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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
271/313

271.治療・医学?

 この世界基準では高学であるはずの貴族であるでさえ、消毒にトイレの衛生とかが曖昧で、神様に祈るとか祈祷とか錬金術的謎な医療とか、夫人からカイが説明を受けている間それを聞いてゾッとした。

 基本的な風邪に対する療養方法さえ間違え、なんだかんだと2週間留まり、瀉血しなければ治らないと主張する治療師と会うことあり、小さな騒ぎとなってしまった。

 治療士はカイに対して大声で怒鳴りつけるものの。


「治るというのなら、その身で毎日瀉血して見せろ」


 とカイが言うと健康な者が瀉血をすれば害になると治療士が言い切り、その直後カイに殴り倒された。

 健康な人に害があるものを体が弱っている人にやって大丈夫と言う不可思議な理論はなんだろうか。カイが殴り倒したのもなんとなくわかるというか、やっている事が無責任すぎる。


「知識もなく、自ら試す事もなく、それでよく治療士を名乗れたものだ」


 実際自分も自らで試したわけじゃないけど、最低限の知識としては知っている。それはやっちゃいけない事とか、悪化する事とか本当に最低限に過ぎないと思う。

 それでも瀉血だけを妄信している目の前の治療師の人より、肺炎起こしたりインフルエンザになったりした自分の方が、まだ治療に関する知識があると思う。主に治すための生活とかかかりにくくするための方法だけれど。

 治療士の人は悔しそうにしながらソミールレイル侯爵邸宅を出ていった。



 それから、少々卑怯だけれど、地球の現代の人なら知っているような超初歩的な病気や怪我に対する方法、治癒と病の女神の知識として信仰の対価に教えたのだけれど。

 ソミール夫人は感動してしまい、治癒と疫病の女神アルテ を信仰と言うか、狂信的に信じ始めていた。もちろんソミール夫人が無学や愚かと言うわけではなく、もう治らない可能性が高かった病気があっさり転じて治ってしまったことが原因だった。

 温かい食事の大事な事、バランスの良い食事、衛生やトイレの大切さなど、旅の皆がカイから教わって実践していた事なのだけれど、この世界ではかなり革新的な事だった。


 しかし妄信はかなり危険と言うか、それからカイがさらに2週間、ソミールレイル侯爵邸の庭の一角に皆で留まり、祈りの捧げ方とか注意点とかをきっちり教え込み、誤った道に進まないよう諭しながら出来る事出来ないことがあること、そして妄信はあの治療士と同じだと冷静に諭した。

 ソミール夫人がしっかりと納得してくれた事で、長く一ヵ月も居たここを旅立つことになった。


「エイケさんの料理を食べれなくなるのは残念ですわ」


 ソミール夫人は非常に味噌が気に入ったらしく、なんとか譲ってもらえないかとエイケさんが困るほど積極的に提供を求めた。結局余りの押しの強さと、相手が貴族と言う事でリンド商会 ソミール支店を介して販売する事になったのだが。


「味噌さえあればなんとかなりますよ。 あたい じゃなくて私の料理よりきっと上手く作れますから」


 料理の腕を買われてエイケさんとアウグさんに、残ってほしいと言われたけれど2人は断っていた。

 そして商会ギルドを通して味噌を融通する事と、ソミールレイル侯爵家がステアー商会の正式な後ろ盾となった。

 ステアー商会に不義理を働いたり犯罪行為を行えば、それはソミールレイル侯爵家に対したと同じことになるらしく、商会と貴族相手ならほぼ安全と言える。

 後ろ盾は守りでもあるけれど制約でもある、他の貴族の下にはつかないという約束、代償は大きいかもしれないけれど得られるものも大きいと信じたい。

 渡された書状と、荷車と屋台車に張り付けられたソミールレイル侯爵家の印が入った板。これがあれば大抵の事は大丈夫とのこと。


「私はあと一月ほど滞在しますが、王都に来たらぜひ屋敷に来てください。 夫と子供達にも食べさせたいので」


 夫人は念のため一ヵ月休養し、それから王都に戻る。連絡の都合とかもあるのだろうけれど、王都では本当に治せるあてもなく、そして運よく時間だけが解決してくれる病、ほとんど治らずに終わってしまう病気が、短期間で完治したことが中々受け入れられないかもしれない。





 ソミールの町を離れて再び南にあるアルスト教団の支部に向かう。はずだったんだけど。


「ようやく一息付けるよ」

「粗相をしないか心配で心配で」

「本当によく眠れませんでした!」


 侯爵邸の庭とは言え、一角で暮らすために粗相をしないようにとあんまり落ち着くことが出来ず、なんとなく皆疲れていた。

 ソミールの町から離れて4日、小さな名もない村の広場で一回休憩を入れている。


「あの、カイさん。 病気の治し方、沢山知っているんですか」


 病気と言う事柄から、アキュラさんが反応がおかしい。何か気になる事でも以前あったのだろうか。


「オレが知って居る事は少ない。 治療と病を司る女神とて簡単に知識を与えてはくれない」


 本当に詳しいわけじゃないし、何もかもわかるはずもない。薬だってこの世界で用意できるか分からないから、出来る事なんて本当に限られる。

 医学書……なんてものが納入品などにあったとしても読めるわけもないし、正直基本的知識がないんだから正しく理解なんて出来ないと思う。


「ちゃんと、信仰すれば女神様は教えてくれますか。 もしそうなら」


「やめておけ」


 カイはアキュラさんの言葉を制止する。


「そう簡単に心身を捧げるものじゃない。 神々はそんなものを求めても居ないし、人間の心身にそのような価値もない。 深き信仰とは裏切らず倫理に従う事、そして依存せず自律する事、利用せず努力する事、全ては簡単ではない」


 アキュラさんは俯き何も言わない。


「神々にとってはほんの一瞬、信仰を深めていく時間など大したことはなく待っていてくれる。 祈りや神儀についてはオレが教えるから、ゆっくりとやっていけばいい」


「……わかりました」


 普段から物静かな雰囲気はあるしヴェールで隠してもいるけれど、アキュラさんの表情がとても暗い。

 カイもそれを察したらしく、久しぶりに見る笑顔でアキュラさんに優しく話を続ける。


「何か急ぐ理由があるのなら、医学だったか。 少しくらいはオレが教えても良い。 知って居る事は限られるがな」


「お願いします。 ぜひ知りたいんです」


 喜ぶアキュラさんは、本当に何か言えない理由でもあるのだろうか。

 いつかは自分から話してくれるといいのだけれど、自分もカイも詮索はしない。

 仲間とか家族とかそういうわけじゃないけれど、言いづらいことを無理に言わせても何も良いことはないから。

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