270.軽傷だけど重病
「アキュラ、何言ってるんだい?」
「前に難しいって話したじゃない」
皆が難しいとカイが言ったとおり止めるけれど、それでも普段静かなアキュラさんは諦める様子もない。
「きっと喜びますし、何かあった時に……・後ろ盾になってくれると思うんです」
確かに、色々目を付けられかねない状況だと思う。少しずつだけど料理の事が知られているし、リンド商会からの支払金で金貨はどんどん増えている。
何か起こった時に後ろ盾になれるような、信頼できるそんな人が必要かもしれない。
「確かに、必要かもしれないよ。 町や村に長く留まっていると変なのが出るし。 ほらあそこ」
エイケさんが視線を向けた先には、こちらをじっと見ている男たちがいる。またストーカーもしくは声をかけようとしている連中だろうか。
ステアー商会として商業ギルドに登録してあるから、たぶん以前みたいに夜這い賭けようとするのがいないのだろうけど。
味噌や醤油っぽい物の事もあるし、悪質な商人もいたから、やっぱり安全の為には後ろ盾になってくれる力のある貴族が居た方がいいかもしれない。
そうなると侯爵という肩書を持つソミール夫人?を治療して、後ろ盾になってもらうのも手かも。
「ステアー商会に手を出したら侯爵家が黙っていないってことだね。 確かにそれはいいかもしれないけど」
イルレさんがたぶん考えているのは、カイが治せるとは限らないということ。実際に治せるかはあってみないとわからないし、最悪また町の外で対応しなきゃいけないかもしれない。イルレさん達は信頼もあって黙っていてくれるけど、他の人達にアレがなんなのか誤魔化せる気がしない。
「そうだな。 治せるかどうか、診るくらいは良いだろう」
納入品一覧の中から、総合風邪薬と栄養剤を出しておこう。これで治ってくれればいいけれど、もし結核とかインフルエンザみたいなものだったらどうしよう。
カイは所持している中で司祭服に似ているようなものを選び、鎧を脱いで着替える。元々高位の神官でもあるから、とてもよく似合う。
「アキュラ お前もついてこい。 リョウ 行くぞ」
カイとアキュラさんが車体の上に乗り、町を離れてソミールレイル侯爵邸へと向かう。
立派な屋敷は塀に囲まれ、門の前には4人の兵士の人が守っていた。自分の姿を見ると集まり持っていた槍を向けられるけど、カイが車体から降りる。
「治療士だ。 夫人の治癒の為に訪れた。 身元はこちらで保証できるだろう」
カイがパーマー子爵の子息とブラウン伯爵の身元保証の書状を見せる。もらった事情は異なるけれど、身元保証状とはつまりこの人は私が紹介しても大丈夫な人間という後ろ盾のようなもの。
兵士の人は書状を受け取り、中身を確認する。
「……確かに。 少々お待ちください」
一応信頼してくれたらしく、門を守っていた兵士の一人が屋敷に向かって走っていった。
「カイさん。 私は何をすればいいんでしょうか」
アキュラさんも大分落ち着いているけれど、まだまだ男性不信と対人恐怖は安定していないから少し震えている。
「治療する方法が気になっていたのだろう。 静かにハープを奏で、何をするか見て居ろ」
アキュラさん、治療する方法がきになっていたの?自分はそんなことに全然気づかなかったけれど。
「はい。 しっかり見させてもらいます」
そのまま門の前で待たされ、いくらかすると兵士の人が走って戻ってきた。
「どうぞこちらへ」
庭に案内されると、履帯が轍を作るのをすこし嫌な顔をされるけれど、そこは申し訳ない。
庭には夫人が背を預けるような大きな椅子に座っていた。見た目は30代前半くらいだろうか。綺麗な赤みのかかった金髪を纏めた綺麗な女性。
「治療士とお話を聞いております。 ワタクシの病は王都の治療士でも治す事が出来なかったのですが、治療方法があるのですか?」
「診なければわからない。 だが治したい故に会っているのだろう」
妖しさ満点としか言いようがないのだけれど、実際治したいのかどうかは夫人次第。
「本当に……、治るのでしたら、お願いいたします」
信仰を広げる目的と安全の為に、だからこそソミールレイル夫人を治療をすることになった。
「さて、それではすまないが状態を見させてもらおう。 一応言っておくが、オレは女だから気にする必要はない」
夫人が顔を隠していたヴェールを上げると、顔色は真っ青でいまにも倒れてしまいそうだった。でも、これってどこかでみたことがあるような。
診察と言うか、腕や首をすこし触れただけでカイはため息を付いた。
「瀉血のし過ぎだ。 貧血になっているじゃないか」
じっくりと診るまでもなく貧血と言い切った。
「咳は出ますし、熱もあります。 それに足元もふらついて心の臓も辛いのです」
「瀉血をし過ぎるとそうなる。 どんな馬鹿錬金術士か治療士に頼んだかは知らないが、もう少しまともな者を雇うことだ」
たぶん、カイのいう通り瀉血のし過ぎによる免疫の低下による複合的な風邪、だから栄養をしっかり取って瀉血をしないだけでだいぶ良くなるはず。素人考えだけど。
でも確かにそうだった。歴史の本にも書いてあったし、瀉血が最良の医療であったことがあるから、病気ならそれをしていた可能性がある。
体が弱っていても瀉血なんてしていたら、治るわけもないしどんどん悪化していくはず、地球の医学って本当に長い間沢山の犠牲と研究の果てに到達しただけあって、悪い事は大体わかっている。
生き物である以上この世界の人達も大体同じなことは変わらないはず。
カイは新しく掘った小さな女神像をテーブルの上に置き、小さな声で何かを唱え始める。
それは祈りの言葉だったのか、神像がうっすらと光ると共にソミール夫人も光で覆われ、時間と共に光が収まっていく。
カイは唱え終えると神像をソミール夫人に手渡す。
「少しは体が楽になっただろう」
「あの、今のは一体?」
「病を司る女神の加護を与えた。 少し待て、アキュラ、落ち着く曲を頼む」
ソミール夫人が驚いている中、アキュラさんがハープを奏で始めると、カイは後部ドアから車内に入る。
「リョウ あるか?」
大体何を求めているのかはわかる。
前もって出しておいた総合風邪薬と栄養剤のドリンクタイプと錠剤タイプ、正直言って栄養剤は不味い。
イルレさんとエイケさんも不味いと言っていたけれど、体調がよくなるからと言ってカイに無理やり飲まされていた。
カイは全ての封を開けて一回分を器に入れる。たぶんというか確実に不味い。でも、どんなものを使われているか理解させないためには、これくらいの方がいいと思う。
車内から出ると薬の入った器を夫人に渡す。
「次にこれを飲むんだ」
ソミール夫人は凄く不味そうに飲んでいる。でも、頑張って。
「これでだいぶ良くなるが、当分は治療の為に2日に一度は診に来るが、瀉血はするな。 もし治療士が何か言ってきても、オレが来るまでは瀉血だけはしないように」
「……わかりましたが、もう少し飲みやすい物に出来ません?」
栄養剤そのものの味もかなりアレだし、それに栄養剤の錠剤と総合風邪薬を混ぜたのだから、もうどうしようもなく不味いと思う。
「それは、考えておく。 だが弱った体にはこれが必要であることは変わらない」
治ってもらわないと困るし、沢山ある自衛隊への納入品等から探しておかないと。一つ一つの納入品の詳しい説明まで読むと大変だし、それこそ膨大にあるから時間がかかってしまうから、数日の間は風邪薬と栄養剤を主に確認しないとだめかな。
「それで、この像は一体?」
夫人は不思議そうに手渡された像を見ている。
「いった通り病の女神像だ。 加護を与えて治るように願っている。 大事に扱うようにな」




