良いかもしれないな。 オレやイルレだけでは手に余りつつある」
カイの発言にイルレさんが頷く。やっぱりイルレさんも大変だと思っていたのだろう。
「それでも、雇うのは女で信頼できる奴だ。 それに伴って馬車の改造もいるだろう」
なかなか時間がかかりそうなことになるみたいだけれど、今の問題がある状態のまま旅を続けるより、一旦区切るように準備と体制を整える事には賛成。
「それがいいね」
「うん。 賛成だよ」
「次は、どんな馬車にしましょう」
「新しく雇う人は、ちゃんと選びましょう」
皆も好意的に考えているみたいで良かった。
王都がどんな場所なのかはわからないけれど、なんとか平穏に準備を整えられるといいのだけれど。




